Q&Aで学ぶ英文契約書の基礎 第28回 -  秘密保持条項(1)

 

秘密保持条項も多くの英文契約書に含まれている条項です。今回からこの秘密保持条項について解説します。

 

Q1: 秘密保持契約と秘密保持条項との違いは?

A3: 一般に、秘密保持契約(Non-Disclosure Agreement)(NDA)は、本格的な取引交渉の開始前にそれ自体単独の独立した契約として締結されることが多く、秘密保持条項(Non-Disclosure Clause)は売買基本契約書、ライセンス契約書などの具体的な取引契約の一部として規定されます

前者の単独独立の秘密保持契約書(NDA)については脚注[1]の筆者の資料(2)を参照して下さい。本Q&Aでは後者の秘密保持条項について解説します。

 

Q2: 日本でも米国でも営業秘密は法律上保護されると思いますが、それなのになぜNDAまたは秘密保持条項が必要なのですか?

A2: 確かにそうですが秘密情報を確実に保護するには事実上NDAまたは秘密保持条項(「NDA等」)が必要となります。[2]

【解 説】

(1) 日本における営業秘密の保護

日本の不正競争防止法上「営業秘密」の要件は以下の通りであり(2(6))、その不正利用行為に対しては差止請求(3)および損害賠償請求(4)が可能です。

①秘密として管理されていること(秘密管理性)/②事業活動に有用な情報であること(有用性)/③公然と知られていないこと(非公知性

(2) 米国におけるTrade Secretの保護

米国では、統一トレードシークレット法(Uniform Trade Secrets Act:UTSA)(モデル法)をベースとした各州のTrade Secrets Act(州TSA)および連邦法のDefend Trade Secrets Act of 2016(DTSA)によりTrade Secretが保護されています。

Trade Secretの要件は、②秘密性保持のための合理的措置/③経済的価値/②秘密性であり、ほぼ日本法上の「営業秘密」と同じです。

(3)営業秘密・Trade Secretが法律上保護されているのにNDA等が必要な理由

国によっては秘密情報の法的保護がないか不十分な可能性がある。「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」(TRIPS)は,秘密情報の保護を加盟国に義務付けている(第二部第7節「開示されていない情報の保護」)。しかし,相手方の国がTRIPSに加盟していない場合もあり得るし,加盟しているとしても具体的な保護内容は加盟国に委ねられているから保護が十分でないこともあり得る。

②TRIPSの加盟国であっても,各国の法的保護を受ける前提として,問題の情報について秘密として保持する為の合理的努力がされていること(日本法上の秘密管理性/米国法上の秘密性保持のための合理的措置)が要求される(TRIPS 39(2)(c))。この要件を具備する為には,当事者が秘密情報を相手方に開示するに当たりNDA等があることは最低限必要であろう。

③NDA等で秘密情報を特定することにより保護の対象を明確化することができる。

④NDA等により,仮に法律上の秘密情報の保護要件(例えば,有用性または経済的価値)を欠くかまたはそれを立証できない場合でも,該当の情報の無断開示があれば契約違反となるから,少なくとも契約による保護・救済を受けることができる

 

Q3: 秘密保持条項で規定すべき事項は?

A3: 主に以下の事項です。

①「秘密情報」の定義

②秘密情報であることの特定の方法

③秘密情報から除外される情報

④秘密保持義務の内容

⑤秘密保持期間

⑥許される第三者開示

⑦その他(コピーの制限・契約終了時の変換・破棄等)

 

Q3: 秘密保持条項の例を示して下さい。

A3: 以下に特許を含む技術ライセンス契約中のかなり詳しい秘密保持条項の例を示します。なお、この条項は、13.1から13.5まであり、上記①~⑦の項目を順番に規定しています。かなり長く、解説しながらですので、残りは次回以降に紹介・解説します。読み易いように適宜英文を分割し逐一和訳を付していきます。また、【 】内の標題は分かり易さのため付けたものです。

 

Article 13.         Confidentiality (秘密保持)

 【「秘密情報」の定義】

13.1  In this Agreement, the Party from time to time disclosing Confidential Information (as defined below) shall be referred to as “Discloser” and the Party from time to time receiving such Confidential Information shall be referred to as “Recipient”.

