Q&Aで学ぶ英文契約書の基礎 第24回 -  通知条項

 

今回は、一般条項の中の通知条項について解説します。この通知条項とは、契約上要求されている相手方に対する通知(例:契約解除通知)の手段・宛先・通知の効力発生時期等を取り決めるための条項です。[1]

 

Q1: 国内の契約では通知条項を置くことはほとんどないと思いますが、国際契約ではほとんどの場合、わざわざ通知条項が置かれているのは何故ですか?

A1: 郵便事情・企業文化・法制度等が日本とは異なる外国の当事者との間で契約解除等の重要な意思表示または事実の通知を確実に行うためです。

【解 説】

例えば、契約解除・不更新または契約違反の通知の場合、日本国内であれば、相手方の本社代表取締役社長宛てに配達証明付き内容証明郵便で通知すれば、よほどのことがない限り通知が届いたか否かで紛争になることは考えられません。しかし、内容証明郵便のような制度はおそらく日本独自のもので、外国の当事者との間では使うことができません。また、国内のように代表取締役社長宛てに郵便を送れば相手方の会社内で振り分けられ適切な部署に届けられるということも、外国の会社については必ずしも期待できません。また、外国では、相手方の社内の組織・担当の変更だけでなく従来の責任者・担当者が引継ぎもせずに転職してしまうことも珍しくありません。従って、自社として事前に知っていた部署・責任者宛てに通知をしても届かないということは十分にあり得ますしかし、契約解除等の通知をする側からすれば、相手方のそのような事情にかかわりなく、通知の効力を確実に発生させたいところです。更に、特に国際郵便の場合、発信主義か到達主義かというようなことも問題となります。

従って、このようなことを考えると、国際契約では、上記のような問題に対応できるよう十分練られた通知条項が必要となります。

 

Q2: 通知条項の具体例を示して下さい。

A2: 以下に条項例を示します。なお、ABC, XYZは、それぞれ、この契約の各当事者の本契約における略称です。(*1)、(*2)、(*3)等については解説を参照して下さい。なお、今回は、契約条項のドラフティングはひな型等を漫然とそのまま流用するだけでは不十分であり、特に自社にとり重要な契約については、通知条項一つをとっても、予想される問題に十分対処できるよう入念な検討が必要であることを示すため、いつもよりも詳細に解説しています。

 

Except as otherwise provided in this Agreement, any notice, consent or other communication required or permitted to be given in writing hereunder (collectively “Notice”) shall be in the English language, and shall be: (*1)

(a) mailed by registered airmail, with postage prepaid, and return receipt requested, (*2)

(b) sent by an internationally recognized overnight air courier service which provides a delivery receipt, (*3)

(c) delivered in person, or (*4)

(d) sent as an attachment file of an e-mail (provided an identical Notice is also sent simultaneously by the registered airmail or the overnight air courier service, mentioned in (a) and (b) above), (*5)

to the address of the addressed Party specified below or to such changed address specified by like Notice from the addressed Party. (*6)

本契約に別段の定めがある場合を除き、本契約上書面で行うことが要求または許されている全ての通知、同意またはその他連絡(総称して「通知」)は、英語で、かつ、以下のいずれかの方法により行われなければならない。(*1)

(a) 料金前払い(支払い済み)で(with postage prepaid)受領証返送が要求される(return receipt requested)書留航空郵便(registered airmail)での郵送(*2)

(b) 国際的に認知されている航空宅配業者(overnight air courier service)による送付で引渡し受領証が提供されるもの(which provides a delivery receipt)での送付。(*3)

(c) 直接の交付(delivered in person) (*4)

(d) 電子メールの添付ファイルとしての送信(但し、同じ通知が、同時に、上記(a)および(b)に定める書留航空郵便または国際宅配業者により送付されることを条件とする) (*5)

上記「通知」は、宛先(相手方)の当事者の以下の宛先、または、その宛先の当事者から同様の「通知」で指定された変更後の宛先になされなければならない(*6)

 

If to ABC: (*7)

Company Name: [     ]

Address: [     ]

Attention: [     ]

e-mail address: [     ]

ABC宛ての場合: (*7)

会社正式名称: [     ]

住所: [     ]

担当責任部署名(および責任者名): [     ]

電子メールアドレス: [     ]

 

If to XYZ:

Company Name: [     ]

Address: [     ]

Attention: [     ]

e-mail address: [     ]

XYZ宛ての場合:

会社正式名称: [     ]

住所: [     ]

担当責任部署名(および責任者名): [     ]

電子メールアドレス: [     ]

 

If the Notice is mailed by the registered airmail or sent by the overnight air courier service, as mentioned in (a) and (b) above, it shall be deemed given five (5) business days after the mailing or sending. (*8)

「通知」が上記(a)および(b)に記載された通り、書留航空郵便で郵送されまたは国際航空宅配便により送付された場合、当該投函または発送から5営業日後に交付されたものとみなす。(*8)

