【インタビュー】企業法務の仕事内容と学び方(後編)

記事広告:『終身雇用終焉後の法務キャリア

本日は、法務部の仕事内容とその学び方という観点から、滝川ビジネス契約コンサルティングの滝川宜信さんにインタビューをさせていただきました。滝川さんは、株式会社デンソーの法務部で部長を務めた一方、名古屋大学大学院法学研究科客員教授や明治学院大学の教授も歴任し、行政書士の資格も取得。現在は都内で契約等のコンサルティング事業を営みつつ、現在でも明治学院大学で非常勤講師として教鞭を執っておられます。

また、『業務委託(アウトソーシング)契約書の作成と実務』(単著・(株)民事法研究会・2015年1月)や『取引基本契約書の作成と審査の実務(第5版)』(単著・(株)民事法研究会・2014年9月)、『実践企業法務入門〔第5版〕』(単著・(株)民事法研究会・2011年)など、企業法務関連の多数の著書を執筆しておられます。現在(2019年5月)、民法改正に合わせた『取引基本契約書の作成と審査の実務』の第6版を執筆中だそうです。

 

<<前編はこちら>>

「外」の話を聞くことの重要性

――たとえば、この記事の読者の方々の中には、これから少数精鋭で社内で法務部をつくることになっていて、どうすればいいかわからないと迷っている方もいるかもしれません。その方々にアドバイスできることはありますか。

 

私の場合は、トヨタというグループ会社の法務部があり、いざというときにはそこへ駆け込んで相談すればいいという安心感がありました。それができなくても、信頼できる弁護士にいつでも相談できるよう、連絡を取り続けることが重要となります。できるだけ企業法務に精通した弁護士に味方についてもらったほうがいいです。

 

デンソーでも、顧問弁護士以外で、「会社法」「労働法」「知的財産権」「独禁法」など、それぞれの専門分野で個別の法律事務所の相談先はありました。

 

――こうした専門の弁護士は、自分で探すべきなのでしょうか。

 

自分で探すのもいいですが、もし他社の法務部の知り合いがいれば紹介してもらうほうが早いでしょうでしょうね。

 

――法務の仕事は、「他社に聞く」ということが意外と大切なのでしょうか。

 

とはいえ、他には漏らせない、言えない企業秘密もありますからね(笑) こちらからも聞けない話はあるものですから、その点では弁護士に相談するメリットがあります。

 

もちろん、一度相談して社内の雰囲気や事情をすべて理解し、酌み取ってくれた上で法的助言をできる弁護士はそれほど多くありません。最初は時間がかかりますが、新入社員からでもダイヤの原石を見つけて養成するほうが、よほど効果的な場面も多いと思います。

 

――東京にはたくさんの弁護士がいて、専門分化もされています。大阪や名古屋にもある程度の弁護士がいますが、それ以外の地域では、企業法務系の弁護士さんがほとんどいないところもあります。地方を拠点とする企業の法務部でも東京の弁護士さんに依頼することを視野に入れるべきなのでしょうか。

 

たしかに地方になると企業法務系の弁護士がいる地域は少ないでしょうが、できるだけ近くで、専門化した法律事務所を相談先に選んだほうがいい場合もあります。東京の弁護士は地方の事情に疎いこともあるからです。

 

 

社内アンケートとeラーニングで、コンプライアンス強化

――法務部全体が行うべき仕事の方針については、どのようにして決めていましたか。

 

特に社内のコンプライアンス(法令遵守)に関してですが、私が顧問として見ていた会社では、社員全員を対象として、年1回、アンケートを採っていました。ちゃんと社内にコンプライアンスの意識が浸透しているか、セクハラやパワハラなどを受けたら内部通報できているか、そういった現状を把握するわけです。

 

――ひとくちに「コンプライアンス」といっても、法律を知っているというレベルと、法律を守れているというレベルは、また異なると思いますけれども、いかがでしょうか。

 

確かにそうですね。アンケートとは別に、社員が「eラーニング」によってコンピュータ上でビジネス上の法律の基本を学べるようなしくみもつくりました。必ず合格点を取らなければならないようにした上で、アンケートを採っていたのです。

 

――そういうことでしたら、法律の基本はある程度知っていることを前提にして、「遵守しているかどうか」で社員全員にアンケートを採れるわけですね。

 

はい、それによって会社全体のコンプライアンスのレベルを把握できるので、そこから法務部はどうすべきなのか、もっと法律知識を周知させるべきか、どのようにして遵守を徹底させるか、大きな方針を決めることができます。

 

――アンケートは匿名だったのでしょうか。それとも実名ですか。

 

アンケートは匿名です。やはり内部通報をしたかどうかなど、デリケートなことも尋ねますので、匿名にしたほうが本人のためにもなりますし、より率直な意見なども聞けると考えたからです。Eラーニングのテストに関しては、得点を出して合格かどうかを判定しなければならない都合上、実名で集計しています。

 

 

法務部にいなければ、今の自分はなかった

――行政書士の資格をお持ちですが、法務部で働きながら取得なさったのですか。

 