本契約上、(以下に定義する)秘密情報を(随時)開示する当事者を「開示者」といい、その秘密情報を(随時)受領する当事者を「受領者」という。 (*1)

“Confidential Information” shall mean

「秘密情報」とは以下のもの全てを意味する。

(i) the existence and content of this Agreement,

本契約の存在と内容 (*2)

(ii) patent applications included in the Licensed Patents which have not been published,

「ライセンス対象特許」(の定義)に含まれる出願公開されていない特許出願(の内容) (*3)

(iii) Licensed Information, and

「ライセンス対象情報」 (*4)

(iv) any other information which is disclosed to Recipient by Discloser in any manner, whether orally, visually or in tangible form (including, without limitation, documents, devices and computer readable media) and all copies thereof.

その他開示者から受領者に開示される情報(口頭、視覚または有体物(例:文書、デバイス、コンピューター読み取り可能な媒体)その他開示の形態を問わない)およびそのコピー全て。(*5)

(*1) 契約の両当事者間で相互に秘密情報を交換する前提です。”Discloser”は”Disclosing Party”と、”Recipient”は”Receiving Party”とされていることもあります。

(*2) 通常契約自体の存在またはその内容も秘密としたいはずなので、このように明示的に秘密情報の定義に含めることが適切です。

(*3) この契約は特許済みの発明および特許出願中の発明もライセンス対象で、特許出願中の発明の内容は基本的にどの国でも出願後から1年半後に公開(「出願公開」)(日本の特許法の場合第64条)されますが、それまでは秘密情報として取り扱うことを要求しています。

(*4) ここでいう「ライセンス対象情報」は、例えば、ノウハウ、ソフトウェアのソースコード等が含まれます。なお、(*3),(*4)は技術ライセンス契約以外では通常不要なのでその場合には削除することになります。

(*5) 具体的に特定せず包括的な秘密情報の定義

 

「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」第28回はここまでです。次回は、上記13.1の後半部分(秘密情報の特定の方法)から続けていきます。

「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」シリーズ一覧

 

[1]

                 

【注】

[1] 【本Q&Aの主な参考資料】 (1) 浅井敏雄 『資料編「国際技術ライセンス契約モデル」』(「グローバルビジネスロー基礎研修2 知的財産編』 – レクシスネクシス・ジャパン 2016年10月, (2) 浅井敏雄「英文秘密保持契約」『パテント』2013年5月p.100~112,(3) 浅井敏雄「2016年米国連邦民事トレードシークレット保護法の概要」『パテント』 2016年12月,(4)浅井敏雄「米国でついに成立!営業秘密の連邦民事保護法」『BIZLAW』2016年9月 レクシスネクシス・ジャパン

[2]【営業秘密・Trade Secretが法律上保護されているのにNDA等が必要な理由】 注1の資料(2) p101,102

[1]

==========

【免責条項】

本コラムは筆者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラムに関連し発生し得る一切の損害等について当社および筆者は責任を負いません。実際の業務においては、自己責任の下、必要に応じ適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

(*) このシリーズでは、読者の皆さんの疑問・質問等も反映しながら解説して行こうと考えています。もし、そのような疑問・質問がありましたら、以下のメールアドレスまでお寄せ下さい。全て反映することを保証することはできませんが、筆者の知識と能力の範囲内で可能な限り反映しようと思います。

review「AT」theunilaw.com(「AT」の部分をアットマークに置き換えてください。)

 

 

【筆者プロフィール】

浅井 敏雄 (あさい としお)

企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表/一般社団法人GBL研究所理事

1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで企業法務に従事。法務・知的財産部門の責任者を米系・日本・仏系の三社で歴任。1998年弁理士試験合格(現在は非登録)。2003年Temple University Law School (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事、国際取引法学会会員、IAPP (International Association of Privacy Professionals) 会員、CIPP/E (Certified Information Privacy Professional/Europe)

【発表論文・書籍一覧】

https://www.theunilaw2.com/

 

 

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