Q&Aで学ぶ英文契約の基礎(16) -  紛争解決条項(5)

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この「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」第16回では、実際に仲裁が行われることになった場合の手続の流れ等について解説します。

 

Q1 : 仲裁の手続の流れを教えて下さい。

A1: 以下に概要を示します。なお、今回は、主に日本商事仲裁協会(Japan Commercial Arbitration Association)(JCAA)の「商事仲裁規則2019」(”Commercial Arbitration Rules 2019“)に従い解説します。

 

 

Q2: 各手続の内容を教えて下さい。

A2: 以下に解説します。

 

Day 1: 申立人が仲裁申立書提出】 (「Day〇」は仲裁申立日からのおおよその経過日数)

仲裁申立書は訴状に相当するものです。次のような事項を記載しJCAAに提出します(規則14)。JCAA規則上の提出、送付、通知等は、FedEx, DHL等により行うことができます(到達主義)(7)。

・当事者(およびその代理人弁護士)の表示・連絡先

・紛争の概要

・請求の趣旨(申立人が求める仲裁内容)

・契約に規定した仲裁合意の内容

 

Day 8: 被申立人が仲裁申立書受領】

JCAAは、遅滞なく、 被申立人に対し、仲裁申立書を添付して仲裁申立てがあったことを通知します(16)。

 

Day 30:被申立人が答弁書提出】

被申立人は、 仲裁申立通知受領後4週間以内(ICCでは30日)に、 次のような事項を記載した答弁書 をJCAAに提出しなければなりません(18)。

・代理人弁護士の表示・連絡先

・答弁の趣旨(仲裁申立書の「請求の趣旨」に対する反論)

また、被申立人は、同じ期間内に、反対請求の申立てをすることができます(19)。

 

Day 40:仲裁廷の成立】

契約で仲裁人を3名と規定していた場合、 両当事者は、 被申立人の仲裁申立書受領後3週間以内に、 それぞれ1名の仲裁人を選任しJCAA に通知をしなければなりません(28(1))。この2名の仲裁人は、 JCAAによる確認通知受領後3週間以内に、 第三仲裁人を合意により選任しJCAAに通知します(28(4))。

仲裁人を1名と規定していた場合には、 被申立人の仲裁申立書受領後2週間以内に、両当事者の合意により仲裁人を選任した上JCAAに通知し、この期間内に通知がなければJCAAがその仲裁人を選任します(27)。

仲裁人が3名の場合、 第三仲裁人が仲裁廷の長となり、審問・仲裁廷の合議の主宰、仲裁判断の第1案作成等を行います(31(3))。

なお、どの仲裁人も、その在任中は公正かつ(当事者の代理人とは異なり、その仲裁人を選任した当事者からも)独立していなければならず(24(1))、この点に関し疑いがある場合、相手方当事者は忌避申立が可能です(34)。

 

Day 50: 手続準備会の開催】

仲裁廷成立後、可及的速やかに手続準備会(Procedural Meeting)が開催されます(ビデオ会議、電話会議となることも多い)(43(2))。

手続準備会では、証拠開示の程度、仲裁手続の日程等の手続的事項が議論されます。仲裁廷は、手続準備会終了後、この手続的事項に関する両当事者の合意(合意不成立の場合は仲裁廷の判断)を記した手続命令(Procedural Order)を発行します。

JCAAの規則では、仲裁廷は、 その成立の日から9か月(約270日)以内に仲裁判断をするよう努めなければならないことになっています(43(1))。

 

Day 90: 申立人が主張書面提出】

Day 130: 被申立人が主張書面提出】

申立人の主張書面(Statement of Claim)と被申立人の主張書面(Statement of Defence)とともに、事実に関する証人(「事実証人」)(Witness)の陳述書、専門家証人(Expert Witness)の専門家意見を提出する場合もあります(44(1))。

 

Day 131~200: 証拠開示手続】

証拠開示(Discovery)は、両当事者が、自己の手元にある証拠(電子文書を含む文書、物件、証人)を相手方に提出・提示する手続です。米国の民事訴訟におけるDiscoveryでは、両当事者は、原則として、事件に関係する限り、相手方から要求された証拠の開示を拒否できません。

しかし、仲裁における証拠開示については、国際法曹協会の作成した「IBA国際仲裁証拠調べ規則(2010)」(IBA Rules on the Taking of Evidence in International Arbitration(2010)) があり、仲裁廷は、これをガイドラインとして採用することが多いと言われます。

