Q&Aで学ぶ英文契約書の基礎 第36回 -  輸出管理条項

 

今回は輸出管理条項について解説します。[1]

【目  次】

(各箇所をクリックすると該当箇所にジャンプします)

Q1: 「輸出管理」/「輸出管理条項」とは?

Q2: 輸出管理条項の例は?

Q3: より網羅的な輸出管理・制裁法条項の例は?

 

Q1: 「輸出管理」/「輸出管理条項」とは?

A1: 「輸出管理」とは、武器や軍事転用可能な貨物・技術等がテロリスト等に渡ることを防ぐ等の目的で、各国が国内法(以下「輸出管理法」と総称する)に基づき行っている規制です。

2019年、米国トランプ政権は、米国内外の企業が、中国のHuaweiに対し、米国製ハイテク部品やソフトウェアを供給することを事実上禁止する措置を発動しました。これは、米国の輸出管理法に基づくものです。中国も、このような米国の動きに対抗し、本格的な輸出管理法である「中国輸出管理法」を本年(2020年)10月制定し12月から施行します。また、日欧においても、従来から輸出管理法があります。

輸出管理法に基づく規制は、一般的には、取引の対象となる貨物(物品)・技術・ソフトウェア等(一般的に”items”(「品目」)と呼ばれる)の輸出または(米国等の場合輸出先国からの)再輸出を、取引品目の機微度/仕向地(輸出先国・地域)/最終需要者(利用者)/最終用途等により、禁止し、または、政府の許可を事前に取得することを義務付けることにより行われています。

特に、従来から輸出管理法を厳しく執行してきた米国の企業との国際契約では、しばしば、米国輸出管理法の遵守を米国外の当事者にも要求する規定が含まれています。また、最近の米中対立の中で、上記のHuaweiに関する措置のように、米国輸出管理法の適用により、日本企業が中国企業との取引を履行できなくなるリスク(およびその逆で中国輸出管理法の適用により日本企業が米国企業との取引を履行できなくなるリスク)が現実的になっており、このようなリスクを契約上の規定(例:不履行責任の免除、解除権等の規定)により回避することが推奨されるようにもなっています[2]

今回のQ&A では、この輸出管理条項等について解説します。なお、輸出管理法をより詳しく知りたい場合は、筆者の最近の解説「日米欧中における輸出管理・外国制裁制度」を参照して下さい。

 

Q2: 輸出管理条項の例は?

A2: 以下に示します。[3]

 

Article X. Compliance with Export Control Regulations   第X条 輸出管理規制の遵守

Products obtained under this Agreement may be subject to U.S. and other government export control regulations.

本契約に基づいて取得された①「製品」は、②米国およびその他の政府の輸出管理規制の対象となる場合があります。

Customer assures that it will comply with those regulations whenever it exports or reexports controlled products or technical data obtained from Seller or any product produced directly from the controlled technical data.

お客様は、販売者から取得した③規制対象の(controlled)製品もしくは技術データまたは④規制対象技術データから直接製造された製品を⑤輸出または⑥再輸出する場合は常に、これらの規制に従うことを確約する(assure)ものとします。

上記は、筆者が1980年代後半に入社した企業の親会社(米コンピュータ会社。当時世界第2位の規模)において原則として全ての顧客に対し用いられていたStandard Terms and Conditions(標準契約条項。いわば契約ひな型)(公開情報)の輸出管理条項を一部修正したものです。

【上記条項例中の①, ②….の解説】

①:「製品」(Products)は、この契約の定義条項で売主製または第三者製の機器(コンピュータ)およびソフトウェアを意味するとされています。

②:米国の輸出管理規制としては「輸出管理規則」(EAR)[4](軍事転用可能な軍民両用の二重用途品の輸出規制)(商務省産業安全保障局(BIS)[5]が管轄)等があります。当時は主に西側諸国による対共産圏輸出規制(ココム規制)[6]に基づくものでした。