If the Notice is delivered in person or sent by the e-mail, as mentioned in (c) and (d) above, it shall be deemed given upon receipt. (*9)

「通知」が上記(c)および(d)に記載された通り、直接交付されまたは電子メールで送信された場合、「通知」はその受領・受信時に交付されたものとみなす。(*9)

The Notice of changed address shall be given at least ten (10) Business Day (of the addressed Party) prior to the effective date of the change. (*10)

宛先の変更通知は、当該変更発効日の(宛先当事者の)10「営業日」前までに交付されなければならない。(*10)

【解 説】

(*1) (“Except as otherwise provided in this Agreement“)(本契約に別段の定めがある場合を除き):一般条項にある通知条項で想定されている通知は、通常、契約解除・不更新・契約違反・何らかのオプション権行使の通知等、厳格かつ確実な手続での意思表示・事実の通知等が必要とされるものです。これに対し、例えば、Distributorship Agreement(代理店契約)における商品の注文書(an order)・注文請書(an acceptance)等のやりとりは、通常、電子メールの交換等、より簡便な方法で行われます。従ってこれらの方法については別途規定しておくべきです(脚注の条項例[2]参照)。

(”any notice, consent or other communication required or permitted to be given in writing hereunder”) 契約の各条項では”approval”等違う用語が使われている場合もありますが、これらも”other communication”に含まれます。”in writing” とあるように、この通知条項の対象として想定されているのは、契約解除通知等、契約上書面で通知すべきことが規定されているものです。当然ながら、会議、電話等による口頭のコミュニケーションまで対象とされているわけではありません。しかし、ここで”in writing”とある以上、この通知条項の対象にしようとする通知については、各条項において、”in writing,” “a written …”と書くことを忘れてはなりません

(“in the English language”) このように通知言語までは指定されていない場合も多くあります。しかし、指定されていなくても、別段の事情のない限り、通常英語での通知が期待されていると思います。通知をする側としては、別段の事情のない限り、相手方に確実に意思を伝え、また、相手方から通知言語に関しクレームが出ないよう英語で通知すべきでしょう。

(通知の署名) 例えば、”…”Notice” … shall … be signed by the authorized representative of the sending Party of the Notice”(「通知」は…当該「通知」を送付する当事者を代表する権限ある者により署名されなければならない)のように下線部分を追加することも考えられますが、通知条項ではそこまで書いてある例を筆者はあまり見たことがありません。通知する側であれば当然この署名を付けるべきで、また、当然の前提とされているからかもしれません。しかし、例えば、自社がライセンス契約のライセンシーの立場でその契約にライセンサー側の一方的契約解除権が規定されている等の場合、相手方の意思を確実に確認するため、これを通知条項(または解除条項)で明記することを要求してもよいと思います。

(*2) 前述の通り、日本国内では、契約解除等の通知を内容証明郵便で行うことも多いと思いますが、国際取引では使うことができません。

(*3)”overnight air courier service (such as FedEx or DHL)”のように国際宅配業者の具体例を挙げることもあります。

(*4)”delivered by hand,” ”delivered personally”等と表現されることもあります。

(*5)”sent as an attachment file of an e-mail” の部分を”sent by facsimile transmission”に置き換えてFAXによる送信を認める場合もあります。しかし、現在では、日本以外ではFAXはあまり利用されていないようです[3]。従って、FAXを通知手段に含める場合は、相手方のFAX利用状況を事前確認すべきでしょう。また、FAXマシンの社内での配置・利用状況によっては秘密保持・セキュリティー等が確保できない場合があることも考慮すべきでしょう。

(*6)”the addressed Party”を”the receiving Party”と表現することもあります。当事者または通知すべき宛先が多い場合は、“to the address of the addressed Party specified below” の下線部分を”in Exhibit E”(別紙Eに記載された)のように修正し、別紙に記載してもよいでしょう。

(宛先の選択) 宛先として、”at the address first above written” のように契約書冒頭(前文、頭書等)に記載した両当事者の住所を指定している例もあります。しかし、契約書冒頭で書くのは、通常、本社等の住所のみであり、契約解除通知等の宛先としては不十分なので、この条項例のように別途通知条項の中に記載すべきです。

(宛先変更) 自社の組織変更・担当部署変更・本社移転等で宛先を変更すべき場合には直ちに相手方にここに書いてある方法で通知すべきです。もし宛先変更を通知し忘れていた場合には、相手方から重要な通知(例:契約違反通知)が旧宛先に通知された場合でも必要な対応(例:違反の認識に対する異議)をすることができないおそれがあるので注意を要します。反対に、相手方から有効な宛先変更通知を受けとった場合は、これを自社内関係者に周知し、通知発効以後に相手方に行う通知は、確実に、旧宛先ではなく変更後の宛先にしなければなりません。

