ゼロから始める企業法務(第17回)/法務と人事評価

皆様、こんにちは!堀切です。これから企業法務を目指す皆様、念願かなって企業法務として新たな一歩を踏み出す皆様が、法務パーソンとして上々のスタートダッシュを切るための「ノウハウ」と「ツール」をお伝えできればと思っています。今回は法務が企業内で人事評価を受ける際の、目標の定め方について記事にしたいと思います。

 

法務が「法務」として大きく評価されることは少ない

企業内で働くビジネスパーソンであれば、誰もが年に1回または複数回の人事評価を受け、翌期の給与や賞与が査定されます。これは法務でも変わりはありません。ただし、法務が企業内で100%「法務」として大きく評価されることは少ないです。企業の価値は、利益を生み出すことなので、いくら業務を適切に行っていても、それが「利益」につながらない限り、企業内で大きな評価を得ることはできません。一方で、法務のルーチン業務である契約書の起案・審査や株主総会、取締役会事務は、企業が活動するうえで重要な業務なのですが、「利益」につなげにくいからです。ですので、皆様が企業内で大きな評価を得ようと思うのであれば、「法務」である前に「ビジネスパーソン」として会社にどう利益貢献するかを考える必要があります。

 

「法務」が法務を評価するとは限らない

さらに、私たち法務の評価者が「法務」とは限りません。法務部、法務室等、法務だけで1つの部署を構成する会社は少なく、多くの会社で法務は、「経営企画部、法務課」や「人事総務部、法務担当」等、バックオフィス部門の機能の1つとして所属しているかと思います。その場合の法務の評価者は「経営企画部長」や「人事総務部長」となり、時には法務としての専門的な業務経験の無い上司が、法務を評価することになります。これも、法務が「法務」として大きな評価を得にくい一因でもあります。例えば、契約書ひな型の改定や約款の整備等の、法務的な課題の解決を期初の目標に立てても、法務畑を歩んでない上司には「刺さらない」場合が多いのです。

 

評価者が「法務」であった場合も評価軸はまちまち

法務部、法務室等がある会社であれば、法務部長や室長が評価しますが、その場合も、評価者のバックグラウンドによって、その評価基準はまちまちです。契約法務、商事法務、知的財産等、上司によって、その上司の評価軸や、「刺さる」法的な課題も変わってくるのです。

 

重要なのは、評価者と「目線」を合わせること

以上の様な状況下で法務が評価されるためには、評価者のバックグラウンドに合わせた期初の目標を立てることで、「目線」を合わせることが重要です。例えば、評価者が人事総務部長であれば、「法務審査ワークフローの確立」、「反社チェック体制の確立」、「社内規程の整備」等、組織の課題解決に関する事項を、経営企画部長であれば、「取締役会、株主総会のより効率的な運営」、「KPIに基づくより実効的な取締役会報告資料の作成」、「資本効率の向上に資する資本政策の提案・実行」、「グループ内組織再編の提案・実行」等、経営の課題解決に関する事項を期初の目標に立てると、上司と課題に関する目線が合い、評価を高めることにつながると思います。評価者が法務部長や室長であった場合も、例えば、上司の歩んできたキャリアが契約法務であれば、「精緻かつ会社のリスクをヘッジした契約書のドラフティング」、「契約案件の回答納期短縮」等、商事法務であれば「株主総会の想定問答の的中率を上げる」、「自社インセンティブ・プランとして適したストック・オプションを提案・実行する」等、知的財産であれば「特許の出願件数を増やす」、「開発検討中のプロダクトに関する、競合他社の特許を回避する方法を事業部に提案、実行する」等の、上司のキャリアや趣向性にあった目標を立てると、共感を得やすいです。もう一つは、上司の苦手分野をフォローできる目標を立てる方法もあります。この様に、評価者のキャリアや趣向性を把握し、解決したい課題について期初の目標設定面談ですり合わせを行うと、立てるべき目標も明白になり、自己の評価を高めることにつながると思います。

 

「利益」につながる目標を立てることも重要

前述のとおり、企業の価値は利益を生むことにあるので、自分の立てた目標が、会社の「利益」につながっているかを検討することも重要です。法務は会社の「売上」に貢献することはできませんが、「利益」に貢献することはできます。利益貢献として分かり易いのは「コストカット」ですが、業務を効率化し、見えないコストである「ムリ」「ムダ」「ムラ」を省くことも、利益貢献の1つです。そのためには、まずは業務を「可視化」することが重要です。例えば契約書業務1つとっても、契約書管理台帳を付けることで、各契約案件の大体の納期を把握することができ、そのうえで、納期を1日でも短縮する方法を検討し、提案することが、業務の効率化につながります。株主総会、取締役会業務についても、工程管理表を作成すれば、各工程の短縮や効率化する方法を検討し、提案することができます。この様に、ルーチン業務についても可視化と効率化による改善をすることが、自己の評価を高めることにつながると思います。

いかがでしたでしょうか。皆様がこれから取り組む業務に少しでもお役に立てるヒントがあれば幸いです。

 

 

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

 

【筆者プロフィール】
堀切一成

私立市川中学校・高等学校、専修大学法学部法律学科卒業。
通信機器・材料の専門商社で営業に 7 年間従事した後、渉外司法書士事務所勤務を経て法務パーソンに転身。
JASDAQ上場ITベンチャー、東証一部上場インターネット広告会社、スマホゲーム開発会社、Mobilityベンチャーでの法務、経営企画等に従事後、現在はライブ動画配信プラットフォーム提供ベンチャー初の法務専任者として日々起こる法務マターに取り組んでいます。

 

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