③「規制対象の製品もしくは技術データ」:例えば、一定性能以上のコンピュータ、暗号技術等。

④「規制対象技術データから直接製造された製品」:米国EAR上のいわゆる「直接製品」(direct product)。

⑤「輸出」(export):この「輸出」および次の「再輸出」には、貨物の携行、貨物・技術の国内での外国人への提供、技術の電子データでの外国への送信や技術指導・技能訓練・コンサルティングサービス等での提供行為も含まれる(「みなし輸出」・「みなし再輸出」)。

⑥「再輸出」(reexport):輸出先国(例:日本)からの再輸出。米国EARでは「再輸出」も規制しその違反に対し制裁を課す。従って、日本企業にとっては、その米国子会社がその製品を輸出する場合のみならず、日本企業が米国製品を輸入しそれを他国に再輸出する等の場合も米国EARの適用・執行を受ける可能性がある。

【上記条項を現時点で見ると】上記条項は、1980年~1990年代には適切なものだったと思われます。しかし、現時点で見ると以下のような問題もあり、現在では改善の余地があると思われます。

(a) 現行の米国EARでは米国製品・直接製品の他、米国原産の製品・技術・ソフトウェアを一定比率(デミニミス値)以上含む外国製の品目の輸出も規制されている[7]。これもカバーした方がよい。

(b) 米国EAR上、米国の技術・ソフトウェアを提供する場合、事前に、その受領者からその技術等の再輸出等に関しEARを遵守する旨の「確約」(assurance)を書面で取得することが必要な場合があり、その「確約」の要件として契約終了後もその確約内容が存続することが規定されていなければならない[8]。契約上もこの存続を明確化した方がよい。

(c)米国には、EARの他にも、特定の外国・外国企業等との取引を禁止・制限する様々な法令[9](「米国制裁法」と呼ばれる)(財務省外国資産管理局[10](OFAC)管轄)もある。これらの国・企業等は所定のリスト[11]に掲載・公表される。リスト掲載国・者等との取引は禁止・制限される。中国、シンガポール、マレーシア等、日本企業が頻繁に取引をする国の「企業」も含まれているから、日本企業もこれら企業と取引する可能性はあり、ある日突然取引を禁止・制限される可能性がある。

また、2020年9月には中国でも、「信頼できないエンティティ(実体)リスト規定」[12](いわば中国版制裁法)も制定された。

従って、各国の輸出管理法だけでなくこれらの制裁法もカバーした方がよい。

(d) Q1で解説した通り、最近の米中対立の中で、各国の輸出管理・制裁法の適用により、日本企業が外国の企業との取引を履行できなくなるリスクが現実的になっている。このようなリスクの回避策として、契約上、不履行責任の免除、解除権等を規定等が考えられる。

 

Q3: より網羅的な輸出管理・制裁法条項の例は?

A3: 以下に示します。

 

Article X. Export Controls and Sanctions Laws ①第X条 輸出管理および制裁法

Each Party shall comply with all applicable laws, regulations, rules, and governmental orders relating to export or re-export control or economic or trade sanctions of any country (collectively “Export Controls and Sanctions Laws”) in performing any of its obligations under this Agreement.

各当事者は、本契約上の義務の履行上、②いずれかの国輸出もしくは再輸出の管理または経済的もしくは貿易上の制裁に関する法律、規則、ルールおよび政府の命令(以下総称して「輸出管理および制裁法」という)で自己に適用されるもの全てを遵守しなければならない。

Neither Party shall have no liability to the other Party for any delay or failure in performing its obligations (including obligations to make payments) under this Agreement if and to the extent such delay or failure is caused by the application of any Export Controls and Sanctions Laws.

いずれの当事者も、本契約上の義務④(支払債務を含む)の履行遅滞または不履行がいずれかの「輸出管理および制裁法」の適用により生じた場合には、その限度で、当該履行遅滞または不履行に関し相手方に対する責任を負わないものとする。

If such delay or failure continues for sixty (60) days or more, either Party may terminate immediately this Agreement by giving a written notice to the other Party.

