Q&Aで学ぶ英文契約書の基礎 第21回 -  不可抗力条項(2)

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今回は、前回に引き続き、「不可抗力条項」に関し解説します。

 

Q1: 前回示された不可抗力条項のバリエーションはありますか?

A1: 例えば、前回の例文の規定(下の①の部分)に加え、②以下のような不可抗力による影響の最小化、契約解除権、金銭債務の特則等に関し規定する場合があります。

 

 Neither Party shall be liable to the other Party for any delay or failure in performing its obligations under this Agreement (except for obligations to make payments) if and to the extent such delay or failure arises from any causes beyond its reasonable control (“Force Majeure”), including but not limited to act of God, acts of government or governmental authorities, compliance with law, regulations or orders, fire, storm, flood or earthquake, war (declared or not), rebellion, revolution, or riots, or strike or lockouts.

いずれの当事者も、本契約上の義務(但し支払債務を除く)の履行遅滞(delay)または不履行(failure)が自己の合理的な支配が及ばない(beyond its reasonable control)事由(以下「不可抗力」という)により生じた場合には、その限度で、当該履行遅滞または不履行に関し相手方に対する責任を負わないものとする。不可抗力には天災(acts of God)、政府または政府機関(governmental authorities)の行為、法律、規制または命令の遵守、火災、暴風雨、洪水もしくは地震、戦争(宣戦布告の有無を問わない)、反乱(rebellion)、革命もしくは暴動(riots)またはストライキもしくはロックアウトを含むがこれらに限定されない。

② The Party affected by the Force Majeure shall (i) make all reasonable efforts to minimize the effect of such delay or failure and (ii) give the other Party a written notice of the occurrence, nature and the practical effect of the Force Majeure as soon as practicably possible.

当該不可抗力の影響を受けた当事者は、(i) 当該履行遅滞または不履行による影響を最小限にする(minimize)ための合理的な努力をし、また、(ii)当該不可抗力の発生、その内容および実際の影響に関し、現実的に可能な限り早期に(as soon as practicably possible)書面で他方当事者に通知しなければならない。

If the delay or failure by the Force Majeure continues for ninety (90) days or more, either Party may terminate this Agreement by giving at least thirty (30) days’ prior written notice to the other Party.

当該不可抗力による履行遅延または不履行が90日以上継続した場合、いずれの当事者も、遅くとも30日前までに他方当事者に書面で通知することにより本契約を解除することができる

④ The provisions of this Article shall not relieve either Party of obligations to make payment when due under this Agreement.

いずれの当事者も、本条の規定により、本契約に基づき期限通り支払債務を履行する義務を免れるものではない

【規定②~④の解説】

② 天災等不可抗力の影響を受けた当事者は、自ら履行遅滞等の影響を最小化する方策(例:他の工場での生産)を講じるとともに、他方当事者に不可抗力の発生等を通知し、他方当事者が可能な対策(例:他からの調達)を講じることができるようにします。通知については”immediately”(直ちに)とする例もあります。しかし、地震・津波等により人命等を優先すべき場合もありますから、ここでは、”as soon as practicably possible”(現実的に可能な限り早期に)通知すべきものとしました。

 履行遅滞等が一定期間以上継続した場合、いずれの当事者からも契約を解除できるようにして、債権者は他からの調達等ができるようにし、債務者も以後の債務(例:供給義務)を免れるようにします。このような場合、債権者だけでなく債務者にとっても契約解除の必要性があると思われるので両当事者の権利としました。

 

Q2: 例えば、地震等が発生したことを証明すれば、それだけで不可抗力免責を得ることができますか?

A2: そうではありません。あくまで、具体的な債務の不履行等がその不可抗力事由により生じたこと(因果関係)、それが合理的な注意・予防をしても回避できなかったこと等を証明しなければなりません

【解 説】

不可抗力免責は、①の例文の通り、債務不履行等が債務者の「合理的な支配が及ばない事由により生じた」ことが前提条件(適用要件)となっていますから、上記のような証明が必要となります。より具体的には、Q3以降で解説します。また、次回で解説する中国法における扱いを参照して下さい。

 

Q3: 例えば、相手方に製品を供給する長期の契約で、その製品の製造に必要な部品や原材料の調達価格が世界的経済変動により大幅に高騰したような場合は、不可抗力の場合のように製品が供給不能とは言えませんが、従来通りの価格では供給を継続することが困難になることがあると思います。このような場合を想定した条項はありますか?

A3: このような場合を想定した国際契約の条項としては、Hardship(ハードシップ)(履行困難)条項と呼ばれるものがあります。

【解 説】

ハードシップ条項とは、一般的には、契約締結後に、当事者が契約時に予見し得ない経済変動が生じ、一方の当事者がその債務を契約通り履行することが「不能」とは言えないまでもコスト上非常に困難また過酷になるような状況(Hardship[1])を想定し、そのような状況が発生した場合の取扱いを定める条項をいいます。

不可抗力に類似した状況に関する条項ではあるものの、具体的な内容は異なるので、二者択一ではなく両方規定されていても矛盾するものではありません。

フランス法[2]や次回解説する中国法等、国によってはハードシップ状況における取扱いを法律で規定している国もあります。

予め、原価に一定限度以上の変動が生じた場合に当事者間の売買価格を一定の計算式により調整するための条項(「エスカレーション条項[3]」と呼ばれる)を契約に規定する場合もあります。しかし、このようなことが現実的でない場合には、一般的には、両当事者間で契約の内容または解除等について協議する旨を規定することが多いと言えます。

以下にハードシップ条項の例を示します。

(例文[4]

If between the Effective Date and the date on which the performance of obligations of either Party under this Agreement is to be made, there should be a material change in market condition or other circumstances, or a substantial change in exchange rate, which would impose hardship on either Party in performing its obligations under this Agreement, then both Parties shall, at the request of either Party, meet and discuss and review in good faith, the terms and conditions of this Agreement so that they may be revised to resolve and overcome such hardship for mutual benefit of both Parties and the maintenance of their good relationship.

