法務部門のリーダーの役割とは?他の部門とは全く違う?

法務部門の人間特有の勉強癖・自己研鑽意識

多かれ少なかれ、法務部門にいる人間はいずれかならず意識するであろう法務部門のリーダーのことである(ここではあえて法務部長としておく)。

法務という特性をもつ組織のリーダー故に通常の事業部門とは異なるニーズなり、立ち振る舞いの仕方が要求されていると思う。

大変熱心な人はどこの世界にもかならず居るという事実は重々承知の上であるが、概して一般の会社員は、仕事中はむろん、自宅に帰ってから或いは週末の時間に自己研鑽など全くしない人のほうがはるかに多い。家に帰ってまでも仕事を思い出すようなキャリアデザインを目的とした業務上の学習や資格取得などのスキルアップを手掛けている人は一部の意識の高い社員に限られ、極めて例外的な存在である。

一部の会社では昇格や海外赴任等の条件として一定の自己研鑽を必要とするようなハードルを設けているが、法務部員にとっては会社の勤務時間以外の業務に関する学習は切っても切れないことであると考える。海外法務を担当するのであれば最低限英語は学習することは当然であるが、学生の本業が学習であることと同じく、社会人の本業は仕事であり勉強ではないというのが一般論である。

また社会人には学生のようなペーパー試験がないので勉強をしなくても本業には関係ないと考えている人が依然として多い。しかし法務部門に永年に渡り勤続している私として、少なくても法務部門にはこの話は全く当てはまらない。

そもそも法務部門の仕事で業務外での学習を必要としないような業務がどの程度あるであろう。

むろん学習というのではなく、調査という意味で勤務時間中に法律実務書その他を読むことは正当な業務である。当該分野を専門とする弁護士に相談することは無論あるにせよ、法務で正確な調査を行うことがどれほど重要であるかは申すまでもない。

 

「専門性」と「人の上に立つ器量」

しかし意外に難しいのが法務部長の業務であるリーダーとしての管理業務である。むろんどのリーダーにも共通の部下の就業管理は当然行うとして、法務というともすれば企業の中でやや特殊とみられる業務に携わるリーダーの特性としては、求められるものの一つに法律専門知識の保有であることは避けられない。

これは永遠のテーマと言えるほど遠大な議論が伴うことであるが、専門性と組織の長としての人の上に立つ力量=リーダーシップは反比例するという一般概念がある。そもそも年功序列、終身雇用(今は崩壊しているが)、企業別組合という三種の神器の上に経営を成り立たせてきた日本企業において「専門」という言葉がつく専門性とか専門職といった言葉は近年になってやっとキャリア志向の若者により日を浴び始めてきたものであり、長らくよいイメージはなかった。

正直にいって、全く無知であり、ひどい場合には非常識な人間、世間知らず、あげくはサラリーマンとして人の上に立ってリーダーとして振舞うことは勿論、人とうまくやっていくことさえ苦手な人間という(全くの誤解だが)イメージさえもっている人もいることが事実である。偏見に基づく部分は割愛して、専門性と人の上に立つ器量は反比例するという社会通念に触れてみたい。

単純に言えば、上の人が余りに多くを知っていると、下の人がやる気を失ってしまい、育成されない。もしくは上の人が自分で業務をやってしまい、リーダーとしての仕事よりもプレーヤーとしての仕事ばかりをやってしまうことになりがちだということである。

また上の人が知っている程度に下の人も知っていることを求めると、その程度の差が大きい場合には埋めようもない格差が生じ、チームワークが成り立たないということである。

しかしこのような専門家集団で起こりえることは何も企業の法務部門だけではなく、そもそも巨大な専門家集団である大病院や大手法律事務所、その他プロスポーツの運営事業組織など他にいくらでもある。どうも企業では、リーダーが大方針を決め、部下がそれに従い個々の行動をとるにあたり必要以上にリーダーが介入してはならない、それでいながらリーダーは部下の細部の行動に目を配り、ミスのカバーや業務内容のブラッシュアップに努めなければならないとされている。それは確かに正しく、いわば理想論である。理想論を批判はしない。まず理想から出発しその理想から逸脱しそうなことは是正して少しでも理想に近づければよいのであるから。

また同時に企業で理想のリーダーとは、自身は部下ほど業務内容に精通していなくても各要所を素早く察知し、部下の行動を是正することができる資質を持っていることが要求される。

 

法務部長はただゼネラリストであればよいというものではない

さてこれらのことが法務部門においてリーダーがさしあたって現在の業務を円滑に行うために関連した法律に関する専門知識なしで行えるであろうか?答えは否である。むろん部下と程度の差はあっても仕方がないことであり、人間である以上あらゆる法律に精通することなど誰も求めるものではない。しかしながら、ある程度いくばくかの法律に触れれば、幾多の経験を経たビジネスの中級者以上であれば一定のリーガルマインドとも呼ぶべき座標軸のようなものが形成されており、未経験の法律分野でもかなりの対応が可能であるというのが私の経験則からくる理解である。これができないのであれば明らかにそのリーダーは勉強不足であり、より専門知識を付加する必要あると考える。言うまでもないが、むろんリーダーは法務部長に限らず、一般的なゼネラリストとしての素養は必要である。

私が言いたいことは法務部長はそれにとどまらず、専門知識もやはり必要であるということである。法務部長はただゼネラリストであればよいというものではない。

 

遠い昔の話だが、私が新入社員として地方の工場に配属となって間もないころ、中近東の現場に赴任していたという中堅社員の方が若手対象で講演会を行ったことがあった。私は質問をした記憶があり(その内容までは記憶にないが)、その時にその講演者の中堅社員の回答は「自分は体で覚えてきたことをベースに仕事をしているのであって~。」といった内容であり、「若造はつべこべ言葉でものを言わずに、黙って仕事をして体で覚えろ。」という意味が込められたものであったことだけは覚えている。当時すでに安定成長時代に入っていたが、成長があたりまえの時代が長く続き、その時代には専門性などという理屈よりも馬力と迎合だけが評価され、「サラリーマンに頭は要らない。要るのは、酒の強さと上とのつきあいのよさだけ。」といった時代であった。

既にそのような時代は遠く、「人に対して説明できる。」レベルに達してみて初めてその物事を理解しているという図式が確立され、長いこと知識を偏重的なものとみなしてきた中高年のサラリーマンに対して退廃的なものを感じるのは私だけであろうか。

 

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

【筆者プロフィール】
丸の内の世捨て人

建設系の会社の法務部門に通算20数年在籍し、国内・海外・各種業法・コンプライアンス関連などほぼ全ての分野に携わった経験を持つ。事業部門経験もあり、法務としてもその重要性を事あるごとに説いている。米国ロースクールへの留学経験もあり、社内外の人脈も広い。

 

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