テレワークと労働法制

1. コロナ禍とテレワークに関する労働法制

長引くコロナ禍中も第3波が到来して久しく、欧米製のワクチンの接種も既に開始している。働き方改革が開始された直後より襲ったコロナ禍のために否が応でもの選択であったが、とかくテレワークについて多くの議論がなされ、2度目の緊急事態宣言下では以前と比較して随分と多くの人がそれに慣れ、最初は批判的であった一部の風潮も肯定的なものが増えてきたと思われる。欧米ではテレワークに関する法制が既に制定・施行されている国もあり、今後更に発展することが考えられる。必然的な流れなのかどうかわからないが、テレワーク=欧米型のジョブ型成果主義と直結するという議論が多く、対する日本型のメンバーシップ型年功序列主義と対比して語られることが常となっている。確かに日本よりも感染が拡大している国では厳格なロックダウンの実施により、テレワークが働き方の主流になっている国もあるが、日本でも厚生労働省が「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」を策定し、行政指導を実施している。ここでは労働基準法第38条の2で規定する事業場外労働に関するみなし労働時間制(以下「事業場外みなし労働時間制」という)がテレワークに適用されるとし、いくつかの要件を満たすことをその条件としている。従来コロナ禍前は対面で仕事を行うことが当然であり、労務管理=労働時間管理という不文律があった。しかしテレワークでは使用者の具体的な指導監督を行う上で労働時間算定が困難であるため、同ガイドラインで述べられている事業場外みなし労働時間制が適用される。そのための条件と問題点等について述べてみたい。

 

2. 事業場外みなし労働時間制適用の要件

以下の2つである。

(1) 情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと。
(2) 随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと。

一見逆のように思えるのであるが、この2つを満たさなければ、テレワークにおいて「使用者の具体的な指導監督が及ばず、労働時間を算定することが困難」ではなく、労働時間算定が可能であると判断されているのである。
逆に満たしていれば労働者はテレワークによって、就業規則等で定められた所定労働時間を労働したものとみなされる。
またそれを超えて労働することが必要な場合は、当該業務の遂行に通常必要とされる時間を労働したものとみなされる。
この「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」についてはその実態を踏まえて労使協定でそれを定めるべきであるとしている。これと似て非なるものとして裁量労働制があるが、これは専門業務や企画業務を対象としたものであり、官庁や一般企業ではより通常の一般的な業務に対してもこの「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」を算定し、監督行政庁にまで届け出ることが要請されている。簡単に言えば相当一般的な非専門的な業務の多くに通常かかる時間を算定し、行政に届けることが義務とされていることになる。

制度としては正当であっても千変万化な人の能力や業務効率がある中でこういった時間を極めて正確に算定することは非常に難しいと思われ、結果的に個人差は対する配慮を欠いた機械的で大ざっぱな数値が基準とされることになるのではないかという懸念を抱いてしまう。

 

3.労働安全衛生法令の適用

同ガイドラインでは過重労働対策やメンタルヘルス対策として、対面型の業務と同様に健康診断、長時間労働者に対する医師との面談、ストレスチェックの実施という労働安全衛生法で定められた対策がそのままテレワークにも適用されるとしている。何と言っても使用者が従業員を可視できる範囲が極端に少ないテレワークでは、より踏み込んだ安全管理、安全配慮の仕組みが必要であるとも思われるが、現在はこれら以上のものはない。むろん対面型の業務においても可視できたとしてもなお、使用者には思いもよらぬ事態は発生しうるのであり、この点は特に労働者の健康への配慮として今後一層の取り組みを期待したい。

 

4.テレワークが目指すものはジョブ型雇用?

本格的に始まったきっかけはコロナ禍であっても、テレワークは現在日本が課題としているホワイトカラーの生産性を向上させるものとして有効な手段として発展させる必要があることに変りはない。従来の労働時間管理は成果物の有無や出来ばえとは今一つ関連性に乏しく、極端に言えば、「会社に来てさえいれば仕事をしている。」と思われる状況が多分にあった。
しかしながらテレワークが浸透してから、「仕事をしているように見える」労働者と「具体的に成果を出している」労働者が多分に異なっている事実があることが明白になった。多くの人の意見によれば、これはテレワークの普及によって労働者が変化したのではなく、もとからあった労働者の本質がテレワークによりガラス張りとなり可視化・顕在化したに過ぎないと言われている。その通りであれば生産性向上のためにテレワークによって可視化された成果を基準に労働者の評価を行うべき=欧米型のジョブ型雇用という結論に行き着く。しかし現実にはまだ一部のサービス業等を中心に業務の性質上そもそもテレワークが不可能な事業も多く存在し、少なくても当面はテレワークと対面との両方をある一定のバランスを持って世の中が動いてゆくことになり、その過程で世代間の考え方の相違やそれぞれの職場の文化的背景の相違等により、それなりに価値観のぶつかりあった内容のものが生まれることになると思われる。世間ではテレワーク社会は必然的に、ニューノーマルとして避け難いものであるという意見が大勢を占めている。いくつかの大企業でもコロナ禍によるテレワーク化をきっかけにジョブ型雇用に移行することを発表している。多くの議論があるにせよ、最終的には成果主義の雇用形態に変え、生産性を高めるということが目標であろうと思われる。これは従来あまりに日本の企業が成果以外の事由による評価制度を継続してきたことの裏返しでもあるが、日本の企業社会では真にプロの専門職として評価できる人材はわずかしかいない。ましてや新卒の採用段階では、一部の企業がAIの技術者を例に挙げているが、学生から社会人になる過程でそのような評価を得られる人間は果たしてどの程度いるのか?いつもながら繰り返しであるが、実際に成果主義は日本社会で機能するモノなのかどうかはなはだ疑問であり、この点からも労働法制の改訂や新ガイドラインの策定によるサポートが今後とも必要であると考えられる。

 

5.今後の見通し

近年は社会の変化が激しく、またそのスピードが非常に速い。AIやRPAの進化も急速であり、常にその時代の変化を意識しなければあっという間に乗り遅れてしまいそうである。ただ、新たな環境に順応し、成果を挙げてゆくためにはその分野の法制の整備が不可欠である。更に法制として近年はコンプライアンスの観点からも不可避であるダイバーシティ、環境経営、健康経営の点からも今後見直しが図られるべきである。今後ともそれなりの障害があるにせよ、テレワークは働き方の主流となってゆく方向にあることは間違いないと思われ、労働法制がこの流れをバックアップする方向で運用されることを願いたいものである。

 

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

【筆者プロフィール】
丸の内の世捨て人

建設系の会社の法務部門に通算20数年在籍し、国内・海外・各種業法・コンプライアンス関連などほぼ全ての分野に携わった経験を持つ。事業部門経験もあり、法務としてもその重要性を事あるごとに説いている。米国ロースクールへの留学経験もあり、社内外の人脈も広い。

 

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