終身雇用制度の終焉と『法務キャリア』の歩み方

戦後日本で多くの企業が採用してきた終身雇用制度が終わりを迎えようとしています。その結果、「業績が安定していて働きやすそうな会社に入社し、留まり、定年する」という従来のキャリアプランが実現しにくい社会が今まさに訪れようとしています。

このような時代の変化は、法務担当者のキャリアにどのような影響を与えるのか。そして、新しい時代を生きる上で法務担当者に必要なことは何なのか。

本記事では、法務担当者のキャリア形成に精通したキャリアアドバイザーが、終身雇用制度終焉後の法務担当者のキャリアについて考察していきます。

 

終身雇用制度の終焉

経団連の中西宏明会長やトヨタ自動車(日本自動車工業会会長)の豊田章男社長から、終身雇用を見直す趣旨の発言が相次ぎました。終身雇用が限界を迎えていて維持できないという話は、20年以上前から言われており、ビジネスをやっている人で終身雇用を維持できると考えている人は(維持しようという信念を持っている経営者以外には)いないでしょう。

とは言え、いわゆる財界のトップの方々がこれを明言したことには大きなインパクトがありました。

【参考】朝日新聞(2019年5月7日)

【参考】日本経済新聞(2019年5月13日)

情報化社会の到来・ビジネスのグローバル化等に起因する「事業のライフサイクルの短縮化」により、企業は大なり小なり事業を短期的にピボットし続けなければならない状況に追い込まれています。件のトヨタでも、“車というモノを作って販売する会社”から、“移動というサービスを提供する会社”へ大きく舵を切り始めており、通信データとコネクトしたクルマから収集した情報を元に消費者の利便性を上げるサービスの開発に注力しています。

かつては、新卒一括採用でゼネラリスト的な総合職を大量採用し、ピボットを迫られた時に彼らに教育を施すことで、変化に対応していましたが、大きなピボットが求められるビジネス環境下では、専門外の人材に教育を施して、変化に対応するのは難しくなっています。そのため、企業としてはピボットの都度、外部から「専門性を備えた人材」を迎え入れる方が効率的で、逆に、ゼネラリスト的な総合職を大量に社内に抱えておく意義は薄れていくことになります。

また、企業が投じられる人件費には限界がありますので、ピボットを契機に新しい人材を迎え入れる代わりに、ピボットに対応できない専門外の人材を外に放出したいという要請がどうしても働くことになります。

こうした背景が、企業が終身雇用制度をやめたがる大きな要因と考えられます。そして、その終身雇用制度を支えているのが、日本特有の解雇規制の厳しさです。

現状の判例法理上、正社員を解雇するには、「客観的合理的理由があり、社会通念上相当であると認められる場合」という厳格な要件が求められています。そのため、終身雇用制度の終了に向けた動きの一環として、正社員の解雇規制を緩和させる議論も始まりつつあります。これが実現したときに、終身雇用制度の終焉=解雇規制による保護を受けられなくなる未来が訪れることになります。

 

 

終身雇用制度の終焉が企業法務パーソンのキャリアに与える影響

では、終身雇用制度が現実に終わりを迎えた場合、ビジネスパーソン一般のキャリアに具体的にどのような影響が生じるのでしょうか。これは、一言で言うと、『転職市場に出て転職活動を行わざるを得ない場面が増える』ことを意味します。

中長期的には、「自身の持つ専門性が会社に求められる間は雇用が継続され、専門性が有効でなくなったタイミングで放出され、転職市場に出る」という働き方がスタンダードなものになると予想されます。ある種、求められる現場に傭兵的に赴くプロフェッショナルとしての働き方のイメージです。

 

こうした前提で、「終身雇用制度の終焉が法務担当者のキャリアに与える影響」を考えるときにキーとなるのが、企業にとって「法務担当者の備える専門性が有効でなくなるタイミング」はいつなのかという点になります。

 

