労働者に関する法律上のカテゴリまとめと正規非正規格差問題(後編)

はじめに

本コラムは、ビジネスの現場で法務担当者が本当に役立つためにはどうしたらいいか、という視点で様々なノウハウをお伝えしています。今回は、前回のコラムでご紹介した労基法上の「労働者」に該当する様々な雇用形態のうち、自社で直接雇用している契約の定めのない(いわゆる正規の)労働者と、有期契約を締結した(いわゆる非正規の)労働者との間で生じている待遇差異の問題について取り上げ、雇い入れる企業として非正規の労働者に対してどのような対応をすべきかまとめました。

 

非正規労働者の分類(契約社員とパート・アルバイト)

前回のコラムで取り上げたように、労働者について、以下の観点で法律上の分類をすることが可能です。そのうち、有期契約(非正規)の労働者については、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下、「パート有期法」)に基づき、さらに以下2種類に分けることが出来ます。※

①いわゆる正社員と同じ定時時間に労働する者(パート有期法において「有期雇用労働者」と定義され、本コラムでは分かりやすさの観点から「契約社員」と呼ぶことにします。)

②一週間の労働時間や労働日数がフルタイム労働者と比べて短い者(パート有期法において「短期労働者」と定義され、分かりやすさの観点から「パート社員」と呼ぶことにします。アルバイトもここに含まれます。)

 

※②は、法律上必ずしも有期契約を条件とするものではありませんが、短時間またはシフト制の労働者は有期契約の労働者であることが殆どであることから、便宜上思い切ってこのような区分けをしました。無期契約の短期労働者の場合、一般の正社員と同じ解雇要件が適用されることに加えてパート有期法の保護があります。

 

契約社員とパート・アルバイトを保護するために使用者が課される主な責任(パート有期法および労基法)

一般的な理屈として、契約社員やパート社員は、正規の労働者と比較すると、労働時間、業務難易度、業務範囲に制約があるという理由において、昇給の有無、手当、給与水準(時給制であることが多い)、退職金の支給有無、休暇取得のルール等に正規労働者との差異が設けられている(待遇が劣後する)とされています。ところが、実質的には正規労働者と同等の労働条件・労働時間であるにもかかわらず、雇い主側のコスト削減のために正規労働者の代替リソースとして雇い入れられているケースがかなり多いことも事実です(派遣労働者も合わせた非正規労働者は日本の労働者の4割を占めます)。契約社員やパート社員は流動的な人材であることを想定して配置される人材であるため、無期契約の労働者との比較において雇い止めリスクがあり、雇い主との関係性において立場がさらに弱いという事情もあるようです。このように、契約社員やパート社員は正規労働者と比較して待遇面の差が出やすいことから、パート有期法では使用者に対して以下のような義務を課しています。

 

・雇入れ時の労働条件交付(労基法15条1項の書面による明示を義務づけられている事項の他に「特定事項」として昇給有無、退職手当有無、賞与の有無の明示が必要。パート有期法6条)

・就業規則の作成(契約社員及びパート社員に適用される就業規則作成。法7条)

・フルタイム労働者への転換推進(法13条)

・期間の定めがあることによる不合理な労働条件の差異の禁止(法8条※)

※同一賃労働同一賃金の問題として後述します。

また、有期契約の不合理な更新拒絶(雇い止め)を防止する観点から、使用者は労基法に基づき以下の義務(違反に対しては罰則あり)および告示(違反に対して罰則ないが労基法14条3項に基づき労基署が必要な助言・指導を行うことができる)に基づく運用を要求されます。

 

・契約締結時に期間満了後の更新有無および更新の判断基準を明示すること(労基法15条1項)

・過去に反復して契約が更新されている場合であってその期間満了時に契約更新をしないことが正規労働者の労働契約を終了されることと社会通念上同視できる場合または労働者が契約期間満了時に契約更新を期待することに合理的な理由があると認められる場合には雇い止めの効力は認められず契約更新が成立すること(労基法19条、いわゆる雇い止め法理の類推を明文化したとされています)

・3回以上契約更新した、または1年超の期間勤務している労働者に対して契約更新をしない場合には30日前までの予告、当該予告への理由の証明書を要求された場合の対応等(告示※)

※有期労働契約の締結、更新及び雇い止めに関する基準(平成15・10・22厚労告357号、改正平成24・10・26厚労告551号)

同一労働同一賃金の問題(令和2年10月13日及び15日の5つの最高裁判決)

上記のうち、パート有期法8条の期間の定めがあることによる「不合理な労働条件の差異の禁止」について、最近5つの最高裁判決※が出ましたのでその特徴から学べる使用者の留意点をご紹介します。不合理な差異とは何か?を判断するための具体的事例として参考になると思います。なお、いずれの裁判においても労働契約法20条の該当性が争われていますが、同法同条は2020年4月以降パート有期法8条に移管されているため、パート有期法8条と同じ内容を指しています。

①不合理に当たるケース

・郵便の業務を担当する時給制契約社員に対して夏期冬期休暇を与えないこと

・私傷病による病気休暇として,郵便の業務を担当する正社員に対して有給休暇を与える一方で,同業務を担当する時給制契約社員に対して無給の休暇のみを与えること

・郵便の業務を担当する正社員に対して年末年始勤務手当を支給する一方で、同じように年末年始に勤務する契約社員に対してこれを支給しないこと

・郵便の業務を担当する正社員に対して年始期間の勤務に対する祝日給を支給する一方で、同じような時期に勤務する契約社員に対してこれに対応する祝日割増賃金を支給しないこと

・郵便の業務を担当する正社員に対して扶養手当を支給する一方で,継続的な勤務が見込まれる契約社員に対してこれを支給しないこと

②不合理に当たらないケース

・大学の教室事務員である正職員に対して賞与を支給する一方で、アルバイト職員に対してこれを支給しないこと

・売店業務に従事する正社員に対して退職金を支給する一方で、契約社員に対してこれを支給しないこと

上記判断の特徴について端的にまとめると、有給休暇・休日労働の割増賃金・諸手当(住居手当、交通費、扶養手当等)については業務内容や能力に関わらず同業務に従事している限り発生する費用として有期労働者にも無期契約(正規)の労働者と同様に与える必要がある一方で、賞与や退職金は業務内容や能力や正規労働者への労務の対価の後払いであるという趣旨を理由として非正規労働者には支給しないという相違を設けることが許容されるといえます。

留意点としては、上記の判決は、賞与や退職金をどのような状況であっても一律的に不支給でOKと示したものではないという点です。形式面で就業規則に職能の差異を明確に記載したり、業務内容や能力の差異に応じて支給不支給が判断されているという趣旨が確認できたりすることによって、支給有無の差異が「不合理ではない」ことを客観的に示せる状態であることが重要です。

 

※いわゆる日本郵便三訴訟、大阪医科大学事件、メトロコマース事件(計5件)

 

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応下さい。

 

【筆者プロフィール】
高橋 ケン

慶應義塾大学卒。

大手メーカー法務部にて国際法務(日英契約業務を中心に、ビジネス構築、社内教育、組織再編、訴訟予防等)、外資系金融機関にて法人部門の企画・コンプライアンス・webマーケティング推進業務を経験。現在、大手ウェブ広告企業の法務担当者として、データビジネス最前線に携わる。

企業の内側で法務に携わることの付加価値とは何か?を常に問い続け、「評論家ぶらない」→「ビジネスの当事者になる」→「本当に役に立つ」法務担当者の姿を体現することを目指す。

シンプルに考えることが得意。

 

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