『机上で論ずる企業法務』:第8回 法律相談

記事広告:『終身雇用終焉後の法務キャリア

先人のやり方の踏襲・模倣・集積により帰納的に語られがちな『法務』。それゆえに、『法務』という概念は、多くの法務担当者の中で、どこか場当たり的で統一性がなく、全体像の見えない混沌とした概念になってしまっています。
本コラムでは、この『法務』の概念をシンプルに再定義した上で、新たなカテゴライズを施しながら個別の法務業務をマッピングし、“先例”ではなく“ロジック”による裏付けを元にした「法務の理想形」を追求していきます。

【過去記事】
・第1回 法務の理想形を語ろう
・第2回 「法務」を再定義する
・第3回 法務業務を分類する
・第4回 法務の三大業務①~権利義務の取捨選択~
・第5回 法務の三大業務②~義務履行の管理~
・第6回 法務の三大業務③~権利行使の管理~
・第7回 契約法務

 

法律相談のあるべき姿を考える

前回は、『法務=企業における権利義務を管理する仕事』という定義を前提に、契約法務のあるべき姿について検討しました。今回は、法務担当者が行う「法律相談」のあるべき姿について考えて行きたいと思います。

まず、法務担当者が行う法律相談は、大きく分けて、「適法性確認の法律相談」、「紛争・トラブルに関する法律相談」、「新規事業周りの法律相談」の3種類に分類出来ると思います。

 

➊適法性確認の法律相談

「今度、~をしようと思うのだけど、法的に問題ある?」

「取引先から~をするよう打診されたけど、法的に問題ある?」

自社の社内外の対応が、法令上の義務違反を引き起こしていないか・引き起こす可能性がないかを現場担当者から法務担当者に確認する類型の相談になります。法律相談の中で一番多い類型だと思います。これは、(1) 権利義務の取捨選択、(2) 義務履行の管理、(3) 権利行使の管理という“三大法務業務”の中の(2) 義務履行の管理に該当します。

すなわち、この種の法律相談で法務担当者が行うべきは、

・会社が負っている義務を“把握”し、その射程を“理解”(条文の解釈を理解)した上で、義務違反の有無(≒適法性)を判断し回答する

ということになります。

[義務の把握]
法律相談時の義務の“把握”においては、とかく、法令に基づく義務にばかり目が行きがちですが、他社との契約上の義務が絡んで来るケースもありますので、契約上の義務についても、アンテナを張る必要があります。その意味でも、自社がどのような契約上の義務を負っているのかを迅速に“把握”出来るよう、一覧性・検索性を高めた形で契約情報をあらかじめ整理しておくことが重要です。

また、法令に基づく義務の“把握”については、概ね、個々の法務担当者の法律知識・リサーチ能力に依存している企業が少なくないようですが、義務の“把握”の再現可能性を高める意味でも、出来れば、自社の事業領域上、関連しそうな法令上の義務をあらかじめ精査し、同じく一覧性・検索性を高めた形で、会社として情報整理しておくことが望ましいと思います。言うなれば、契約書管理ならぬ、規制法令管理といったところでしょうか。

[義務の理解]
義務の“理解”については、まずは国語的に条文の内容を理解しつつ、関連する官公庁への直接問い合わせ、官公庁の出している資料や弁護士等が監修している市販の解説書や解説サイト、関連判例などをベースに解釈を深めて行く流れになると思います。
もちろん、条文解釈のプロフェッショナルである外部の弁護士を活用するのも非常に有効です。

 

➋紛争・トラブルに関する法律相談

「■■■社と~で揉めているのだけど、どう対応したらいい?」

「こんな問題社員がいるのだけど、どのような対応をしたらいい?」

法律相談のもう一つの類型が、紛争・トラブルに関する法律相談になります。日常取引におけるイレギュラーな事態、顧客からのクレーム、料金未払い、損害賠償、労務問題等、紛争・トラブルに関する法律相談になります。この種の法律相談の出口としては、相手方が履行を求めている義務の履行を行うか否か、相手方に対して行使出来る権利を行使するか否かを判断することが多いと思います。

その意味で、この類型の法律相談は、(1) 権利義務の取捨選択、(2) 義務履行の管理、(3) 権利行使の管理という“三大法務業務”の中の(2) 義務履行の管理及び(3)権利行使の管理に該当します。

すなわち、この種の法律相談で法務担当者が行うべきは、

・まず、会社が保有している権利を“把握”し、その射程を“理解”(条文の解釈を理解)することで、当該権利が行使出来るか否かを判断し、その上で、権利の価値を“評価”して、権利を行使するか否かを最終的に判断し回答する

・相手方が履行を求めている義務の射程を“理解”(条文の解釈を理解)した上で、当該義務の有無を判断し、その上で、義務の価値≒負担を“評価”して、義務を履行するか否かを最終的に判断し回答する

ということになります。

[権利の把握・理解、義務の理解]
権利を“把握”・“理解”する上での手順は、概ね、義務を“把握”し“理解”する際と同じと考えてよいと思います。

[権利行使・義務履行を行うか否かの判断]
義務履行や権利行使の有無を判断する際には、下記のような要素を総合的に検討する必要があります。

・こちらが行使を検討している権利の有無、相手方が履行を求めている義務の有無

・履行しようとしている義務や行使しようとしている権利の価値“評価”(義務履行時・権利行使時の会社への影響力等)