➊企業が事業をピボットさせるタイミング

一つは、上述したように、➊企業が事業をピボットさせるタイミングと言えます。例えば、先のトヨタの例で言いますと、モノづくりからクラウドサービスの提供に事業がピボットされた場合、法務担当者としては、従来まで扱っていた契約書類型や関連法令とは全く異なる契約書類型や法令を扱うことになるため、それまでに備えた専門性が会社にとって有効でなくなる可能性が出て来ます。

しかし、一方で、法務担当者の持つ専門性は職種特有の汎用性を併せ持っていることも少なくなく、多少の事業ピボットであれば、相応の教育さえあれば十分に対応できるケースも少なくないと見ています。

 

➋自分と同等以上の専門性を備えた人材が加入したタイミング

他にも、➋企業が自分と同等以上の専門性を備えた人材を採用するタイミングも、危惧すべきタイミングだと思います。実際、今でも既に、

「自社がM&Aを行った結果、社内に企業法務パーソンがだぶつき、他部署に異動になったため転職する」

という方が少なからずおります。

今後、現実に解雇規制が緩和された際には、M&Aに限らず、通常の中途採用で人員を増加させたことなどをきっかけに、現任の法務担当者の放出を検討する企業が出て来てもおかしくないと思います。

 

➌社内で法務担当者が対応すべき法務業務が減ったタイミング

さらに他にも、

・リーガルテック(リーガルサービスを提供するために活用されるソフトウェアやテクノ ロジー)の導入等により、社内で法務担当者が対応すべき法務業務が減ったタイミング

・経営悪化を受けて、会社が経営資源をプロフィットセンター(営業・営業企画・製造等)に集中させ、バックオフィス業務を減らすタイミング

など、➌社内で法務担当者が対応すべき法務業務が減るタイミングも、「法務担当者の備える専門性が有効でなくなるタイミング」と言えます。

前者については、現状、法務担当者が対応すべき法務業務を大幅に減らすところまでは技術が進んでいないと言われていますが、リーガルテックサービスを提供する企業は急増中ですし、多くのリーガルテックサービスを支えるAI(人工知能)は、あるタイミングで突如劇的な進化を遂げることも少なくありませんので、数年のうちに、法務担当者の仕事を奪うリーガルテックサービスが出て来ても不思議ではないと考えています。

【参考】企業法務ナビ「法務の仕事はAIによって奪われるか?」

一方で後者の「経営悪化を理由に法務業務が減らされる」というケースについては、現状、そうした事例は確認できていないため、どの程度、可能性があるかは不透明ですが、今後、景気が減退した後は十分にあり得ると見ています。

 

こうして見てきますと、こと、法務担当者においては、事業ピボットによる専門性のミスマッチ化の可能性はそれほど高くない一方、自社のM&Aや転職者の採用、リーガルテックの発達、経営悪化などを理由に、転職市場に出て転職活動を行わざるを得なくなるケースは今後増えて来そうです。

 

終身雇用制度の終焉に向けて法務担当者が備えておくべきこと

上述のように、終身雇用制度が終焉を迎えた場合、法務担当者が期せずして転職市場に出て行かざるを得なくなる場面は増えると予想されます。そのため、いつ何時、転職市場に出てもいいように、普段から「転職市場を意識して」仕事に取り組むことが大切になります。

「転職市場を意識する」とは

「転職市場を意識する」と言いましたが、具体的にどういうことでしょうか。それは、すなわち、転職市場からの評価を意識してキャリアを歩むということです。従前の終身雇用制度を前提としたキャリア観においては、基本的に、社内評価を高めることだけを意識してキャリアを歩んでいれば、良いキャリアが望めました。しかし、いつ、転職市場に出るかわからない状況下では、常日頃から、「転職市場からの評価を高めること」を意識する必要が出て来ます。なぜなら、社内評価と転職市場からの評価は、基準が大きく異なるため、社内評価をいくら高めても、転職市場からの評価は高まらないという事象が起こり得るためです。

 

大組織で社内評価を上げる要素

・組織人として社内ルール、社内慣行、過去の仕事のやり方、社内で確立された業務手順等に従って仕事ができるか

・社内の人間の専門分野に精通し、適切に活用できるか

・社内の有力者と人脈を築き、スムーズに活用できるか

 

