Q&Aで学ぶ英文契約書の基礎 第31回 -  秘密保持条項(4)

 

前回までで、以下の「秘密保持条項で規定すべき事項」の内①~④までを解説しました。今回は以下の⑤および⑥並びにその他を解説します。[1]

【目  次】

(各部分をクリックすると該当箇所へジャンプします)

(参考)【前回までに解説した部分(①~④)】

秘密保持期間

許される第三者開示

その他1: 秘密情報の複製制限・返還・消去義務

その他2: 残留記憶(Residuals)条項

 

(参考)【前回までに解説した部分(①~④)】

 

Article 13.         Confidentiality (秘密保持) 

【①「秘密情報」の定義】第28回-秘密保持条項(1)で解説)

13.1 In this Agreement, the Party from time to time disclosing Confidential Information (as defined below) shall be referred to as “Discloser” and the Party from time to time receiving such Confidential Information shall be referred to as “Recipient”.

本契約上、(以下に定義する)秘密情報を(随時)開示する当事者を「開示者」といい、その秘密情報を(随時)受領する当事者を「受領者」という。

“Confidential Information” shall mean

「秘密情報」とは以下のもの全てを意味する。

(i) the existence and content of this Agreement,

本契約の存在と内容

(ii) patent applications included in the Licensed Patents which have not been published,

「ライセンス対象特許」(の定義)に含まれる出願公開されていない特許出願(の内容) (*3)

(iii) Licensed Information, and

「ライセンス対象情報」

(iv) any other information which is disclosed to Recipient by Discloser in any manner, whether orally, visually or in tangible form (including, without limitation, documents, devices and computer readable media) and all copies thereof.

その他開示者から受領者に開示される情報(口頭、視覚または有体物(例:文書、デバイス、コンピューター読み取り可能な媒体)その他開示の形態を問わない)およびそのコピー全て。

【②秘密情報であることの特定の方法】(第29回-秘密保持条項(2)で解説)

Tangible materials that disclose or embody Confidential Information that falls under item (iv) above shall be marked by Discloser as “Confidential,” “Proprietary” or the substantial equivalent thereof.

上記(iv)に該当する秘密情報を開示または具体化する有体物には、開示者により”Confidential,” “Proprietary”その他これらと同等の表示がなされていなければならない。

Confidential Information that falls under item (iv) above and is disclosed orally or visually shall be identified by Discloser as confidential at the time of disclosure and reduced to a written summary by Discloser,

上記(iv)に該当し口頭または視覚により開示される秘密情報は、その開示の時に開示者により秘密である旨示され(identified)かつ開示者によりその要約書が作成されなければならない。

who shall mark such summary as “Confidential,” “Proprietary” or the substantial equivalent thereof and deliver it to Recipient by the end of the month following the month in which disclosure occurs.

開示者は、当該要約書に”Confidential,” “Proprietary”その他これらと同等の表示をし、これを開示月の翌月末までに受領者に提出しなければならない。

Recipient shall treat such information as Discloser’s Confidential Information pending receipt of such summary.

受領者は、当該要約書受領まで当該情報を開示者の秘密情報として扱わなければならない。

“Confidential Information” shall also include any information that, given the nature of the information or circumstances surrounding its disclosure, reasonably should be understood to be confidential.

「秘密情報」には、また、当該情報の内容(nature)またはそれが開示された状況から合理的に見て秘密であると判断すべき全ての情報が含まれる。

③秘密情報から除外される情報】第30回-秘密保持条項(3)で解説)

13.2 Confidential Information shall not include any information that Recipient can demonstrate:

「秘密情報」には「受領者」が以下のいずれかに該当することを証明できる情報は含まれない:

(a) was in Recipient’s possession without confidentiality restriction prior to disclosure by Discloser hereunder;

本契約に基づく開示者による開示前に受領者が秘密保持義務を負うことなく保有していた情報

(b) was generally known at the time of disclosure to Recipient hereunder, or becomes generally known after such disclosure through no act of Recipient;

本契約に基づく受領者に対する開示時点で既に公知の情報、または、開示後受領者の行為によらず公知となった情報

(c) has come into the possession of Recipient without confidentiality restriction from a third party; or

第三者から秘密保持義務なしで受領者が入手した情報

(d) is developed by Recipient independently of and without reference to Discloser’s Confidential Information.

