法務の鉄人(11)『法務担当者と英語力』

記事広告:『終身雇用終焉後の法務キャリア

法務やコンプライアンスのみならず、現代の社会人にとって、英語のスキルがmustであると言われて久しい。
では、(1)いつまでに、(2)どれくらいの英語のスキルが必要なのだろうか。そして、(3)どうやって勉強すべきか。

 

いつまでに英語を身に着けるべきか

これは、可及的速やかに、である。就職活動をする時点で身に付けているのが望ましい。そうでないのならば、今すぐに勉強を始めるべきである。語学は、全ての基礎だから。そして、一朝一夕には身に付くものではないから。日本で受験勉強を経験した人ならば、高校三年生の冬辺りの方が英語力はあるのかもしれない。ただし、文法や語彙という意味で。

明日から、来週から、今の仕事が片付いたら…などと言っている人は、いつまで経っても言い訳をして始めない。現代人は忙しい。忙しい人が時間に余裕ができることなどないので、忙しいのであるならば、忙しいなりに時間を作って勉強するしかないのである。

「会社では、英語を使っていない」という人もいるだろう。ただ、そうした状況は今後も変わらないのだろうか。日本での労働力の確保は難しくなってきている。外国人は日本人よりも安い賃金のイメージだった時代は終わり、外国人が事業企画部門や、コーポレート部門などで、働くのが当たり前になってきているのである。そうなると、自分は海外業務担当ではないから、英語は使わないんだという理屈は成り立たない。また、あなたが管理職で、部下に外国人がいるとすれば、部下から見て英語でコミュニケーションをとれない上司はなんとも頼りないのではないか。

どんな未来を想像するとしても、英語が出来なくていい未来は来ない。

 

どれくらいのレベルの英語力が求められるか

最低レベルの目安として、TOEICならば800点以上、英語検定ならば準一級といったところだろう。重要なのは、テストの点という客観的評価と、実際に聞けて話せるという技術を兼ね備えていること。

テストの点が高くても会話が出来なければ意味はないし、英語の非ネイティブが、「会話は出来るけれどテストは苦手」と言ったところで、安心はできない。テストができないということは、テストが要求する何らかのスキルが足りていないということであるからだ。
また、法務関連だと、「TOEICのスコアは低いけれど、英文契約はできます」という人がいる。しかし、私ならそうした人材はあまり採用をしたくないし、少なくとも英文契約を任せることはしたくない。

確かに、英文契約とTOEICに出てくる単語は随分と違う。そして、英文契約の中に出てくる単語の種類はかなり限定されている。だからそれに慣れてしまえば…という考え方には理解の余地もある。

しかし、日本語の契約で考えてもわかるように、ある事柄が本当に適切に表記されているかどうかは非常にセンシティブなのが契約書のワーディングである。ましてや、英語である。
アメリカ式かイギリス式で契約書自体も、表記も、マークアップの仕方も変わるというのに…である。
もっと言えば、英文契約担当は、契約交渉の場に立ち会うなり、同席(電話会議を含む)するなりして、状況をわかった上で、英文契約を見なければ、英文契約を見れる法務担当の存在意義がそもそも少ない。そうなってくると、少なくとも片言の英語や、TOEICでろくに点もとれない英語力では到底、不十分ということになる。

私が過去にそういう時期もあったからこそ、この部分は強く言いたい。

 

どう、英語力を身に着けるか

問題は、どうやるか?である。これは、まず英語に触れる時間を増やすことが必要である。
それも、読み、書き、聞く、話す、それぞれを意識的に取り組む必要がある。簡単に言えば、TOEICの教材を繰り返し、細かくやる。TOEICはマーク式だから、何故その選択肢が正解なのかだけではなく、何故他の選択肢が不正解なのかまで理解しながら進めてほしい。司法試験を経験した受験者ならば、ひとつひとつの肢を潰していく方法だから馴染み深いだろう。
そして、段々とスピードをあげていく。問題集は時間を測って取り組む必要がある。

音読も重要である。教材の音源に倣って読む。日本人は、それなりに英語ができるとされる人でも、英語を話させると抑揚がない。何を伝えたいのかもよくわからないし、聞きにくいし、頑張って聞いても聞いていて辛い。

 

『I can speak English.』

 