⑤当該履行遅延または不履行が60日以上継続した場合、いずれの当事者も、他方当事者に書面で通知することにより直ちに本契約を解除することができる。

The provisions of this Article shall survive the termination or expiration of this Agreement.

本条の規定は、本契約の解除または終了も存続するものとする。

【上記条項例中の①, ②….の解説】

①:次の②で説明する通り制裁法もカバーし、タイトルもこのようにしました。

②:「いずれかの国」で日米欧中その他の国を含め、「経済的もしくは貿易上の制裁に関する法律..」で制裁法も含めました。遵守すべき義務内容を具体的に書き過ぎるとQ2の解説中の(a)のような問題が出てきます。ここでは、制裁法もカバーすることとし、また、各国ごとに法令の内容も異なり、その改正等もあるので、このような抽象的な表現としました[13]。但し、例えば、米国法が特に関係すること等が分かっている場合は、”…. of any country”と”(collectively “Export Controls and Sanctions Laws”)”の間に”, including but not limited to, US Export Administration Regulations (“EAR”) and the economic and trade sanctions administered by the Office of Foreign Assets Control (“OFAC”) of the US Department of the Treasury”(これには、米国輸出管理規則(「EAR」)および米国財務省外国資産管理室(「OFAC」)が管轄する経済・貿易制裁を含むが、これらに限定されない)を入れてもいいでしょう。

③:このような場合のリスク回避策の一つとして債務不履行責任の免除を規定しました。

④:不可抗力の場合(本Q&A第21回Q1の条項例参照)と異なり「(支払債務を含む)」としたのは、輸出管理法・制裁法では相手方への支払義務の履行さえも禁止・制限される場合があるからです。

⑤:リスク回避策として、更に、一定期間履行不能の状態が継続し履行不能が確定的であることを確認した上両当事者に解除権を与えることとしました。

⑥:Q2の解説中の(b)に対応し本条項が本契約終了後も有効に存続することを規定しました。この部分は本Q&A第25回Q4で解説した一般条項中に「存続(Survival)」条項を置いた場合はその存続条項の対象規定として記載することでカバーできるかもしれません。しかし、記載もれがないようにするため、また、二重にカバーしたとしても問題はないので、ここで規定した方がよいと思います。

 

今回はここまです。

 

「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」シリーズ一覧

[i]                 

【注】

[1] 【本稿の主な参考資料】

・ D. Patrick O’Reilley, D. Brian Kacedon  (Finnegan, Henderson, Farabow, Garrett & Dunner, LLP), Drafting Patent License Agreements, Eighth Edition, November 2015, Bloomberg BNA (以下「Patrick」),p 503-509 (33 Export Laws and Regulations of the United States)

・山本 孝夫「英文ビジネス契約書大辞典 〈増補改訂版〉」2014年 日本経済新聞出版社(「山本」) p 539-544(第21款 戦略技術・情報の輸出規制遵守条項)

・浅井敏雄『資料編(「国際技術ライセンス契約モデル」』(河村他編 『グローバルビジネスロー基礎研修2 知的財産編』 (レクシスネクシス・ジャパン, 2016年10月) p 466,467 (ARTICLE 14. EXPORT CONTROL REGULATIONS)

[2] 【契約によるリスク回避の推奨】(例)(1) 眞武 慶彦, 湯浅 諭 「米国輸出規制と日本企業における対応実務」 ビジネス法務 2020.4 p.72. (2) 髙橋 直樹 「外為法による輸出管理規制と実務フロー」 ビジネス法務 2020.4 p. 81.

