Q&Aで学ぶ英文契約書の基礎 第34回 -  契約解除条項(2)

 

今回は前回に続き契約解除条項について解説します。[1]

【目  次】

(各箇所をクリックすると該当箇所にジャンプします)

Q1: 両当事者に公平かつ詳細な契約解除の条項例を示して下さい。

Q2: 常にQ1の例のような詳細な契約解除条項が必要ですか?

Q3: Q1の条項で契約解除に関連する規定はほぼ網羅されていますか?

Q1: 両当事者に公平かつ詳細な契約解除の条項例を示して下さい。

A1: 以下に例を示します

 

XX. Termination   第XX条 契約解除

1. If any of the following events should occur with respect to either Party, the other Party may forthwith terminate this Agreement by giving a written notice, without prejudice to any other rights or remedies and without any compensation:

いずれの当事者に関し以下のいずれかの事由が生じた場合、相手方は、①他の権利または救済を失うことなく(without prejudice to any other rights or remedies)かつ②何らの補償を要することなく(without any compensation)、書面で通知することにより直ちに(forthwith)本契約を解除することができるものとする。

(a) if either Party fails to make any payment to the other Party when due under this Agreement and such failure continues more than fourteen (14) days after receipt of  a written notice from the other Party specifying the default;

いずれかの当事者が本契約に基づく相手方当事者に対する③支払いをその履行期に怠り、かつ、この不履行がその不履行を明記した相手方からの通知書受領後14日を超えて継続した場合

(b) if either Party is in material breach of this Agreement and the material breach is not cured within thirty (30) days after receipt of a written notice from the other Party specifying the breach;

いずれかの当事者が本契約の④重大な違反(material breach)をし、かつ、その重大な違反が、その違反を明記した相手方からの⑤通知書受領後30日以内に是正されない場合。

(c) if either Party instituted any proceeding under any laws regarding bankruptcy, protection of rights of creditors or insolvency, or any proceeding for liquidation or winding up, or such proceeding is instituted against it,

いずれかの当事者が、⑥破産、債権者の権利保護もしくは倒産に関する法律上の手続または清算もしくは解散の手続を開始し、または、これらの手続を開始され

or either Party becomes insolvent, or makes a general assignment for the benefit of creditors,

または、いずれかの当事者が支払不能となり、もしくは、債権者のためにその資産を包括移管し、

or a receiver is appointed with respect to any substantial part of either Party’s assets or business;

または、いずれかの当事者の資産もしくは事業の重要部分について管財人が任命された場合。

(d) if either Party ceases to do business, or otherwise terminates its business operations;

いずれかの当事者が事業を中止しその他その事業運営を終了した場合。

(e) if either Party undergoes a Change of Control.

いずれかの当事者について「支配権の変更」(Change of Control)があった場合。

“Change of Control” here means a transaction or series of related transactions that result in:

ここにおいて「支配権の変更」とは以下のいずれかを生じさせる取引または一連の関連取引取引を意味する。

(i) a sale of all or substantially all of the assets of the Party to a third party;

その当事者の資産の全部または実質的に全部の第三者に対する売却。

(ii) the transfer of fifty percent (50%) or more of the outstanding voting power of the Party to a third party; or

その当事者の発行済み議決権の50%以上の第三者に対する移転

(iii) the acquisition by a third party of the right or power to appoint or cause to be appointed a majority of the directors of the Party.

その当事者の取締役の過半数を指名しまたは指名される権利または権限の第三者による取得

2. If any of the events provided in Section 1 above should occur with respect to either Party, the entire unpaid sums payable by the Party under this Agreement shall be immediately due and payable without any notice or demand.

いずれの当事者に関し上記第1項に定めるいずれかの事由が生じた場合、その当事者が本契約に基づき支払うべき未払いの金銭債務は全額、通知または請求を要することなく、直ちにその履行期が到来し支払われなければならない。

【解 説】

①「他の権利または救済を失うことなく」(without prejudice to any other rights or remedies):脚注の「山本」(p119)によれば、伝統的英国法上の考え方として、契約解除すれば契約締結前の状態に戻るだけで損害賠償請求権は消滅するとのこと。この文言はこれを念のため打ち消すための文言です。

②「何らの補償を要することなく」(without any compensation): 契約解除権があってもそのこととその契約解除から生じた相手方の損害に対する賠償は別問題という理屈があり得るかもしれないので、これを念のため打ち消すための文言です。

③「支払いをその履行期に怠り、かつ、…14日を超えて継続した場合」: 支払遅延を次の(b)の契約違反一般に含めて規定する例もあります(実例としてはその方が多い)。しかし、ここでは、代金の支払いを受ける側(商品の売主等)の立場から、特に支払い遅延については14日間しか是正期間を与えていません。

