Q&Aで学ぶ英文契約の基礎(3)- 英文契約書の形式・スタイル等②

この「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」第3回では、前回に続き、英文契約書の形式・スタイル等を解説します。

  

Q1:英文契約の前文に契約締結に至った事実関係や動機等を記載するのはなぜですか? 前文は必須ですか?

A1:前文を記載することは英米の契約の伝統であり、前文の記載により、その契約におおよそ何が規定されているかを知ることができます。しかし、前文がなくても契約は有効なので必須ではありません。実際、比較的短い契約、例えば、Non-Disclosure Agreement(NDA)(秘密保持契約)等では前文がないことが多いです。

 

 

Q2: 前文に書いていあることが何らかの法的な影響を及ぼすことはありますか?

A2: 本文の条項の意味が明確ではない場合その解釈に前文の記載が参考とされることがあります。

 

また、英米法上は禁反言(”estoppel”/エストッペル)の原則[1]があります。この禁反言の原則とは、簡単に言えば、自己が以前にした主張や行為に反する主張をすることはできないという原則です。従って、契約の当事者は、前文に記載された自らについての事実関係や動機と矛盾する主張を契約締結後にすることはできません。

一方、日本法上は意思表示の動機の錯誤が関係する可能性があります。2020年4月1日から施行される改正民法95条では、意思表示は、「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」に基づくもので、かつ「その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたとき」は、「その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる」とされています。従って、契約書の準拠法(解釈等の基準となる法律)を日本法とした場合で、前文に自らが契約締結に至った動機が記載されているときは、動機の錯誤を理由として契約の無効を主張できる場合があると思われます。

しかしながら、これらの事項に法的効果を与えたいのであれば、本来、契約本文の中で、契約の目的条項や取引対象製品の保証(Warranty)条項として、または、企業買収契約等における「表明および保証(Representations and Warranties)」[2]条項(当事者が相手方当事者に対し一定の事実に関する表明や保証を行うもの)として規定すべきものです。

 

結論として、(i) 前文には、不用意に相手方に言質を与えるような内容を記載してはならず、また、(ii) 自らにとり有利な内容でそれに法的効果を与えたいのであれば、本来、契約本文の中で規定すべきであり、契約交渉上何らかの事情で契約本文に規定できないおそれがある場合に前文への記載を検討するというスタンスが適切と思われます。

 

 

Q3:英文契約の末尾はどのような形が一般的ですか?

A3:以下のような形が一般的です。

 

 IN WITNESS WHEREOF, the Parties have caused this Agreement to be executed by their duly authorized representative as of the Effective Date. 

本契約を証するため、両当事者は、発効日付けで、それぞれの正当に授権された代表者をして本契約に署名せしめた。

LICENSOR

            (Name of Licensor)      .

By:                                                           (署名)

                                                             .

Printed Name (活字体氏名)

Title:                                                       (役職名)

LICENSEE

            (Name of Licensee)      .

By:                                                          (署名)

                                                             .

Printed Name(活字体氏名)

Title:                                                       (役職名)

 

  • “(Name of ~)”の部分に実際には当事者となる企業等の正式名称を記入します。日本企業の場合は、通常定款で英文名称を定めていると思いますのでそれを記載します。

 

  • “By:”の右にその会社等において署名権限を持っている方が署名(サイン)をします。ここでは”representative”を「代表者」と訳していますが、日本の会社法上の代表取締役に限るわけではありません。

 

  • しかし、このサインは読めない場合も多いので、”Printed Name”の上にその方の氏名をタイプすることをお勧めします。

 

  • “Title:”の右には役職名を記入します。(例)”President and Representative Director” (代表取締役社長)

 

  • この例では、頭書または本文中に「発効日」(Effective Date)の定義があることを前提にその日付けで署名するものとしていますが、”as of the Effective Date”の部分が”on the dates set forth under their signatures(それぞれの署名の下に記載されている日に)”とされ、”Title:”の下にもう一つ”Date:”として各署名者が実際に署名した日を記載することもあります。