受領者により独立してかつ「秘密情報」を参照せずに作成された情報

④秘密保持義務の内容】第30回-秘密保持条項(3)で解説)

13.3 Recipient shall use Confidential Information solely to fulfil its obligations or exercise its rights under this Agreement (hereinafter referred to as “Permitted Purpose”).

「受領者」は、「秘密情報」を、本契約に基づきその義務を履行しまたはその権利を行使するため(以下「許可された目的」という)にのみ利用しなければならない。

Recipient shall maintain in confidence Confidential Information and disclose it only to its officer, employee, consultant, or independent contractor who has a need to know it for the Permitted Purpose and is legally obliged to comply with this Agreement including this Article 13.

「受領者」は「秘密情報」を秘密に保持するものとし、「許可された目的」のためにそれを知る必要がありかつ本第13条を含め本契約を遵守することが法的に義務付けられている役員、従業員、コンサルタントまたは独立契約業者にのみ開示するものとする。

Recipient shall not disclose Confidential Information to anyone other than those described above or for any purpose other than the Permitted Purpose, without the prior written consent of Discloser.

「受領者」は、「開示者」の事前の書面による同意なく、「秘密情報」を上記以外の者に対しまたは「許可された目的」以外の目的で開示してはならない。

(以降、今回解説部分)

⑤秘密保持期間

 

13.4 The obligations of Recipient with respect to Confidential Information set forth in 13.3 above shall survive for      years from the date of disclosure of Confidential Information.

上記13.3に定める「受領者」の「秘密情報」に関する義務は、当該秘密情報の開示日後     年間存続するものとする。

(秘密保持期間)  秘密情報の秘密保持義務および利用制限義務の存続期間(以下「秘密保持期間」という)については、特に決まったものはありませんが、対象となる情報の秘密の程度、経済的価値の程度、陳腐化のスピード等を考慮して定めるべきと思われます。筆者の経験では3 年/5 年/7 年などが多いという印象です。

(秘密保持期間の定め方) 上記条項例では個々の秘密情報ごとにその開示日を起算日として秘密保持期間を定めていますこの他秘密保持期間の定め方としては以下のように契約終了日を起算日とする例があり、以下のような長所と短所があります。

 

13.4 The obligations of Recipient with respect to Confidential Information set forth in 13.3 shall be effective during the term of this Agreement and for a period of      years after the expiration or earlier termination of this Agreement.

上記13.3に定める「受領者」の「秘密情報」に関する義務は、本契約有効期間中および本契約の期間満了または途中解約後    年間存続するものとする。

(長所)  継続的契約でその有効期間中に交換された全ての秘密情報の秘密保持期間(の満了日)を一律に計算可能

(短所)  契約が長期に継続した場合、初期に開示された秘密情報の秘密保持期間は長く、末期に開示された秘密情報の秘密保持期間は短くなるという秘密保持期間の不均衡が生じる。

(永久の秘密保持期間)  また、“…during the term of this Agreement and thereafter…”のように、秘密保持期間を限定せず(または対象の情報が13.2の除外情報に該当するまで)永久に秘密とする例もあります。しかし、米国の一部の州では、”trade secret”の要件(例:秘密性保持のための合理的措置)を満たさない情報ついて永久の秘密保持期間を不合理な取引制限としその法的強制力を否定し、また、同じ秘密保持条項(または契約)に基づき”trade secret”の要件を満たす情報と満たさない情報が開示された場合、いずれの情報についても秘密保持義務が無効とされる可能性があるとされています。[2]

(秘密情報ごとの秘密保持期間)  とはいえ、ソフトウェアのソースコード、(個人顧客や役員・従業員等の)個人情報(前提としてその開示は各国の個人情報保護に関する法律に従う必要がある)など開示する情報によってはほぼ永久の秘密保持が必要かつ合理的な場合があります

従って、同じ契約で開示する情報(またはその種類)ごとに秘密保持期間を変えたい場合には、例えば以下のような条項にし契約書別紙に個々の秘密保持期間を記載することが考えられます。

 

13.4 The obligations of Recipient with respect to Confidential Information set forth in 13.3 shall be effective for the duration designated in Exhibit      for each Confidential Information.

