Q&Aで学ぶ契約書作成・審査の基礎 第5回 – 契約条文の順番・書き方

 

初めて一から契約を起草(drafting)する場合、契約の条文構成(順番)や個々の条文の書き方に悩むかもしれません。そこで、今回はそれらについてのヒントについて解説します。

なお、本Q&Aは、全く新任の法務担当者(新卒者や法学部以外の出身者を含む)も読者として想定しているので、基本的なことから解説していきます。

 

【目  次】

(各箇所をクリックすると該当箇所にジャンプします)

Q1: 契約書の条文構成(順番)の例は?

Q2: 契約書の条文構成(順番)のルールは?

Q3: 個々の条文の書き方は?

Q4: 独立した定義条項は置くべきか?

Q5: どこまで詳細に規定すべきか? 

 

Q1: 契約書の条文構成(順番)の例は?

A1: 以下に、一例として、メーカー標準製品の売買の取引基本契約の条文の順番(構成)の例を示します(甲:売主、乙:買主。文末は便宜上「……する。」に統一)

(注)「取引基本契約」は注文書・注文書により成立する個々の契約(個別契約)に共通して適用される条件を規定した契約の一般的な名称。

 

 

I. 総論的事項 

 

 

目的:(例1)本契約に従い、甲は…製品を乙に販売し、乙は…購入する。(例2) 本契約は…売買取引について定める。

適用範囲:(例)本契約は、… 個々の契約(以下「個別契約」という)に共通して適用される。

個別契約:(例)製品の品名、数量…は個別契約に定める。個別契約は、…注文書……注文請書……した時に成立する。

– 場合により最初の方に定義条項を置く

 

 

II. 契約の履行自体または履行段階の条件

 

①(製品の)納入:(例)甲は、個別契約に定める納入期限・納入場所に従い…納入する。

②(製品の)受入検査:(例)乙は、製品を……検査し、製品の数量…に相違があった場合…甲に通知する。

所有権移転・危険負担:(例)製品の所有権および危険負担は、…した時に甲から乙に移転する。

代金支払い:(例)乙は、製品の代金を…日以内に…により支払う。

 

 

III. 契約履行に問題が生じた段階または場合の条件

 

保証(または契約不適合責任):(例)甲は、製品が…受入検査合格後1年間…仕様に適合することを保証する。…保証に適合しない……場合、…

第三者の知的財産権侵害:(例)製品が第三者の特許権…を侵害するとして…請求があった場合…

– 他に不可抗力等

 

 

IV. 契約終了段階の条件または一般条項(どの契約にも共通して規定されることが多い条項)

 

秘密保持

契約期間

契約解除

期限の利益喪失

損害賠償(または責任の制限)

⑦契約(上の権利義務)の譲渡禁止

合意管轄

協議解決

– 他に反社会的勢力の排除条項等

上記の条項例(項目)はあくまで例であり、契約に規定すべき事項は各契約の種類・内容により変わります

例えば、もし、この取引基本契約が特注品の売買に関するものであれば、上記に加え、乙から甲への支給品・貸与品/甲から第三者への製造再委託等に関する規定が必要かもしれません。また、単発の売買(1回限りの売買)の契約であれば、最初に、売買目的物、仕様、数量、価格、納期、納入場所等を具体的に規定する必要があります。

 

Q2: 契約書の条文構成(順番)のルールは?

A2: 特に決まりはありませんが、Q1の例のように、一般的には、時系列/総論から各論へ/原則から例外へというような流れの組み合わせにより、なるべく普通の人が理解し易く頭に入り易いように書くことが望ましいと言えます。

これは主に以下のような理由によります。

契約書の想定読者のため: ここで言う想定読者には、自社と相手方のビジネス担当部門、相手方法務部門、そして将来その契約について紛争が発生した場合には裁判官が含まれます。

(理由)本シリーズ第1回(作成・審査の意義等) Q1で解説した通り、 契約書には、契約履行時のルール(当事者の行為規範)としての機能/契約内容の証拠としての機能などがありますが、これら機能を十分に発揮させるためには、上記のような流れにより、可能な限り想定読者(ビジネス担当部門も含まれるから結局一般人が基準となる)が理解し易く頭に入り易いように書くことが適切と言えます。

契約作成者自身のため: 契約書を起草する法務担当者にとっても、頭に入り易い順番で書いていくことことにより、必要事項を規定し忘れること(抜け落ち)を防止し易くなります。相手方起草の契約書案をチェックする場合も、この流れを意識すること(自社のひな型や条項チェックリスト等を使う場合を含む)によりチェックの抜け落ちを防止し易くなります。

 

Q3: 個々の条文の書き方は?