市場評価を上げる要素

・幅広い業務の経験があるか

・大きな責任と裁量のもと、難易度の高い判断を行った経験があるか

・市場からのニーズが強い分野について専門的なスキルを有しているか

 

終身雇用制度が存続している現状でも、本意でない部署異動・転勤、出向など、様々な事情で期せずして転職市場に出て来られる方が相当数おりますが、そうした方々の多くが、ご自身が思い描いていた自己評価と現実の市場評価とのギャップの大きさに苦しんでいます。

やはり、普段から、ご自身の転職市場価値を定期的に確認しながら、転職市場価値を高められそうな仕事に積極的に手を上げて引き受けに行くことが重要になります。

 

法務担当者としての転職市場価値をどう測るか

スカウトサイト・転職サイトの利用がお薦めですが・・・

転職市場価値を測る方法としては、実際に転職活動を行ってみて、その選考結果で測るのが一番正確ですが、転職活動を現実に行うことは大きなご負担になりますし、転職する気がない人材を選考する企業の立場に立っても、適切な方法とは言えないと思います。

その意味では、スカウトサイト・転職サイトなどに登録し、企業や人材紹介会社から届くスカウト数、スカウトして来た企業の求人ポジション・年収等を目安にするというやり方がお薦めです。

もっとも、従来型のスカウトサイトは、あらゆる職種の人材を登録対象としていて、職種ごとの特化が見られないものがほとんどです。そのため、登録時の入力項目も、「年齢」、「在籍企業名」、「職種経験年数」、「保有資格」といった全職種に汎用性のあるものに留まっています。そうした中で、スカウトする企業側は、法務経験年数やTOEICスコア、年齢等を元にスカウトを行っていますが、正直、このような抽象的な情報のみを元に行われたスカウトでは、ご自身のリアルな転職市場価値を把握するのは難しいと言えます。

 

法務特化型のスカウトサイト「LEGAL LIST」

こうした問題意識から、弊社では、法務担当者に特化したスカウトサイト「LEGAL LIST」をご用意しました。LEGAL LISTでは、[過去に10件以上レビューした経験のある契約書類型]や[ドラフト経験のある契約書]、[取り扱った法律相談の法令名]、[経験のある具体的な総会対応業務]など、法務担当者の採用において現実に重視される選考要素から逆算して登録項目を設定しており、企業側は、それらの情報を元にスカウトを行っております。

そのため、客観的に“見える化”された自分自身の法務経験・スキルに対してスカウトを受けることができますので、スカウトの数・タイプ(面接確約or応募歓迎)、スカウト企業の特性、求人ポジション・年収等を見ることで、法務担当者としてのリアルな転職市場価値を把握することが可能です。

また、登録内容は随時変更することができますので、新たな業務経験を積んだ場合や新たなスキル・資格等を習得した場合などに、こまめに登録情報を更新していただくことで、届くスカウトの質・量の変化を実感することができると思います。

 

「LEGAL LISTを利用しながら、自分自身の法務担当者としての市場価値を把握しつつ、現職にいながら市場価値を高めるアクションを行う。

いざ転職となったら、スカウトされた企業を含め、自分自身の転職市場価値を踏まえたベストポッシブル(選択可能な中で最良)な選択肢を目指して転職活動を行う。」

 

終身雇用制度の終焉を見越し、こういったスタイルで、法務キャリアを歩んでみるのはいかがでしょうか。

 

【筆者プロフィール】
潮崎 明憲

大阪市立大学法学部卒、近畿大学法科大学院修了、大阪府出身。司法試験受験を経て、営業研修会社に法務・総務担当として入社。その後、企業経営者・幹部をはじめとした多種多様な業種・職種の参加者、延べ約1,500名の方々のフォローアップなども担当。2014年からは、米国訴訟における日本企業支援(eディスカバリー)業務に従事。現場でのドキュメントレビュー、人材採用、チームビルディング、情報分析を担当。そして2017年、法務関連職専門のキャリアアドバイザーとして株式会社More-Selectionsに入社。プライベートを含め多くの法務担当者とリアルな接点を持ち、常に鮮度の高い情報を基に、日々キャリアアップをお手伝いしております。

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