本契約の発効日といずれかの当事者が本契約上の義務を履行すべき日との間に、市場の状況その他の状況に重大な変化(material change)または為替レートの重大な変化(substantial change)が生じ、それにより、いずれかの当事者による本契約上の義務履行に重大な困難(hardship)が生じた場合、両当事者は、いずれかの当事者が要請したときは、両当事者の相互の利益および良好な関係維持のため当該困難を解決し克服すべく本契約の条件(terms and conditions)が修正されるよう、会合し、誠意をもって当該条件について協議しこれを見直すものとする。

 

「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」第21回はここまでです。今回の新型コロナウィルスの感染拡大により中国企業も大きな影響を受けています。次回は、中国企業から製品を輸入する契約において準拠法が中国法である場合に不可抗力の問題がどのように扱われるかについて解説します。

 

「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」シリーズ一覧

[5]

                 .                  

【注】

[1]【ハードシップの概念】 (参考)UNIDROIT(ユニドロワ)(私法統一国際協会:私法の国際的統一を目的とする国際組織)Principles of International Commercial Contracts (UPICC) 2016(国際商事契約原則2016年版)6.2.2(ハードシップの定義)。以下筆者訳。[  ]内は筆者の補足。

(ハードシップの定義)

ある事由(events)が発生し、一方の当事者による履行の費用が増加しまたは一方の当事者が受ける履行の価値(value of the performance)が減少したことにより、当該契約の均衡性(equilibrium)に重大な変化が生じ、かつ、以下の全ての要件が満たされる場合には、ハードシップ(hardship)が存在する[ものとみなす]。

(a)当該契約の締結後に、当該事由が発生したこと、または、[当該事由により]不利益を蒙った(disadvantaged)当事者[「不利益当事者」]が当該事由[の存在]を知ったこと。

(b)不利益当事者が当該事由を当該契約締結時点で考慮することは合理的にみてできなかったこと。

(c)当該事由が不利益当事者の支配が及ばない(beyond the control)ものであること。

(d)不利益当事者が当該事由のリスクを引き受けては(assume)いなかったこと。

[2]【フランス等におけるハードシップに関する規定】 (参考)Eurojuris International “Hardship clauses in international business contracts” July 2016。 この資料では要旨以下の通り説明されている。

フランス契約法(Civil Code第1195条): 契約締結時に予見できなかった状況変化により一方当事者の履行コストが過大となった場合、当該当事者は相手方に対し契約条件の再交渉を請求できる。相手方が再交渉を拒否した場合または両者が契約条件の修正に合意できなかった場合、両者は合意により、裁判所に調停を申立てることができる。合理的期間内に、裁判所の調停による修正合意が成立しない場合には、更に両者の要請により、裁判所が契約の終了を宣言しまたは契約内容を修正する。(但し、以上の規定は、契約上その適用を排除することができる。)

英国(England and Wales)法: 単にハードシップ条項を規定してもよいとされているに過ぎない。

ドイツ法: ハードシップ条項を規定してもよい。継続的債務に関し、一定の重大な事情変更があった場合、当該債務者は相手方に契約の変更または終了を請求できる。

[3]【「エスカレーション条項」 の例】 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 「エスカレーション条項

[4]【ハードシップ条項の例】 山本 孝夫「英文ビジネス契約書大辞典 〈増補改訂版〉」 2014年 日本経済新聞出版社(「山本孝夫」) p232, 233に掲載されている例文と訳を若干筆者が修正した。

[5]

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【免責条項】

本コラムは筆者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラムに関連し発生し得る一切の損害等について当社および筆者は責任を負いません。実際の業務においては、自己責任の下、必要に応じ適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

(*) このシリーズでは、読者の皆さんの疑問・質問等も反映しながら解説して行こうと考えています。もし、そのような疑問・質問がありましたら、以下のメールアドレスまでお寄せ下さい。全て反映することを保証することはできませんが、筆者の知識と能力の範囲内で可能な限り反映しようと思います。

review「AT」theunilaw.com(「AT」の部分をアットマークに置き換えてください。)

 

 

【筆者プロフィール】

浅井 敏雄 (あさい としお)

企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表

1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで複数の日本企業および外資系企業で法務・知的財産部門の責任者またはスタッフとして企業法務に従事。1998年弁理士試験合格(現在は非登録)。2003年Temple University Law School (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事、国際取引法学会会員、IAPP (International Association of Privacy Professionals) 会員、CIPP/E (Certified Information Privacy Professional/Europe)

【発表論文・書籍一覧】

https://www.theunilaw2.com/

 

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