④「重大な違反(material breach)」による解除: 前回(第33回)Q&A参照。” is in material breach”の部分は” commits a material breach”等と書き換え可能です。

⑤「通知書受領後30日以内」: 契約違反(または支払い遅延)後の猶予(是正)期間の決め方に特にルールはないので、原則的には当事者間で決めればよいということになります。特に重大な違反で猶予期間を置かずに直ちに解除権を発生させる取り決めも可能です。しかし、適用される法、契約のタイプ(例:販売店契約)等により契約の解除が制限される場合には、契約解除の有効性が否定されないよう合理的と考えられる猶予期間を置く必要がある場合もあります。

⑥「破産手続を開始し、または、これらの手続を開始され」: 例えば、日本の破産法上の手続では、破産申立⇒破産手続開始決定⇒破産管財人選任….と進んでいきますが、破産申立後の債権回収行為は詐害行為として否認される可能性があります(160(1)二)。従って、ここでは、代金の支払いを受ける側の立場から、破産等の手続開始(申立)時点で第2項によりその期限の利益を失わせ自己が相手方に負う金銭債務と相殺(set off)するとともに契約解除できるものとしています。ここの(c)の解除事由は、各国の倒産法制が異なることを前提とし、各国固有の倒産用語ではなく可能な限りどの国の制度でも当てはまるような文言を使用しています。

「支配権の変更」(Change of Control)に基づく契約解除: これは特にライセンス契約等で相手方が例えば競合企業に買収等された場合に備えて契約解除権を確保するためのものです。

⑧期限の利益喪失条項(Acceleration Clause): 代金の支払いを受ける側で、かつ、自社も相手方に対し金銭債務を負うことがある場合にはこの条項は重要です。相殺により実質的に債権回収が可能となる可能性があるからです。

Q2: 常にQ1の例のような詳細な契約解除条項が必要ですか?

A2: いいえ。それは、両当事者の立場、契約のタイプ等により変わります

【解 説】

一般に以下のように言えると思われます。

契約違反による解除の規定は、どの契約でも、どちらの当事者にとっても必要である(実際これだけの英文契約も多い)。

破産申立等を理由とする契約解除・期限の利益喪失の規定は、自社が代金の支払いを受ける側(例:商品の売主)である場合や、一回限りではない反復継続的取引の契約(例:売買基本契約)の場合に特に必要である。

また、国内契約に比べ英文契約では「支配権の変更」を理由とする契約解除規定が良く見られます。これは、米国等では従来から企業買収が盛んに行われ契約の相手方が自社の競合企業に買収されることが具体的リスクとして認識されているからでしょう。

Q3: Q1の条項で契約解除に関連する規定はほぼ網羅されていますか?

A3: いいえ。個々の契約特有の解除規定や、解除後の措置等に関する規定が必要な場合があります

【解 説】

個々の契約特有の解除規定としては、例えば、特許ライセンス契約で、ライセンシーがその特許の有効性を争った場合にライセンサーがライセンス契約を解除できるとする規定(一般的に「不争条項」という)等があります。また、特約店契約等では、解除された後の事後処理(例:未履行の個別契約の処理、在庫の処分、相手方から提供された資料の返還、相手方からライセンスされた商標の使用禁止)に関する規定が必要になる場合があります

 

今回はここまでです。次回は、上記Q3に関し解説します。

 

「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」シリーズ一覧

[2]                 

【注】

[1] 【本稿の主な参考資料】

・ 山本 孝夫「英文ビジネス契約書大辞典 〈増補改訂版〉」2014年 日本経済新聞出版社(「山本」) p118-133.

[2]

==========

【免責条項】

本コラムは筆者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラムに関連し発生し得る一切の損害等について当社および筆者は責任を負いません。実際の業務においては、自己責任の下、必要に応じ適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

(*) このシリーズでは、読者の皆さんの疑問・質問等も反映しながら解説して行こうと考えています。もし、そのような疑問・質問がありましたら、以下のメールアドレスまでお寄せ下さい。全て反映することを保証することはできませんが、筆者の知識と能力の範囲内で可能な限り反映しようと思います。

review「AT」theunilaw.com(「AT」の部分をアットマークに置き換えてください。)

 

 

【筆者プロフィール】

浅井 敏雄 (あさい としお)

企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表/一般社団法人GBL研究所理事

1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで企業法務に従事。法務・知的財産部門の責任者を米系・日本・仏系の三社で歴任。1998年弁理士試験合格(現在は非登録)。2003年Temple University Law School (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事、国際取引法学会会員、IAPP (International Association of Privacy Professionals) 会員、CIPP/E (Certified Information Privacy Professional/Europe)

【発表論文・書籍一覧】

https://www.theunilaw2.com/

 

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