A3: これも特にルールはなく当事者の権利義務を明確かつ正確に書くことが重要です。筆者の経験上、以下のようなことが参考になると思われます。

【基本表現】契約書は、契約当事者間の権利義務を規定するものです。従って、契約書の最も基本的な表現(以下「基本表現」という)は以下の通りであり、契約条文は、原則的にはこの基本表現により書いていくということになります。

(義務)甲(乙)は、…するものとする/しなければならない

(権利)甲(乙)は、…することができる(ものとする)。

このように、主語は基本的に「甲」または「乙」(場合により「甲および乙」等)になります。もっとも、時々、以下のように契約当事者以外を主語とする場合もあります。

(例1)「本契約は、…個別契約に共通して適用される。」

(例2)「製品の所有権は、受入検査合格時に甲から乙に移転する。」

(例3)「製品の保証期間は……から1年間とする。」

しかし、上記いずれの例も、結局は、両当事者が上記各内容に従う義務(および例2では甲乙の所有権の得喪/例3では1年間の保証の権利・義務)を示しており、契約当事者の権利義務を規定していることに変わりはありません。

【権利・義務の主語とその述語目的語等が明確な文章を書くこと】契約書は契約当事者間の権利義務を規定するものですから、その権利義務の主体(具体的には主語)と権利義務の内容(具体的には述語・目的語等)が明確になるように記述することが重要です。このため、筆者の場合、英語の基本5文型、特に第4文型「SVOO」(主語(S)が目的語1(O1)に目的語2(O2)を~(動詞V)する)を意識して条文を書くようにしています。

(例)「甲(O)は、乙(O1)に製品(O2) を納入する(V)ものとする」

このように英語の基本5文型を意識するのは、それを意識して書くと、権利義務の主体と述語の関係が明確になり易いからです(なお、日本語で書いた条文がうまく英訳できない場合その条文の構造に問題がある場合が多い)。

【権利・義務の具体的条件または仮定的条件を明確にすること】物事を正確・的確に相手方に伝える方法として、5W1H:Who(だれが)/When(いつ)/Where(どこで)/What(なにを)/Why(なぜ)/How(どのように)を意識すべきだと言われます。この内、「だれが」は上記の主語(S)、「なにを」は上記の目的語1(O1)、「なぜ」は契約書には通常不要ですが、「いつ」・「どこで」・「どのように」等は、権利義務の具体的条件・内容として、上記5文型の中で明確に記述する必要があります。

(例)「甲(O)は、…日以内に(いつ)、…において(どこで)、……梱包方法により(どのように)、乙(O1)に製品を(O2)納入する(V)ものとする。」

また、権利義務発生の仮定的条件がある場合(「…の場合、…」等と記述。英語では“When,” “If,” “In the case of” 等)にはその仮定的条件を明確かつ正確に規定する必要があります。

(例)「製品に前項の保証に適合しない事項が生じかつ乙が前項の保証期間内に当該不適合を甲に通知した場合、甲は、速やかに、当該製品を保証に適合するよう修理するかまたは保証に適合する製品と交換するものとする。」

【修飾語の修飾関係が明確かつ一義的に解されるように書くこと】(例) 「保証期間内に製品に保証に適合しない事項が生じかつ乙が当該不適合を甲に通知した場合」では、「保証期間内に」は、「保証に適合しない事項が生じ」だけに係るのか(すなわち、通知は保証期間経過後でもよいのか)、それとも、「通知した」にも係るのか(すなわち、通知も保証期間内でなければならない)のか不明確。そこで、この文を、「製品に保証に適合しない事項が生じかつ乙が保証期間内に当該不適合を甲に通知した場合」または「保証期間内に製品に保証に適合しない事項が生じかつ保証期間内に乙が当該不適合を甲に通知した場合」等と修正。

【同じ意味の事項には同じ言葉を使うこと(用語の統一)】一般の文章では、同じ文章中で同じ語句を重ねて使うとくどい感じがするので2番目は言い換えるのがよいと言われる場合があります。しかし、契約書では正確性がより重要なので、仮にくどくなるとしても、同じものを指すのであれば、基本的には言葉を変えず同じ言葉を使うべきです(そうしないと意味が異なると解釈される可能性がある)。(例) 「製品を納入する」と「製品を引き渡す」はどちらかに統一する。

また、同じ理由で、定義された用語は、一貫してその用語を使う必要があります。

【一文をなるべく短くすること】契約条文に限らず、一文が長い文章は分かりにくくなりがちです。長いことに理由があればやむを得ませんが、そうしても意味が変わらないのであれば別々の文に分けて分かり易くすべきです。

【箇条書きを適宜利用すること】一文が長くなる場合の一つとして、文章中に並列的関係の言葉が多数並んでいる場合(……、 ……、……、……および/または……)があります。そのような場合には箇条書きを利用することが考えられます。

(例)本文には「……以下のいずれかの場合……」/「……が以下の全ての事項を行うことを条件として……」などと書き、その場合・事項等を本文の下に箇条書きで書く。なお、ここで、「いずれか」(or)なのか「全て」(and)なのかを明確にすること。

【原則と例外を分けて規定すること】これも長文を避ける方法の一つですが、「甲は、○○○○の場合を除き、……。」のような文章の場合、○○○○部分が短ければ問題ありませんが、長い場合は読みにくくなります。そこで、そのような場合、①「甲は、……。」と原則を書いた後に、「但し、○○○○の場合は、……」と但書を書いて、二文に分けるか、または、②「前項(の規定)にかかわらず、○○○○の場合は、……」等として項を分けて書く方法があります。

 

Q4: 独立した定義条項は置くべきか?