[3] 【輸出管理条項】 (参考) (1) 米国証券取引委員会のサイトに掲載されている”LICENSE AGREEMENT between

ASTRAZENECA AB and ARCUTIS, INC.” (Dated as of July 23, 2018) 10.2, (2) Phillips 66 Company “Additional Clauses referenced on our U.S. Commercial Contracts.”- Export Compliance and Sanctions, Anti-Corruption, Anti-Boycott, Conflicts of Interest/Principles of Conduct, Violation and Remedy Provisions

[4] 【(米国)輸出管理規則】 Export Administration Regulations (EAR) – BIS. 米国商務省 International Trade Administration “U. S. Export Regulations“に分かり易い動画がある。

[5] 【(米商務省)産業安全保障局】 The Bureau of Industry and Security)(BIS)

[6] 対共産圏輸出規制(ココム規制)】 1949年、米国の主唱で発足したCoordinating Committee for Export to Communist Area(COCOM)(対共産圏輸出統制委員会)による輸出規制。COCOMは共産圏諸国に対する戦略物資、技術等の輸出を禁止または制限することを目的とする協定機関。NATO加盟諸国と日本が参加した。1991年のソ連崩壊後は存在意義が薄れたため1994年3月に解散した。二重用途品の規制については現在の「ワッセナー・アレンジメント」[6]に引き継がれた。

[7] 15 CFR 734.3

[8] 15 CFR § 740.6

[9] 【米国制裁法の根拠法の例】 「敵対国との貿易に関する法」(Trading with the Enemy Act)、「国際緊急経済権限法」(International Emergency Economic Powers Act)

[10] 【(米財務省)外国資産管理室】 The Office of Foreign Assets Control(OFAC). (参考)OFAC “Office of Foreign Assets Control – Sanctions Programs and Information

[11] 米国制裁法上のリスト】 米国制裁法は、財務省の外国資産管理局[11](OFAC)管轄の、特定の国・企業等との取引を禁止・制限する様々な法令[11]の総称。OFACは「Specially Designated Nationals and Blocked Persons」(SDN)リストを作成公表し頻繁に追加変更している。SDNリスト掲載国:(包括的禁止)イラン、北朝鮮、シリア、クリミア、キューバ. (限定的禁止)(金融・エネルギー等)ロシア、ベネズエラ. SDN掲載者:SDNリスト掲載国の政治体制と結びつく者、国際テロ・その支援、国際的犯罪、人権侵害を行った者等。「国」の他、中国、シンガポール、マレーシア等、日本企業が頻繁に取引をする国の「企業」も含まれている。

[12] 【中国「信頼できないエンティティ(実体)リスト規定」】 商务部令2020年第4号 不可靠实体清单规定

[13] 但し、Q2の解説中の(b)の「確約」等については、個別具体的取引ごとにその時点で有効な法令の文言に忠実に従った確約書を別途取り付けた方が安全・適切。

 

[i]

==========

【免責条項】

本コラムは筆者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラムに関連し発生し得る一切の損害等について当社および筆者は責任を負いません。実際の業務においては、自己責任の下、必要に応じ適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

(*) このシリーズでは、読者の皆さんの疑問・質問等も反映しながら解説して行こうと考えています。もし、そのような疑問・質問がありましたら、以下のメールアドレスまでお寄せ下さい。全て反映することを保証することはできませんが、筆者の知識と能力の範囲内で可能な限り反映しようと思います。

review「AT」theunilaw.com(「AT」の部分をアットマークに置き換えてください。)

 

 

【筆者プロフィール】

浅井 敏雄 (あさい としお)

企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表/一般社団法人GBL研究所理事

1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで企業法務に従事。法務・知的財産部門の責任者を米系・日本・仏系の三社で歴任。1998年弁理士試験合格(現在は非登録)。2003年Temple University Law School (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事、国際取引法学会会員、IAPP (International Association of Privacy Professionals) 会員、CIPP/E (Certified Information Privacy Professional/Europe)

【発表論文・書籍一覧】

https://www.theunilaw2.com/

 

 

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