プラットフォーム事業者における個人情報と検討ポイント(続編)

記事広告:『終身雇用終焉後の法務キャリア

 

このコラムでは、民間企業でビジネス経験のある法務担当者が、企業法務の世界に関心のある方向けに、初めてでも分かりやすい内容に噛み砕いてノウハウを公開していきます。

 

はじめに

企業法務のミッションとは、事業の法的リスクに関するアドバイスや法的トラブル防止、トラブル時の損失最小化であり、それらを通じて事業収益に貢献することです。ただし営業職のような数値による収益目標が課されないため、何をすれば企業の利益を守れるのかを常に考えていないと、実践的でないアドバイスや必要以上の事務負担をしてしまいがちです。

本コラムは、ビジネスの現場で法務担当者が本当に役立つためにはどうしたらいいか、という視点で様々なノウハウをお伝えしています。今回は、人材紹介系のプラットフォーム事業者における個人情報の取扱いのポイントについて書きたいと思います。

 

業種によって特別ルールが上乗せされている個人情報保護法

企業法務担当として個人情報の取扱いについて検討する場合、個人情報保護法の法律、施行規則、さらに実務上の指針となるガイドラインやQ&A(いずれも以下リンク)を確認する必要があります。また、自社の事業特性に応じて、特定事業分野に関するガイドラインや保護法以外の業法規制についての論点を優先的にケアする必要があることは、以前3つの分野を例に挙げてご紹介したとおりです(①広告、②SNS等のチャットサービス、③金融)。今回は4つ目の分野として人材紹介分野を取り上げます。

 

★個人情報保護法の法令・ガイドライン・Q&A

https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/

 

④ 人材紹介領域編

人材紹介関連のプラットフォーム事業者においては、保護法、ガイドライン、Q&Aを参照することよりもまず自社業務の職安法上の立ち位置を確認すべきです。そのうえで、該当する法令上の区分に従い、個人情報の取扱いを行う必要があります。特に昨今のインターネットを利用した求人のマッチングサイトは、(旧来の一方向的、一対多数的な情報掲載とは異なり、)双方向で1to1のマーケティング要素が強いことから、中間にいるサイト運営業者において求人サイド及び求職サイドの情報をコントロールしやすい、という点が問題視されているようです。

(参考) 2017年9月1日 労働調査会コラム「改正職安法の「募集情報等提供」の意味」https://www.chosakai.co.jp/information/alacarte/19568/

 

 

・「職業紹介」(職業安定法第4条第1項)にあたる場合の個人情報取扱い

まず、自社業務が職安法上の職業紹介にあたるかどうかを確認します。職業紹介とは、「求人及び求職の申込みを受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立のあっせんをすること」(「あっせん」とは、「求人者と求職者との間をとりもって雇用関係の成立が円滑に行われるように第三者として世話すること」)ですので、明かにこちらに該当する事業を行っている場合には厚労省の許可の下、適切な運営をすることとなります。

個人情報の取扱いについては以下の業務運営要領にて詳細に規定されています。

 

  • 令和元年9月14日から適用される職業紹介事業の業務運営要領

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000172486.html

 

・「募集提供等事業者」(職業安定法第4条第6項)にあたる場合の個人情報の取扱い

他方、判断の境界が悩ましいと思われる事業もあります。オンラインで求人の紹介のみを行っている事業者については、どのような運営をしているかによって職安法の区分が分かれます。上記リンクの職業紹介事業の業務運営要領第3の1(3)イ(P.12)によれば、「職業紹介に該当しない業務(第1の1(2)イ参照)のみを行う事業所については、職業紹介事業の許可又は事業所の新設に係る変更届出は不要」です。さらに、より具体的な基準として、募集提供等事業者の業務運営要領第1の2の各要件(以下のイロハ)に照らして判断する必要があります。

なお、運営要領の記載からは、各要件のいずれかに該当する場合に職業紹介にあたるということまでは分かるものの、具体的な事例については現時点で記載されていません(今後追記予定とのことです)。その代わり、現時点で参考になるものとして、運営要領の適用前から判断軸として参照されていた「民間企業が行うインターネットによる求人情報・求職者情報提供と職業紹介との区分に関する基準について」の例2~4を併せて検討すると良いです。

 

イ 提供される求職者に関する情報若しくは求人に関する情報の内容又は提供相手につ いて、あらかじめ明示的に設定された客観的な条件に基づくことなく当該者の判断により選別又は加工を行うこと。

ロ 当該者から、求職者に対する求人に関する情報に係る連絡又は求人者に対する求職に関する情報に係る連絡を行うこと。

ハ 求職者と求人者との間の意思疎通を当該者を介して中継する場合に、当該意思疎通の内容に加工を行うこと

 

  • 平成31年4月1日から適用される募集情報等提供事業の業務運営要領

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000179548.html

 

募集提供等事業者として個人情報を扱う際の留意点として、イとハの下線部にあたるような、事業者における情報の選別加工を行っていないかどうかをチェックするとよいです。求職者に関するウェブ上の行動履歴や収集した属性情報を自社で突合し、分析している場合にはここでいう「選別又は加工」に該当しないかどうかを検討する必要があります。その他、個人情報の取扱いの留意点は上記の運営要領に記載の通りですが、特に、ユーザーの個人情報をウェブで収集している場合には、同意の有効性、利用の範囲、秘密に該当する個人情報(※)について第三者に知らされることのないよう厳重な管理を行っているかどうかが運営上の重要なポイントとなります。

 

募集提供等事業者の個人情報の取扱いに関しては、昨今のリクナビDMPフォローの個人情報利活用問題を契機として、厚労省から全国求人情報協会宛てに以下の通達が出ていますので、ひとつの運用目安として参考になると思います。(この通達は、運営会社であるリクルートキャリアおよびリクルートが個人情報の不適切な取扱いに関して職安法違反であるとして2019年12月に行政指導を受ける前の段階で出されています。)

 

★募集提供等事業者等の適切な運営について(2019年9月6日)

https://www.mhlw.go.jp/content/000545728.pdf

 

なお、募集情報等提供事業の業務運営要領によれば、「個人情報のうち「秘密」 とは、一般に知られていない事実であって(非公知性)、他人に知られないことにつき本人が相当の利益を有すると客観的に認められる事実(要保護性)をいうものである。具体的には、本籍地、出身地、支持・加入政党、政治運動歴、借入金額、保証人となっている事実等が秘密に当たりうる。」とのことですが、これらは例示に過ぎず、保護法益を棄損する情報であれば秘密に当たる趣旨であるようにも読める点については留意が必要です。

 

まとめ

このように、プラットフォーム事業者が個人情報を取扱う際には業種別の特別ルールが無いかどうか、特に規制観点から検討することが重要です。今後個人情報の改正が予定されており、それに伴い各種業法における対応スコープが変化してくる可能性がありますので引き続き適用される規制のフォローアップを行うことをお奨めします。

 

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応下さい。

 

【筆者プロフィール】
高橋 ケン

慶應義塾大学卒。

大手メーカー法務部にて国際法務(日英契約業務を中心に、ビジネス構築、社内教育、組織再編、訴訟予防等)、外資系金融機関にて法人部門の企画・コンプライアンス・webマーケティング推進業務を経験。現在、大手ウェブ広告企業の法務担当者として、データビジネス最前線に携わる。

企業の内側で法務に携わることの付加価値とは何か?を常に問い続け、「評論家ぶらない」→「ビジネスの当事者になる」→「本当に役に立つ」法務担当者の姿を体現することを目指す。

シンプルに考えることが得意。

 

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