A4:特に決まりはありません。日本国内で締結される契約書では、契約書中に何回も登場する用語であっても、その用語が最初に出てきた都度、「…○○○○(以下「××」という)…」のように定義していくことの方が多いと言えます。しかし、以下のような場合は、独立した定義条項を置いた方がよいでしょう(規定箇所としては通常第1条か第2条)。

①契約書中に定義の必要がある言葉の数が多く(例えば5つ以上)登場する場合

②それぞれの定義(上記の○○○○部分)が長い用語が複数ある場合、など。

(独立した定義条項の例)

第○条(定義)

本契約において用いる用語の意味は次の通りとする。

(1)「○○」とは……を意味する。

(2)「××」とは……を意味する。

(3)…………

【解 説】

従来、日本国内で締結される契約書では、契約書中に何回も登場する用語が複数あっても、その用語が最初に出てきた都度、その箇所で定義することが多かったと言えます。

(例)「…甲の取扱う○○○○製品(以下「製品」という)…の売買に関し…」/「…本契約の有効期間中に次項の規定により成立する製品の個々の売買に関する契約(以下「個別契約」という)…」

一方、近年は、特にIT関連の契約等では、第1条等に独立した定義条項を置くことが多くなりました。その理由としては、これら契約では、上記①②の理由の他、必ずしも定まった定義のない概念・複雑な概念を扱うことや米国流の契約(独立の定義条項を置くことが多い)の影響を受けていることが考えられます。法令でも、例えば、令和2年改正個人情報保護法にもし定義規定(第2条)がなければ、改正により更に複雑になったこの法律において各規定を的確に記述することは不可能でしょう。

 

Q5: どこまで詳細に規定すべきか?

A5:これはなかなか悩む点ですが、無暗に詳細なことは却って有害であり、以下のようなことを考慮して適度な詳細さを追求すべきです。

①その規定において想定されているケースやリスクの現実的発生可能性と重大性はどの程度か。

②それを規定することにより、無意味に契約交渉の項目が増えたりまたは交渉を長期化させる結果にならないか。

③その規定事項につき、相手方も受入れ可能な解決策(規定内容)はあるか。

④それを規定しなくても、法律・判例または裁判所の判断に委ねることができないか。

⑤それを規定し、相手方の方が契約交渉上強い立場にあるため却って自社に不利な内容を押し付けられる結果(いわばやぶへび)とならないか

【解 説】

自社で契約書案を作成する場合(例:自社が買主側の取引基本契約のひな型)、可能な限り、自社に有利になるようまたは自社にとってのリスクをなくそうとして、あらゆるケースを想定し、契約書案が非常に詳細になってしまうことがあります。また、相手方起草の契約書案に対し、カウンタードラフトを作成する際も、同じ理由で追加する規定が非常に多数または詳細になることがあります。

この場合、自社案のまま相手方に受入れさせることができればいいかもしれませんが、相手方でも然るべき法務審査がなされれば, 契約交渉の項目が増え、契約締結までに長期間を要しまたは最悪の場合契約が締結できない結果になりかねません。

一方、リスクの中で現実に十分発生可能性があり、かつ、それが自社にとり重要であり、相手方も受入れ可能な合理的な解決策(規定内容)があり得るのであれば、それについては、明確な規定を置くべきでしょう。

この判断は、一律・機械的にできるものではなく、契約交渉の経験の中で身に着けていくか、または、経験者の知見に頼ることなどしかありません。

 

今回はここまでです。

 

「Q&Aで学ぶ契約書作成・審査の基礎」シリーズ

(参考)「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」シリーズ

[1]                 

【注】                                   

[1]

 

==========

【免責条項】

本コラムは筆者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラムに関連し発生し得る一切の損害等について当社および筆者は責任を負いません。実際の業務においては、自己責任の下、必要に応じ適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

(*) このシリーズでは、読者の皆さんの疑問・質問等も反映しながら解説して行こうと考えています。もし、そのような疑問・質問がありましたら、以下のメールアドレスまでお寄せ下さい。全て反映することを保証することはできませんが、筆者の知識と能力の範囲内で可能な限り反映しようと思います。

review「AT」theunilaw.com(「AT」の部分をアットマークに置き換えてください。)

 

 

【筆者プロフィール】

浅井 敏雄 (あさい としお)

企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表/一般社団法人GBL研究所理事

1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで企業法務に従事。法務・知的財産部門の責任者を米系・日本・仏系の三社で歴任。1998年弁理士試験合格(現在は非登録)。2003年Temple University Law School (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事、国際取引法学会会員、IAPP (International Association of Privacy Professionals) 会員、CIPP/E (Certified Information Privacy Professional/Europe)

【発表論文・書籍一覧】

https://www.theunilaw2.com/

 

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