これは、「発効日」(契約の効力発生日)の他に、実際の署名日を記載することに意味があるような場合に記載します。 身近な例としては印紙税の問題があります。日本の印紙税は課税文書に該当する契約書(例:請負契約書・不動産売買契約書)の作成地が外国の場合は課せられません[3]。印紙税法は日本の国内法ですから、その適用地域は日本国内に限られるからです。日本の当事者が先に署名しその署名済みの契約書2部を外国にある相手方当事者に送り署名の上1部を返却してもらうような場合、その外国の当事者による署名等の時に印紙税法上の契約書作成がなされたと解釈されています。このような場合、契約書の署名日が記載されていれば、外国の当事者による署名が後であることを証明するのに役立ちます。

 

 

Q4:英文契約書は、日本の契約書のように「袋とじ」するのですか?

A4:一般的にはしません。通常ホッチキスでとめるだけです。

 

相手方が同意すれば袋とじしてもよいし日本の当事者からすればその方が安心感がありますが、実際に袋とじされる例は少ないと思います。

 

日本国内の契約で袋とじし割印・契印をするのは、差し替え等の防止のためですが、米国等ではそもそも日本のような印鑑がないので、割り印・契印やそれを前提とした袋とじは慣習としてはありません。

しかし、英米の人々は一般には契約意識や権利意識が高いのに、ホッチキスでとめただけの契約書が多いのは不思議な気がします。筆者は、その明確な理由を知りません。自社保管分の契約書だけを差し替えても裁判等で相手方の契約書が提出されれば改ざんの目的を達することは困難であると割り切っているのかもしれません。また、英米等ではそのような改ざんが厳格に処罰されるからかもしれません。

 

ただ、英文の契約でも、各ページの余白にイニシャルをいれることはよく行われます。署名欄に署名する方は社長その他社内で高い地位にある方が多いと思いますが、このイニシャルは、契約交渉を担当した責任者のものでも構いません。それでも差し替え防止の目的は達せられるからです。

しかし、ホッチキスでとじているだけなので、各ページがばらばらになることはあり得るので、特にページ数が多い契約書では各ページに全体のページ数とそのページのページ番号(例:「3/41」)を入れておいた方が良いでしょう。

 

 

「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」第3回はここまでです。次回は「約因」の意味等を解説します。

 

[1] 【禁反言(“estoppel”/エストッペル)の原則】 ”What is ESTOPPEL?” – The Law Dictionary https://thelawdictionary.org/estoppel/

[2] 【表明および保証(Representations and Warranties)】 Practical Law – Westlaw https://content.next.westlaw.com/Document/I1559f7a3eef211e28578f7ccc38dcbee/View/FullText.html?transitionType=Default&contextData=(sc.Default)&firstPage=true&bhcp=1

[3] 【印紙税法上における課税文書の作成地】 「外国で作成される契約書」 国税庁 https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/inshi/06/02.htm

 

 

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

(*) この「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」シリーズでは、読者の皆さんの疑問・質問等も反映しながら解説して行こうと考えています。もし、そのような疑問・質問がありましたら、以下のメールアドレスまでお寄せ下さい。全て反映することを保証することはできませんが、筆者の知識と能力の範囲内で可能な限り反映しようと思います。

review「AT」theunilaw.com(「AT」の部分をアットマークに置き換えてください。)

 

 

【筆者プロフィール】
浅井 敏雄 (あさい としお)
企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表

1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで複数の日本企業および外資系企業で法務・知的財産部門の責任者またはスタッフとして企業法務に従事。1998年弁理士試験合格。2003年Temple University Law School (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事、国際取引法学会会員、IAPP (International Association of Privacy Professionals) 会員。

【発表論文・書籍一覧】
https://sites.google.com/theunilaw.com/unilaw/about-unilaw?authuser=0

 

 

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