いえ、別に取得することは考えなかったのですが、明治学院大学を定年でやめる際、契約に関する仕事をしたいと思っておりました。行政書士には「権利義務に関する書類の作成、相談」も業務の対象とされていますので、非弁活動とされないために、定年の3年前に取得しました。じつは、最初に東京の試験会場で受けたのですが、私の法科大学院での教え子がいることに、試験開始前に気づいてしまったんです。前の席にいたので、こちらには気づいていないはずなんですが、もし向こうも気づいていて、私だけ落ちたときには大変なことになると思い、受けずにそのまま帰ってきたんですよ。

 

合格する自信はあったけれども、試験なんてなにが起きるかわかったものじゃありません。なので、万全を期して、次の年に教え子に会わない名古屋会場で受けて合格しました。

 

――今現在は、契約に関するコンサルティング事業を行っていらっしゃるのですか。

 

はい、たとえば、大企業でも中小企業でも、依頼を受けて、契約書をチェックや作成してお返しするという業務を行っています。

 

――では、今までの法務部の業務を活かして、独立していらっしゃるということでしょうか。

 

そうなんです。世の中の法務部が行う仕事を、こちらで分担させていただく形です。企業法務部も働き方改革の一環で残業が出来なくなっていますので、それでチェックが間に合わない契約書が送られてくることもあります。

 

――たしかに、マンパワーが足りなくなっている面もあるのでしょう。

 

もっとも、こちらは専門家ですので、かなり細かくチェックします。ほとんどの条文に手を入れることもあります。よって、通常の法務部スタッフでは気づかなかったり、チェックを遠慮したりすることも、指摘いたしますのでクライアント企業の皆さんには喜ばれています。もちろん、契約書のチェックだけでなく、契約書の作成、起案も行います。

 

――行政書士でいらっしゃって、さらに契約書に関するご著書もあるぐらいですから、正確性や信頼性はありますね。滝川さんのコンサルティングサービスは、おそらく、弁護士のいる法律事務所が競合関係にあるかと思いますが、どのような強みがありますか。

 

法務の業務経験が豊富です。法務部が求めている契約書チェックは、企業に所属していると勘所がわかるものですが、外部の弁護士では意外と分からないこともあります。法律のみではチェックできません。予防法務の案件について、数をこなしていない場合が多いからで、大変役立っています。

 

たとえば、法務部が整備されていなかったり、発足して間もない場合は、複雑で膨大な契約書についてチェックするマンパワーが伴っていない場合があります。そのようなときに、依頼を受けたりするのです。

 

また、法律事務所に依頼するより、報酬も安いです。

 

――では、世間は残業を減らしている一方、先生は残業をしていらっしゃるのでしょうか(笑)

 

私はいいんです。契約書チェックが好きで、半分は趣味でやっているような仕事です(笑)

ですから、夜中でも土日でもチェックしますよ。もちろん、チェックの品質は妥協しませんけれどもね。

 

――クライアント企業にとっては、まるで信頼できる法務部がもうひとつできるようなものでしょうね。滝川さんにとって、企業法務部の仕事の魅力は何でしょうか。

 

会社の中で、他の部署から頼られるような「専門家」になれたことでしょうね。それは、法務部以外の部署にいたのでは得がたい経験だったと思います。

営業部にいた時代は、もし、そのまま辞めていても、他社では使い物にならなかったと思います。自動車部品会社の営業の進め方は特殊ですからね。

 

そのぶん、法務部は潰しが利きますね。どの企業に移っても通用する知識であり経験ですからね。

 

法務部って、ひとたびできると、いろんな厄介な案件が持ちこまれる場合があります。法務部がなかった頃なら、法的トラブルについては総務部が担当となり、しかし専門として解決できる人材がいなくて、いつしか責任の所在がウヤムヤになってしまうことも多いです。

 

その点、法務部は「スペシャリスト集団」として他部署に頼られることもあります。その信頼や期待を裏切らないためにも、つねに知識をアップデートし、経験を深めていくことが重要となります。

 

もっとも、会社の中で「専門家」であり続けるためには、常に勉強し続けなければなりませんし、私なんかは弁護士よりも詳しい部分がたくさんあるわけですよ。

 

――はい、なにしろ、大学教授でいらっしゃいますからね。

 

もし、法務部にいなかったら、今ごろ、どうなっていたかと思いますよ。こうして、定年後も独立した立場で働いたり、大学で教えることができたりしていますからね。

 

――今後もご活躍を期待しております。本日は、お話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

 

こちらこそ、ありがとうございました。

 

 

【インタビュアー プロフィール】
長嶺 超輝

リーガルライター。法律や裁判などについてわかりやすく書くことを得意とする。1975年、長崎生まれ。3歳から熊本で育つ。九州大学法学部卒業後、弁護士を目指すも、司法試験に7年連続で不合格を喫した。2007年に刊行し、30万部超のベストセラーとなった『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書)の他、著書13冊。

 

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