Q&Aで学ぶ英文契約書の基礎 第21回 -  不可抗力:中国準拠法の場合

 

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今回は、中国企業から製品を輸入する契約において準拠法が中国法である場合、不可抗力(および事情変更)の問題がどのように扱われるかについて解説します。[1]

 

Q1: 当社は中国企業との間の継続的供給契約基づき、当該企業が製造する製品を輸入しています。しかし、この中国企業が今回のコロナウィルスの感染拡大により当面の間製品の製造が不能になったとして供給を停止すると通告してきました。   当社はこの製品を、他の日本の会社(最終納入先)に、同社指定の購買基本契約書に基づき継続的に供給しています。この契約書には供給不履行の場合の損害賠償条項があり、当社は、最終納入先から損害賠償請求される可能性があるように思います。   このような状況で、当社は、日本企業に損害賠償をした場合、中国企業に求償できるでしょうか? なお、中国企業との契約には不可抗力に関する定めはなく、準拠法は中国法です。

A2: 先ず、中国企業の主張が本当かどうか、説明・証拠を求め確認する必要があります。その結果、本当であれば、中国の契約法上、不可抗力に基づく免責が成立し、貴社は中国企業に求償できない可能性があります。

【解 説】

① 中国の契約法[2](以下単に「契約法」という)第117条によれば、不可抗力により債務が履行不能となった場合、不可抗力の影響に応じ、損害賠償等の責任の一部または全部が免除されます。なお、契約法上、「不可抗力」とは、「予見できず、回避できずかつ克服できない客観的状況」と定義されています。

従って、今回のコロナウィルスの感染拡大(以下単に「コロナ」という)自体またはコロナに関連し生じた事由(例:当局の規制)が「不可効力」に該当し、かつ、それらに起因し(因果関係)中国企業による製品製造が客観的に見て不能となった場合には、その不能となった限度において、同企業の貴社に対する損害賠償責任を免除されることになります。

② しかし、契約法第118条によれば、その不可抗力により契約上の義務を履行できなくなった当事者(以下「違約当事者」という)は、相手方当事者が蒙る損害を軽減するため、速やかに相手方当事者に通知し、かつ、合理的期間内に証明を提出しなければなりません

従って、中国企業は、貴社に対し、貴社が損害軽減措置(例:最終納入先への通知、調達先の変更)を講じることができるよう適時に不可効力発生事実・影響範囲等を通知したか否か、不可抗力の事由と製品製造不能との因果関係等を証明したか等が問題となります。

 一方、契約法第119条によれば、相手方当事者も損害の拡大を防止するため適切な措置を講じなければならず、かかる措置(以下「損害拡大防止措置」という)(その合理的範囲の費用は違約当事者負担)を怠ったことにより拡大した損害についてはその賠償を請求することはできません。

従って、貴社としても、合理的に可能な損害拡大防止措置があればこれを講じなければなりません。

④ 契約の解除については、契約法第94条によれば、不可抗力により契約の目的を達成できなくなった場合、当事者は契約を解除することができるとされています。

従って、貴社は、製品供給停止により「契約の目的を達成できなくなった」と言える場合には、他から調達する等のため、中国企業との契約を解除することができます。しかし、このハードルは高いとされています。[3]

【上記①~④に関し貴社がとるべき具体的対応】

① 「不可抗力」の成立および履行不能との因果関係

脚注に挙げた参考資料によれば、コロナに関連する中国最高人民法院の通知はまだないものの、2003 年 6 月のSARS に関する通知においては、以下のいずれかの場合に限り、上記の不可抗力規定に従い裁判を行うとし、適用に厳格な姿勢が示されていました。コロナについても同様に解されると思われます。

(i) SARS 被害拡大防止のための行政措置を直接の原因とする履行不能の場合

(ii) SARS 被害自体を直接の原因とする履行の根本的不能の場合

また、不可抗力と履行不能の因果関係については、事案ごとに、行政措置やコロナ自体が債務履行に与えた影響の範囲・程度等に基づき検討する必要があります。

従って、貴社の場合、特にこの因果関係について中国企業の説明と証明を求めるべきものと思われます。

②違約当事者からの適時の通知と証明

貴社の場合、中国企業が行政措置またはコロナが製品製造に悪影響を与えることを認識し(または認識できた筈の)時点と、その後貴社に適時かつ適切な説明をしたか否かを検証する必要があります。

