テレワークが労務管理にもたらす闇

今なぜテレワークが問題なのか?

この原稿を書いている2020年のゴールデンウィークの直後では、新型コロナ感染拡大が収束する目途は全く立っておらず、政府により発効されている緊急事態宣言も本年5月末まで延期された。世間では(少なくても多くの大企業では)テレワークが常態化し、従来型の働き方(ここでは“リアルワーク”と呼ぶこととする)に取って代わっている。今回のテレワークの普及は政府が推進する働き方改革の一環として、純粋な目的を持つ先進的なワークスタイルとして実施されているのではなく、新型コロナ感染拡大防止策(以下“コロナ対策”)としていわばやむにやまれず実施されているにせよ、テレワークもリアルワーク同様に労働法で認められた働き方として本来は何ら相違ないものであるのだが、現実に社会に浸透してくるといわば現在の法令を適切に当てはめようとすることが難しいものであることが分かってくる。

 

テレワークという働き方改革に潜むもの-労働法に照らして

(1)労働者の安全に関する雇用者の義務は?

最近はあまりに身近な言葉であるセクハラ・パワハラといったハラスメント一群もいわばこの点から生じているのだが、雇用者は労働者に対する安全配慮義務があり、雇用者が心身共に健全に業務をできる環境を整える義務がある。テレワークでは労働者個々人の職場環境は基本的に全て異なり、自宅やテレワークオフィス他になる。これらは本来雇用者には不可侵の場所であり、プライバシーの点から見ても雇用者がその就業環境を感知しえない環境である。しかも日常的に職場の管理者の五感に触れることは全くないこういった職場環境で、雇用者が労働者への安全に関する配慮義務を果たせるものか?労働者によっては自宅にテレワークに適したスペースすらない場合も考えられる。

(2) 労働時間管理は可能か?

労働法では労働者を時間で管理することが定められており、労働の内容で管理することにはなっていない。私はこの点でテレワークが日本型雇用システム(いわゆる“メンバーシップ雇用”という、新卒一括で入社し、特定の職務設計をされることなく会社の命じるままに異なる職種間を異動し、定年や再雇用終了等で一斉に離職する。)にくさびを打つものとして、今後大きく問題視されることになると考えている。リアルワークでは、朝始業時刻までに出社し、デスクや会議室、外出先等物理的に管理者が勤務状態を感知できる状態で業務が行われるが、テレワークではそれらの機会の大半が存在しないことになる。すなわち電話を含め、すべて音声と文字面の上のみの交流、交信となり対面方式によるコミュニケーションが存在しなくなるため、労働時間管理のために何か他のツールが必要となってくる。PCのオンオフのログ設定やその使用履歴をトレースするなどの方法もあるが、本人が就業時間中まんべんなく業務を行っていたかどうかという決定的な証拠にはならない。すなわちテレワークでは労働時間管理によるマネジメントにはある一定の限度があり、この点を改善する-すなわち労働時間に代わる何らかの指標を設けないことには労働の成果を図ることができないと判断される。
テレワークでは、オンライン画面ですべての仕事の見える化がされるため、リアルワークで毎日見ていた社員一人一人が仕事をしている姿(これが真実かどうかは後で述べる)が全く見えず、成果物はすべてオンラインのみで判断されることになる。すると朝定刻前の出社から夜の定刻後の退社まで会社で見ていた(見られていた)姿、それそのものが即ち成果の一部でもあると考えられていた現実が一切消滅し、オンラインでの業務報告等によって、成果(物)を出しているかどうかがドライに一目でわかってしまうのである。どこの会社でも実に多い現象であると思うのだが、出社してPCを見、会議にも多く出席していながら、実際は成果物らしきものをほとんど出していない社員は多くいる。それでもリアルワークの場合は他人の目に触れているだけで、仕事をしている(ように見える)と判断される場合が多いものが、テレワークになると日々の成果がガラス張りになるため、成果が出ているかどうかが白日の下にさらされることになるのであり、仕事をしているように見えるが実は成果を上げていない社員の存在が明確になってしまうのである。
結局のところ、日本型メンバーシップ雇用では極めて重視されていたヒューマンスキル、例えばリーダーシップに代表される統率力、メンター制度のようなOJTに基づく部下の面倒見やムードメーカーが醸し出す職場で意欲や働き甲斐を感じられるようにする雰囲気作り等、仲間意識を共有できるさまざまな機会に関しては(ゼロになるとは言わないが)、大きく減じられてしまうのである。

(3)デジタル化に伴うリストラとの関連は?

コロナ対策により既に往来している経済不況は過去にない大規模なものになるといわれ、既に多くの危機的兆候が表れている。既に昨年、まだコロナ対策など全く予想していなかった頃、黒字リストラと称されて何社かの大手企業は業績好調にも関わらず、将来のAIやRPAといった自動化を見据えて人件費に見合わない中高年社員に対し希望退職を募る状況があった。今回たまたまコロナ対策がもたらす大きな経済構造の変化を見据え、多くの企業が便乗してリストラを行う(コロナ便乗リストラと呼ばれている)ことは十分あり得る。その判断基準として、上記で述べたテレワークが醸し出す、真に成果を挙げている社員かどうかという判断が用いられると言われている。

一般的に日本は労働法上、社員に退職を求めることは非常に困難であると言われている。リストラを行う際に対象者を選抜することと、その対象者を説得することが鬼門となるのであるが、例えば整理解雇の場合の被解雇者選定についての客観的合理性として法令上で求められている要件を満たす必要がある。その点から考えると勤務成績や会社への貢献を判断する上でテレワークではほとんど全ての記録が保存できるので、他の社員との比較を含めた合理的な判断がしやすくなると言える。

 

今後の懸念

私のつたない経験より言わせて頂くと、やはりある程度は従来型のリアルワークとの折衷方式が望ましいと考える。例えば週3・4日テレワークで週1・2日リアルワーク等の組み合わせはどうであろう。またテレワークを単なるオプションとしての働き方とすることは反対である。コロナ対策以前のように日本型メンバーシップ雇用から見ればテレワークはヒューマンスキルが評価されにくい実績型であり、従来からのリアルワークを慣例とする流れもあって定着しにくいと考えられるからである。したがってある程度テレワークを選択することを義務づける方がよいと考える。今後はその普及に伴い、労働法令も改定されることも考えられる。

是非の問題は今後多く解決してゆかねばならないにせよ、テレワークは働き方改革の一環として、今後積極的に取り入れてゆかねばならないワークスタイルであると考える。今後はテレワーク実施に関し、より適切な環境が整備されてゆくことになるであろう。多くのトライアル&エラーを繰り返しても、テレワークが新しい働き方として発展してゆくことを願うばかりである。

 

 

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

【筆者プロフィール】
丸の内の世捨て人

建設系の会社の法務部門に通算20数年在籍し、国内・海外・各種業法・コンプライアンス関連などほぼ全ての分野に携わった経験を持つ。事業部門経験もあり、法務としてもその重要性を事あるごとに説いている。米国ロースクールへの留学経験もあり、社内外の人脈も広い。

 

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