上記13.3に定める「受領者」の「秘密情報」に関する義務は、各秘密情報に関し別紙    で指定される期間存続するものとする。

 ⑥許される第三者開示

 

13.5 Notwithstanding any other provision of this Agreement, disclosure by Recipient of Discloser’s Confidential Information shall not be precluded if such disclosure is in response to a valid order of any governmental agency, court or other quasi-judicial or regulatory body of competent jurisdiction,

本契約の他の規定にかかわらず、「開示者」の「秘密情報」の「受領者」による開示は、それが管轄権を有する政府機関、裁判所その他準司法機関または規制当局の有効な命令に応じるための開示である場合は禁止されないものとする。

provided however, that Recipient shall, to the extent it is legally permitted, make a reasonable effort;

但し、「受領者」は、それが法的に許される範囲内で、以下の事項を実施するよう合理的な努力をしなければならない

(i) to ensure that such Confidential Information so disclosed is kept secret and used only for the purpose for which the order was issued, including by seeking protective order or equivalent, and

開示された秘密情報が、秘密保持命令またはそれと同等の措置の申立によることを含め、秘密に保持されかつ当該命令が発行された目的にのみ利用されるようにすること。更に、

(ii) promptly notify Discloser of the order and assist Discloser in contesting the order or in otherwise protecting Discloser’s rights.

直ちに開示者に当該命令[のあったことおよびその内容]を通知し、かつ、「開示者」が当該命令に異議を申立てその他「開示者」の権利を保護することに協力すること

(政府機関等による開示命令) 例としては、(i) 政府当局による独占禁止・競争、公正取引、税務、労務、個人情報保護等に関する調査、(ii) 警察・検察の捜査、(iii) 裁判所命令等が考えられます。

(受領者の義務) ここで「法的に許される範囲内で」および「合理的な努力」としたのは、例えば警察の捜査・当局の強制的な立入調査等においては、事前に開示者に通知等することが法的に問題がある場合または合理的・現実的に考えて不可能または極めて困難な場合があるからです。

 

その他1: 秘密情報の複製制限・返還・消去義務

条項例を以下に示します。

 

Recipient shall not reproduce or copy by any means Confidential Information, except as reasonably necessary for the use for Permitted Purpose.

「受領者」は、「許可された目的」での利用に合理的に必要とされる場合を除き、如何なる形態によっても「秘密情報」を再製または複製しないものとする。

Upon termination or expiration of this Agreement, Recipient shall promptly return to Discloser or destroy or delete, at Discloser’s option, all tangible or intangible materials that disclose or embody or includes Confidential Information.

本契約の期間満了または解約後直ちに、「受領者」は、「秘密情報」を開示・具体化または含む有形・無体物の全てを「開示者」の指示に従い、直ちに開示者に返還、廃棄または消去するものとする。

その他2: 残留記憶(Residuals)条項

時として以下のような条項を見かけることがあるかもしれません(脚注[3]のTaylorの資料から引用。訳は筆者)。

 

Notwithstanding any other provision of this [NDA], a receiving party shall be free to use the residuals resulting from access to or work with any Confidential Information provided hereunder for any purpose.

本[NDA]にかかわらず、受領当事者は、本[NDA]に基づき提供された「秘密情報」へのアクセス[閲覧・利用]または当該秘密情報を使った業務の結果生じた残留記憶を如何なる目的のためにも自由に利用できるものとする。

The term “residuals” means information in non‑tangible form, which may be remembered by persons with access to the Confidential Information, including ideas, concepts, know‑how or techniques contained therein, in their unaided memories (without reference to the Confidential Information).

「残留記憶」とは、秘密情報にアクセスした者の記憶に、有体物の形でなく(in non‑tangible form)、[記録媒体その他の]補助を用いず(unaided)(かつ当該「秘密情報」を見ることなく)残っている情報(当該「秘密情報」に含まれているアイデア・概念・ノウハウまたはテクニックを含む)を意味する。

上記は、初めて目にした場合、何を意味しているか理解することは困難ですが、よく読めば、要するに、受領者は、開示者から開示された情報の内容がそれに実際にアクセスした受領者の役員・従業員等の記憶に残ってしまった(残留した)場合は、その記憶に残った情報は自由に利用できるということを意味していることが分かります。