③相手方当事者による損害拡大防止措置

貴社としても、中国企業から貴社の損害拡大防止措置を問われた場合に備えて、その適切性を確認し証拠を準備しておく必要があります。

④契約の解除

契約の解除は、不可抗力により「契約の目的を達成できない」場合にのみ認められます。この場合に当たるか否かは、契約の性質、不可抗力による影響の程度等を踏まえて総合的に個別に判断しなければなりません。過去の判例においては、単に、減収になった程度では該当しないとされています。

 

Q2: 中国企業に追加の説明と証明を要求したところ、不可抗力免責は難しいかもしれない(コストをかければ履行は可能)と思ったようで、「事情変更」による履行時期の延期、製品価格の値上げ等を併せて主張するようになりました。中国法上「事情変更」という概念や関係規定はあるのですか?

A2: 契約締結後に重大な変化が生じ、不可抗力の場合のように履行が不能とまでは言えないものの非常に困難になった場合の法的取扱いについては、一般に「事情変更」(中国語では「情勢変更」)の問題として議論されています。中国法上、事情変更に関する明文の規定はありません。しかし、中国の最高人民法院は、中国契約法上の公平の原則(5)に基づき、一定の要件のもと、事情変更による契約内容の改訂または解除を認めています。

【解 説】 

最高人民法院が公布した「契約法の適用の若干問題に関する解釈(二)」[4]第26条に事情変更に関する規定があります。これによれば、契約締結後に重大な変化が生じ、不可抗力の場合のように履行が不能ではないものの非常に困難になり、かつ、以下の全ての条件を満たす場合、人民法院は、当事者の求めに応じ、公平の原則に基づき、個別事情に応じ、当該契約を変更または解除(解消)すべきか否かを決定するとされています。

【事情変更の要件】

①当該変化を当事者が契約締結時に予見することはできなかったこと

②当該変化は「商業リスク」に属するものではないこと

③当該変化により、契約の履行継続が一方当事者にとり明らかに不公平となったこと、または、当該変化により契約の目的が達成できなくなったこと

本件の場合、②と③が問題になると思われます。ここで、「商業リスク」とは、一般に、当事者が予見し得る範囲内の市場・原材料・運賃・賃金等の価格変動およびこれらによる生産コスト上昇等であり個別事情に応じ総合的に判断するとされています[5]。従って、貴社としては、中国企業に対し、履行費用の具体的増加額、その根拠・裏付け、履行した場合の中国企業の具体的損益等の説明・証明を要求し、②と③の要件の成否を検討すべきでしょう。

 

Q3: 仮に準拠法が日本法であった場合、事情変更の取扱いはどうなりますか?

A3: 日本法上、事情変更の原則は確立しているとする説はあります。しかし、本件のようなケースで適用されるかは不明です。

【解 説】

日本法上は、借地借家法(11, 32)に、賃料相場の大幅変動による賃料増減額請求権等、特定の場合に関し、事情変更の原則を具体化したと見ることができる規定があります。しかし、本件のような事案にも適用できる一般的な規定はありません。

民法(債権関係)の改正に関する検討過程において、次のような考え方があるがどう考えるかということが検討されました[6]

「判例は、事情変更の原則(契約締結後その基礎となった事情が、当事者の予見し得なかった事実の発生により変更し、このため当初の契約内容に当事者を拘束することが極めて苛酷となった場合に契約の解除や改訂を認める法理)を認めており、既に一般的な法理として確立しており、民法上事情変更の原則を明文化すべきである」。

しかし、実際には改正民法に明文化されることはありませんでした。また、判例で契約の解除または改定を肯定したものも主に不動産に関する高裁・地裁の判例で件数も多いとは言えません[7]

従って、本件のようなケースで適用されるか否かは不明です。

 

「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」第22回はここまでです。

「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」シリーズ一覧

[8]

                 .                  