という一文でも、4単語のどこを強調するかで、ニュアンスは変わる。これは中学で習ったことである。意味を考えて、音読してほしい。

話すことも重要である。
様々なプログラムなどもあるが、そもそも話す回数を増やす努力はされているだろうか。身近な外国人と英語で話すとか、上司と英語で面接するとか…。何でもいい。
例えば都内であれば、お台場や銀座に行くと、1日で何度も道や駅のことを聞かれたり、店のことを聞かれたりもする。更に、こちらが英語で対応できるとわかると、外国人も聞きたいことを色々聞いてくる。この程度でも話さないよりはずっといい。
こうしたことをしていると、仮に英会話ができたとしても、様々な知識がないことには説明ができないことに気付く。日本のこと、東京のこと、政治のこと、文化のこと、流行りのもの、雑学。そして仕事のこと。
私たちは英語のネイティブではないから、そうしたことにも基本的には日本語からアプローチする。だから、知識を英語で身に付けていくこともまた必要なのである。

例えば最近であれば、アベンジャーズの映画が大ヒットしている。アベンジャーズは元々アメリカンコミックだから、英語の文献には事欠かないし、コミックでまさに「英会話」の勉強もできる。また最近は、『AVENGERSで英語が話せる本』(Kazuma 著、KADOKAWA)も発売された。フレーズの解説などもあり、充実している。こうした英語の教材は、モチベーションの維持にも役に立つ。この本一冊で、英語の勉強が完結するとは思わないけれど。

よくTED talkで英語の勉強をしているという人もいるが、私はこれも同じで、様々な話題に触れられること、モチベーションの維持、それから英語でのプレゼンの参考のためには、有用であると思う。

ただ、やはりリスニングを勉強するならば、TOEICのリスニング教材(公式問題集など)をお勧めしたい。TED talkはあくまでもプレゼンテーションだから。上手いプレゼンは、分かりやすく話すし、間も上手く使う。これは、スピーチやプレゼンテーションのためのお手本としては好適であるが、リスニングの観点で言えば、分かりやすいものでリスニング力(聞き取る力)を鍛えても、効果は弱いように思う。これは英語の勉強をサポートする1つの道具だと思う。

そして、TOEICに関してはやはり、公式問題集を何度もやるべきである。本のサイズが大きく持ち運びが大変なのが欠点だが、問題の質という点では、これに勝るものはないだろう。

 

まとめ

どのように英語を勉強するかをまとめると、

 

・総合的には、公式問題集をひたすらやるのみ。

・ただし、リスニング、長文、イディオム、単語力などは、それぞれの問題集で繰り返し練習しよう。この辺りは『TOEIC® TEST 特急 シリーズ』(朝日新聞出版)が断然オススメ。音源もダウンロードで入手できる。

・英語を目にする機会、話す機会は何とか作り出そう。アベンジャーズなどのアメリカンコミックなども勉強になるし、モチベーションアップにつながる。

・話す機会を作ろう。

 

 

結局のところ、勉強であるから、楽な方法をとったり、やる気がなければ効果はあがらないし、効果も薄い。他方で、勉強に使える時間が短くとも、効率をよくすれば勉強はいくらでもできる。

一朝一夕に上達するものではないから、集中して毎日少しでも勉強してほしい。

 

今回のオススメの本は、本文中に出てきたものに加えて、

英語を英語で理解する 英英英単語 上級編』(ジャパンタイムズほか編)、

英語が楽天を変えた』(セダール・ニーリーほか、河出書房新社)

の2冊。

前者は、英語を勉強するのに非常に効率よくなる物の一つが、英英単語辞典である。日本語もそうだが、英語にも同じ意味を持つ言葉がたくさんある。英英(単語)辞典は、そうした同意語を効率的に学習できる味方である。本書は、音声もダウンロードでき、日本語訳も付いている、非常に出来のいい英語教材。

後者は、日本企業でいち早く「公用語英語化」に舵を切った楽天株式会社の意図と、その変化をハーバードビジネススクールの教授が分析したものである。英語を勉強する必要性がないと思っている人こそ読んで欲しい一冊である。

 

 

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

 

【筆者プロフィール】

Harbinger(ハービンジャー)

法学部、法科大学院卒。
司法試験引退後、株式会社More-Selectionsでインターンを経験。

その後、稀に見る超ブラック企業での1人法務を経て、スタートアップ準備(出資集め、許認可等、会社法手続き、事業計画等)を経験。転職した後、東証一部上場企業の法務部で、クロスボーダーM&Aを50社ほどを担う。また、グローバルコンプライアンス体制の構築に従事。

現職はIT企業のコンプライアンス担当。大学において、ビジネス法の講師も行う。

 

 

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