筆者の知る限り、このような条項は、25年程前から、いくつかの米国本拠の巨大IT企業等が、顧客からソフトウェア開発やコンサルティングの業務を請け負う際、顧客から秘密保持義務を要求された場合に、自社の秘密保持義務に関し提案するNDAなどに含まれています(自社から顧客に開示する秘密情報はほとんどない)。Taylorによればこのような条項はM&Aで買収側企業が自社の秘密保持義務に関し提案することがある条項でもあるようです。

このTaylorや脚注[4]の資料等によれば、残留記憶条項の挿入を主張する側(受領者側)の言い分(理由)は、受領者(の役員・従業員の脳の中で)開示者から開示された秘密情報を、過去または将来自社で独自開発しまたは他から入手した情報から分離・区分(して管理・秘密保持)することは困難だからということのようです(しかし本当の理由は顧客側や売却側からの後日の訴訟を回避することと思われます[5])。

しかし、そのような理由は、全ての開示情報に当てはまる可能性があります。また、開示者側(例:顧客・被買収側)からすれば、秘密情報が非常に重要ではあるが記憶するのは簡単な場合または受領者側で開示情報にアクセスする者の記憶力が非常に高い場合、秘密保持義務を殆ど無意味なものにするように思われます。

従って、開示者側としては残留記憶条項の挿入を可能な限り避ける(例えばどうしても挿入すると言うなら両当事者に平等に適用される条項とすることを提案し結果として挿入をあきらめさせる)べきですが、契約交渉上の差などからやむを得ず受け入れる場合でも重要な情報は開示しないか、自社がM&Aの売却側で買収側が強硬にこの条項を主張する場合には交渉(途中で破談になる場合もある)継続を拒否することも検討する必要があるかもしれません。

 

今回はここまです。

 

「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」シリーズ一覧

 

[6]                 

【注】

[1] 【本Q&Aの主な参考資料】 (1) 浅井敏雄 『資料編「国際技術ライセンス契約モデル」』(「グローバルビジネスロー基礎研修2 知的財産編』 – レクシスネクシス・ジャパン 2016年10月, (2) 浅井敏雄「英文秘密保持契約」『パテント』2013年5月p.100~112,(3) 浅井敏雄「2016年米国連邦民事トレードシークレット保護法の概要」『パテント』 2016年12月,(4)浅井敏雄「米国でついに成立!営業秘密の連邦民事保護法」『BIZLAW』2016年9月 レクシスネクシス・ジャパン

[2] 【永久的秘密保持義務を否定する州】 (参考)Parker Poe Adams & Bernstein LLP – Mike Tobin “Time limits in confidentiality agreements: traps for the unwary” October 30 2013, Lexology

[3] 【残留記憶条項の例】 以下の資料から引用した。Thomas R. Taylor “BEWARE OF “RESIDUALS” CLAUSES IN NDAS FOR M&A TRANSACTIONS

[4] 【残留記憶条項の挿入を主張する側の言い分】 Morgan Lewis & Bockius LLP – Rahul Kapoor and Shokoh H. Yaghoubi “Residuals Clauses in IP Agreements and NDAs” October 23 2017, Lexology

[5] 【残留記憶条項の挿入を主張する本当の理由】Sheppard Mullin Richter & Hampton LLP – Riaz Karamali and Camille Formosa “Coping with confidentiality agreements” April 13 2011, Lexology。この6参照。

 

[6]

==========

【免責条項】

本コラムは筆者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラムに関連し発生し得る一切の損害等について当社および筆者は責任を負いません。実際の業務においては、自己責任の下、必要に応じ適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

(*) このシリーズでは、読者の皆さんの疑問・質問等も反映しながら解説して行こうと考えています。もし、そのような疑問・質問がありましたら、以下のメールアドレスまでお寄せ下さい。全て反映することを保証することはできませんが、筆者の知識と能力の範囲内で可能な限り反映しようと思います。

review「AT」theunilaw.com(「AT」の部分をアットマークに置き換えてください。)

 

 

【筆者プロフィール】

浅井 敏雄 (あさい としお)

企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表/一般社団法人GBL研究所理事

1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで企業法務に従事。法務・知的財産部門の責任者を米系・日本・仏系の三社で歴任。1998年弁理士試験合格(現在は非登録)。2003年Temple University Law School (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事、国際取引法学会会員、IAPP (International Association of Privacy Professionals) 会員、CIPP/E (Certified Information Privacy Professional/Europe)

【発表論文・書籍一覧】

https://www.theunilaw2.com/

 

 

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