このIBA規則は、米国流の広範なDiscoveryと日本等の大陸法系の制限的な証拠開示制度の調和を目指したものです。例えば、文書提出要求(Request for Documents)では、①要求文書のカテゴリーを十分に限定かつ特定しなければならず、また、②仲裁の対象事項と関連性がありかつ仲裁判断を下すに当たり重要である理由を記載しなければならないことが規定されています(3(3))。

 

Day 230: 両当事者が再主張書面提出】

証拠開示終了後、当事者がそれまでの相手方の主張に反論するための再主張書面(Reply Statement)を提出することがあります。

 

Day 250: 審問前準備会】

審問前準備会(Pre-hearing Conference)は、審問(Hearing)の行われる日(審問期日)の直前1~数週間に開催されます(ビデオ会議、電話会議となることも多い)。

この準備会では、審問期日の時間割り、証人尋問の順序、通訳・速記の手配等の段取り等が議論されます。仲裁廷は、審問準備会終了後、この段取り等に関する両当事者の合意(合意不成立の場合は仲裁廷の判断)を記した手続命令(Procedural Order)を発行します。

 

Day 270~275: (口頭)審問期日】

通常、審問(Hearing)は、仲裁廷、両当事者の代理人・担当者、事実証人、専門家証人が物理的に会して行われます。その場所(ホテル、代理人弁護士の事務所、貸し会議室、国際仲裁専用施設等)は、両当事者の合意で決めることができ、必ずしも仲裁地(の国の都市)でなくても構いません。

審問は、月曜~金曜・毎日9時~18時のように、1~数週間、連続して開催されることが多いとされます。

 

Day 305: 両当事者が最終主張書面提出】

(口頭)審問終了後、証人尋問の結果等を踏まえて各当事者が自己の主張を整理した最終主張書面を提出することがあります。

 

Day 365: 仲裁判断】

仲裁廷は、仲裁判断を行うことができると判断した場合、 審理の終結を決定し(60)、仲裁判断(判決に相当)をしなければなりません(62)。

仲裁廷が仲裁判断において準拠すべき法は、 契約等で準拠法(仲裁地の仲裁法とは別)が規定されていればそれによります(両当事者の合意がなければ、仲裁廷が紛争に最も密接な関係がある国と認める法令)(65)。

仲裁判断書には、 主に次のような事項が記載されます(66(2))。

・主文

・判断の理由

仲裁判断は、 終局的であり当事者を拘束し(64)、確定判決と同一の効力(既判力・一事不再理効)を有します(仲裁法45(1))。

 

Day XXX: 仲裁判断の承認・執行】

外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約」(ニューヨーク条約)の各締約国は、仲裁判断を拘束力のあるものとして承認し、かつ、執行しなければなりません(条約3)。当事者は、仲裁判断の認証原本等を添付して承認・執行を申し立てなければなりません(4)。

 

Q3: 仲裁人の人数は1名または3名、どちらがいいですか? また、具体的な仲裁人はどのように選べばよいですか?

A3: 仲裁人の人数は、以下のようなことを考慮して決めるべきです。

具体的な仲裁人は、国際仲裁の経験が豊富な弁護士等(但し仲裁人の資格・要件はない)から選任すべきです。各仲裁機関は仲裁人名簿を用意しておりそれを公表している場合もあります(但し、中国のCIEATCを除き、名簿以外からの選任可能)。

 

【仲裁人の人数決定上の考慮事項】

・ コスト(仲裁人の報酬・旅費等)、仲裁の進行のスピード(合議の要否)等の面では1名の方にメリットがある。

・ 仲裁判断に誤りが生じるリスクや、紛争に関する専門知識を有する仲裁人を含めることができる可能性、各当事者の希望する仲裁人選任(3名なら最低限1名は可能)等の面では3名の方にメリットがある。

・ 予想される紛争の金額的規模・重要性(一般に3名の方がより慎重な判断が期待できる)。

 

Q4: 仲裁は非公開と理解していますが、当然、仲裁の当事者も仲裁内容の秘密保持義務を負うと理解してよいですか?

A4: いいえ。仲裁規則によります。

 

【解説】

JCAAの仲裁規則では、仲裁人、 JCAAの役職員等の他、当事者およびその代理人も「仲裁事件に関する事実又は仲裁手続を通じて知り得た事実を他に漏らしてはならず、 これらに関する見解を述べてはならない」と規定されています(42(2))。

しかし、例えば、ICCの仲裁規則には、当事者等に関し、そのような規定がありません。従って、当事者等にも秘密保持義務を課したい場合は、仲裁廷に対し、その旨の命令を出すよう要求しなければなりません(ICC仲裁規則22(3))。

 

Q5: 保全処分等を求めたい場合どうすればいいですか?