【注】

[1] 【中国法上の不可抗力・事情変更の取扱いに関する主な参考資料】 

(a) 中国 唐山市日本事務所 「中華人民共和国契約法」(和訳)

(b) (中国)方達法律事務所「新型コロナウィルス感染拡大の影響下にある不可抗力の適用について」中国法速報2020年2月 第46期(「方達」)

(c) 長島・大野・常松法律事務所 NO&T Client Alert「新型コロナウィルスに関連する契約不履行と不可抗力」(2020年2月)

(d) Lee Tsai & Partners – Teresa Huang and Jolene Chen ”Whether the Novel Coronavirus Outbreaks Can Serve as the Ground for Adjusting Contract Performance Obligations (Mainland China)” March 1 2020

(e) 西村あさひ法律事務所「新型コロナウィルスに関する法務問題Q&A-労務問題、取引契約(不可抗力)、業務運営、優遇・支援策-」 中国ニューズレター2020年2月19日号, 西村あさひ法律事務所「新型コロナウィルスの感染症流行から順次生じる五つの論点(隔離措置→労使関係・家賃減免→不可抗力→撤退等)」中国ニューズレター2020年3月19日号

[2]【中国契約法】 (和訳) (1) JETRO 「中華人民共和国契約法(抄録)」、 (2) 中国 唐山市日本事務所編 「中華人民共和国契約法」。 (英訳) WIPO “CONTRACT LAW OF THE PEOPLE’S REPUBLIC OF CHINA

[3]【不可抗力により契約の目的を達成できなくなった場合】 (参考資料)中村祐子・若林耕・胡絢静 「新コロナウィルス(Covid-19)による契約債務不履行が不可抗力を理由に免責となるか~香港法(コモンロー)、日本法、中国法からの比較~」-「CHINA LEGAL UPDATE(2020年3月6日号)」 アンダーソン・毛利・友常法律事務所。この資料(p 6)では以下のような判例が紹介されている。

(旅行運営会社と客船オーナー会社間のクルーズ船リース契約に関する判例) 旅行運営会社が、SARSの影響で中国政府が団体ツアーを制限したため旅客が激減し運営が成り立たないことを理由に契約解除を主張。しかし、裁判所は、クルーズ船運営停止期間がリース契約上の年間賃料の約45%相当に過ぎず、契約の目的を実現できないまでとは言えないとして、当該主張を退けた。

[4]【「契約法の適用の若干問題に関する解釈(二)」】 JETROから解説と和訳が公表されている。中国海事仲裁委員会のサイトに掲載されている英訳ある。第26条については前注「方達」p4脚注も参照。事情変更に関しては以下も参照:胡 光輝「中国契約法における事情変更の原則」 東京大学社会科学研究所 社會科學研究 62(5・6), 119-140, 2011(「胡」)

[5] 【「商業リスク」の意味】 「胡」 p128,129

[6] 【民法改正の検討過程における事情変更の原則についての検討】 (参照)民法(債権関係)部会資料19-1「民法(債権関係)の改正に関する検討事項(14)」p4~6

[7] 【事情変更の法理に関する判例・裁判例】 民法(債権関係)部会 分科会資料 8 「情変更の法理(部会資料48記載)に関する判例・裁判例

[8]

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【免責条項】

本コラムは筆者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラムに関連し発生し得る一切の損害等について当社および筆者は責任を負いません。実際の業務においては、自己責任の下、必要に応じ適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

(*) このシリーズでは、読者の皆さんの疑問・質問等も反映しながら解説して行こうと考えています。もし、そのような疑問・質問がありましたら、以下のメールアドレスまでお寄せ下さい。全て反映することを保証することはできませんが、筆者の知識と能力の範囲内で可能な限り反映しようと思います。

review「AT」theunilaw.com(「AT」の部分をアットマークに置き換えてください。)

 

 

【筆者プロフィール】

浅井 敏雄 (あさい としお)

企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表

1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで複数の日本企業および外資系企業で法務・知的財産部門の責任者またはスタッフとして企業法務に従事。1998年弁理士試験合格(現在は非登録)。2003年Temple University Law School (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事、国際取引法学会会員、IAPP (International Association of Privacy Professionals) 会員、CIPP/E (Certified Information Privacy Professional/Europe)

【発表論文・書籍一覧】

https://www.theunilaw2.com/

 

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