・権利義務の有無につき、解釈の争いになりそうなときには、裁判での認容可能性や裁判までもつれこんだ場合のコスト・損失等

・相手方との関係性

 

➌新規事業周りの法律相談

「今度~なビジネスモデルで新規事業を起こそうと考えているのだけど何か問題ある?」

会社が新規に事業を起こす際、『ビジネスモデルが法的に問題ないか』を確認する相談が法務に舞い込むことがあります。この種の法律相談で法務担当者が行うべきは、

・事業部が思い描くビジネスモデルを権利義務関係に引き直し、法的スキームを理解する

(当該ビジネスモデルにより、誰からどんな権利を得て、誰に対してどのような義務を負うことになるのかを理解する)

・会社が負っている義務を“把握”し、その射程を“理解”(条文の解釈を理解)した上で、新規事業による自社の権利取得・義務の甘受が、義務違反を構成しないかを判断し回答する

ということになります。基本的には、適法性確認の法律相談と同様、(2) 義務履行の管理という色合いが強いですが、ビジネスモデルを権利義務関係に引き直して整理する必要性がある点が特徴的です

 

法律相談における代案の提案

法律相談された内容が、「何らかの義務違反(法令違反、契約違反etc.)を構成してしまう」ことが判明した場合又は「行使したい権利が行使出来ない」ことが判明した場合、法務の立場としては、『~に違反するのでダメです』という見解を述べるに留まらず、それを踏まえた上での解決策を新たに提示することが求められます。代案の提案パターンとしては、以下になります。

◇権利行使不能事案

・会社が保有している権利のうちで、他に活用出来そうな権利がないかを“把握”、“理解”し、その上で、当該権利を行使したときのビジネスへの影響を精査して、この代案となる権利を行使すべきか否かを最終的に判断し提案する

 

◇義務違反事案

・会社のとるアクション・取り組みを一部変更することで、義務違反を回避出来ないか検討し、その上で、当該変更を行うことの影響力(機会損失、過分なコスト等の有無)を精査した上で、代案として提案する

・会社のとるアクション・取り組みを一部変更することで、義務違反によるリスクを低減(リスクの影響力の低下、発生頻度の低下)させられないか検討し、その上で、当該変更を行うことのビジネスへの影響(機会損失、過分なコスト等の有無)を精査した上で、代案として提案する

 

◇法的スキームの再検討事案

・事業部から提案された法的スキームを一旦白紙に戻し、事業の目的から逆算して「どのような当事者と、どのような権利義務関係を組み立てて行くか」を一から検討し、それを元に新たな法的スキームを再構成し、当該法的スキームでのビジネス上の成功可能性を精査した上で、代案として提案する

 

いずれも、自身の出す案がビジネスにどのような影響を与えるかを注意深く検討して提案しなければならない点が特徴的です。

中でも、法的スキームの代案を提案する場面では、単なる(1) 権利義務の取捨選択を越えて、「誰から、どのタイミングで、どのような権利を取得するか」、「誰に対し、どのタイミングで、どのような義務を負うか」、ビジネスを強烈に意識しながらゼロベースで考えなければならないため、法律相談の中でも一番難しい業務と言うことが出来ると思います。ある種、ビジネスモデルを構築する力が求められると言えます。

 

法律相談の体制作り

上述のように、法律相談には、自社が負っている義務の適切な履行を管理したり、自社が保有する権利の適切な行使を管理する側面があります。そのため、単に他部署からの任意の相談を受け身で待つに留まらず、どういった状況になったら法務に相談した方がよいのかをあらかじめ他部署の方に共有し、法務に相談すべき内容がきちんと法務に集まって来るような体制を作る必要があります。

具体的には、自社が持つ権利義務を概観し、その「価値≒影響力の大きさ」や「理解≒解釈の難しさ」を元に濃淡をつけ、会社への影響力が大きいもの、解釈で揉めそうなものに特に焦点を当てて、『~を行う際には、必ず法務に相談する』、『~な場面では法務に積極的に相談する』といった形で、あらかじめ法律相談のルールを整理して他部署の方に共有するのが有効だと思います。

 

 

==========

本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

【筆者プロフィール】
齊藤 源久

大型WEBメディアを運営するIT企業にて法務責任者、事業統括マネージャーを担当した後、行政書士事務所を開設。ビジネス法務顧問として、数十社のベンチャー企業の契約法務や新規事業周りの法務相談を担う。2014年より、企業の法務部門に特化した総合コンサルティング(組織構築・採用・IT導入)会社、株式会社More-Selectionsの専務取締役に就任。法務担当者向けの研修の開発・実施、WEBメディアの編集、企業の法務部への転職エージェント業務、リーガルテック関連の新規事業策定などを担当している。これまで、入社前後の新人法務担当者のべ150名超にマンツーマンで研修を施した経験があり、感覚的・直感的に行われがちな法務業務を言語化・体系化し教えることに強い関心を有している。

 

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