A5:当事者は裁判所または仲裁廷に保全処分等の命令を出すよう求めることができます。

 

【解説】

仲裁合意をしていても、当事者が、仲裁手続の開始前または進行中に、裁判所に対して保全処分の申立てをすることは許されます(例:仲裁法15)(但し、シンガポール、英国等では制限あり)。

また、例えば、JCAA商事仲裁規則では、仲裁廷の成立前の緊急仲裁人による保全措置命令(75)または仲裁廷による保全措置命令(71)が規定されている等、多くの仲裁規則に同様の規定があります。

但し、裁判所の命令と異なり第三者(例:相手方の預金口座のある銀行)に対する命令はできず(71(1)反対解釈)、また、命令を出すか否かの判断に相手方が関与する(71(4))ので財産隠し等のおそれがあります。

更に、裁判所の命令のような公権力による強制執行もできませんが、この点については、相手方には仲裁廷の命令遵守義務があり(JCAA商事仲裁規則71(6))、仲裁廷の命令に違反すれば仲裁廷の心証を非常に悪くするので、相手方がまともな企業であれば、事実上の歯止めが効くと思われます。

 

Q5: “Arb-Med-Arb”という言葉を聞いたことがあります。これはどのようなものですか?

A5:仲裁(Arbitration)開始後、調停(Mediation)に移行し、その調停で成立した和解内容を仲裁(Arbitration)手続に戻って仲裁判断とするプロセスです。

 

【解説】

仲裁判断は原則として法的判断に基づき行われますが、当事者が、仲裁の長期化・コスト増を嫌い、むしろ互譲により和解で紛争を解決したいと望む場合があります。このような場合は、仲裁から調停に移行し、その調停により成立した和解内容に執行力を与えることができれば便利で、シンガポールでは、このようなプロセスが制度として確立しています。

以下の条項例のように、両当事者間の契約で最初からこの「段階的紛争解決メカニズム」(Tiered Dispute Resolution Mechanism)を規定しておくこともできます。

【シンガポールArb-Med-Arb条項】

 

…..(第14回のQ5-A5で示したSIACのモデル仲裁条項)…(この後に以下を追記すること)

The parties further agree that following the commencement of arbitration, they will attempt in good faith to resolve the Dispute through mediation at the Singapore International Mediation Centre (“SIMC”), in accordance with the SIAC-SIMC Arb-Med-Arb Protocol for the time being in force.

当事者は、更に、仲裁開始後、当該紛争を、その時点で効力を有するSIAC-SIMC Arb-Med-Arbプロトコルに従って、シンガポール国際調停センター(「SIMC」)において調停で解決することを誠実に試みることに同意する。

Any settlement reached in the course of the mediation shall be referred to the arbitral tribunal appointed by SIAC and may be made a consent award on agreed terms.

調停の過程で成立した和解は、SIACにより選任された仲裁廷に付託され、合意された条件で、同意に基づく仲裁判断(consent award)を下すことができる。

 

また、JCAAICCにも調停規則があり、調停で成立した和解内容を仲裁判断とすることが可能です(JCAA商事仲裁規則2019-58, 62(3)、ICC仲裁規則32)。

相手方が合意すれば、最初から仲裁ではなく調停を利用することもできます。

 

「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」第16回はここまでです。次回以降は、紛争解決条項以外の一般条項について解説します。

 

Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」シリーズ一覧

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

(*) この「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」シリーズでは、読者の皆さんの疑問・質問等も反映しながら解説して行こうと考えています。もし、そのような疑問・質問がありましたら、以下のメールアドレスまでお寄せ下さい。全て反映することを保証することはできませんが、筆者の知識と能力の範囲内で可能な限り反映しようと思います。

review「AT」theunilaw.com(「AT」の部分をアットマークに置き換えてください。)

 

 

【筆者プロフィール】
浅井 敏雄 (あさい としお)
企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表

1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで複数の日本企業および外資系企業で法務・知的財産部門の責任者またはスタッフとして企業法務に従事。1998年弁理士試験合格。2003年Temple University Law School (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事、国際取引法学会会員、IAPP (International Association of Privacy Professionals) 会員、CIPP/E (Certified Information Privacy Professional/Europe)

【発表論文・書籍一覧】
https://www.theunilaw2.com/

 

 

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