(*7) この部分の具体的宛先としては、(i) その契約で意図されている取引の責任部署(および責任者)、(ii) (契約解除等の通知もあり得ることや営業部門は組織や責任者変更がより頻繁な傾向があることから)法務部門(およびその責任者)、 (iii) 法律事務所(および担当弁護士)、または、(iv) 確実性のため(i)~(iii)の組み合わせが考えられます

(*8) この投函・発送の「5営業日後」は、両当事者間の国際郵便事情等を考慮して定めるべきです。

(*9) これは、電子メールの「交付」時点(通信遅延・事故等がなければ通常即時)を定めています。例えば、30日間の是正期間が認められる契約違反通知については、30日の起算期間はこの交付時点となります。しかしこれは交付時点を定めただけですから、電子メールで通知し受信された場合でも、同じ内容の通知が、同時に航空書留郵便等によりなされなければ、有効な通知となりません

(*10)  宛先の変更通知自体も、ここで要求されている要件を満たす通知でなければなりませんが、宛先(相手方)当事者における準備・社内周知等を考慮し10「営業日」前までの「交付」を要求しています。この「営業日」は、別途定義条項で定義されている(脚注条項例[4]参照)という前提で、宛先(相手方)当事者側の所在都市における営業日を想定しています。

 

「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」第24回はここまでです。

 

「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」シリーズ一覧

[5]

                

【注】

[1] 【主な参考資料】 主に以下を参照した。

(a) 浜辺 陽一郎 「ロースクール実務家教授による英文国際取引契約書の書き方―世界に通用する契約書の分析と検討 第1巻(第3版」アイエルエス出版、2012年 p. 88~105

(b) 山本 孝夫「英文ビジネス契約書大辞典 〈増補改訂版〉」2014年 日本経済新聞出版社 p. 89~98

[2] 【注文書と注文請書の交換等の条項例】

 

Order and Acceptance.

注文および承諾

All orders for Products issued by Distributor (an “Order”) shall be initiated by purchase orders sent to Manufacturer and requesting a delivery date during the term of this Agreement.

ディストリビュータによる製品の全ての注文(「注文」)は、製造者宛ての購入注文によりなされかつ当該「注文」は納期を本契約期間内とするものでなければならない。

The issuance of an Order shall be made via an e-mail and shall be considered complete when Manufacturer received the email.

「注文」の発行は電子メールでなされるものとし、製造者が当該電子メールを受領した時点で完了したものとみなす。

Manufacturer shall use its reasonable best efforts to notify Distributor of the acceptance (an “Order Acceptance”) or rejection of an Order and of the delivery date designated on the Order within thirty (30) calendar days after receipt of the Order.

製造者は、「注文」および当該「注文」上指定された納期の承諾(「注文承諾」)または拒否を、当該「注文」受領後30暦日以内にディストリビュータに通知するよう合理的に最善の努力を尽くさなければならない。

The Order Acceptance shall be made via an e-mail and shall be considered complete when Distributor received the e-mail, and the Order and Order Acceptance shall constitute a legally binding purchase contract for the ordered Products at that time.

「注文承諾」は電子メールでなされるものとし、ディストリビュータが当該電子メールを受領した時点で完了したものとみなされ、かつ、当該時点において、当該「注文」および「注文承諾」により当該注文製品に関し法的拘束力ある購入契約が成立したものとする。

 

[3] 【海外におけるFAX利用状況】 日本経済新聞 「FAXは日本だけ? まだあるガラパゴスに市場も注目」 2015/6/13

[4] 【「営業日」の条項例】

 

“Business Day” shall mean Monday through Friday, except for legal holidays in London for ABC and in Tokyo for XYZ.

「営業日」とは、ABCの場合はロンドン、XYZの場合は東京における法定休日を除く月曜から金曜までを意味する。

 

[5]

==========

【免責条項】

本コラムは筆者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラムに関連し発生し得る一切の損害等について当社および筆者は責任を負いません。実際の業務においては、自己責任の下、必要に応じ適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

(*) このシリーズでは、読者の皆さんの疑問・質問等も反映しながら解説して行こうと考えています。もし、そのような疑問・質問がありましたら、以下のメールアドレスまでお寄せ下さい。全て反映することを保証することはできませんが、筆者の知識と能力の範囲内で可能な限り反映しようと思います。

review「AT」theunilaw.com(「AT」の部分をアットマークに置き換えてください。)

 

 

【筆者プロフィール】

浅井 敏雄 (あさい としお)

企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表/一般社団法人GBL研究所理事

1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで企業法務に従事。日本企業・外資系企業、計3社で法務・知的財産部門の責任者を歴任。1998年弁理士試験合格(現在は非登録)。2003年Temple University Law School (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事、国際取引法学会会員、IAPP (International Association of Privacy Professionals) 会員、CIPP/E (Certified Information Privacy Professional/Europe)

【発表論文・書籍一覧】

https://www.theunilaw2.com/

 

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