法務の鉄人(4)「法務担当として短期に存在感を上げる方法」

前回までを【入門編】とするならば、今回からは いよいよ【実践編】である。

 

法務・コンプライアンス担当者にも様々なスタイルがあるが、今回は担当者として、成長していく方法、とりわけ短期間で大きな経験を積み、存在感をあげられる方法の紹介をしたい。

 

私がいつも考えているのは、『1年間で、ある分野の専門家になる』ということである。

今は企業にとっては変革の時代であり、先祖代々の事業をそのままやっていれば良いなんてことにはなかなかなっていない。フィルムメーカーの会社が今や化粧品製造が中核になったり、つい先頃も携帯電話キャリア大手が物流事業への進出を発表した。

こうした場合に、企業は新しい事業の会社や事業をM&Aで取得するか、その道の経験者を大量に採用することが多い。

しかしいずれの場合であっても間接部門である法務やコンプライアンスにそうした事業の経験者はなかなか入ってこない。

 

複数の企業、事業で法務やコンプライアンス部門の経験があればよく分かるのだが、法務やコンプライアンスであっても会社が変わればその位置付けは大きく異なるし、事業が変われば注意して見るべきものも変わる。そもそも必要とされる知識が変わるとも言える。

だから自分の会社が新しい事業を始めようとするなかで、法務やコンプライアンスにその分野の専門家がいない、という現象は、実はあちこちで起きている

 

そうした中で、あなたがその分野のこと、「ちょっと詳しいです」という状況だとしたらどうだろう。それならひとまず「あなたが担当してみて」ということになるのではないか。いや、そこまでならなくてもいい。とりあえず「弁護士やコンサルタントにお願いしよう」となった場合であっても、あなたはその取りまとめや窓口となっていくはずである。

 

そしてその事業が会社内で大きなものになっていくのであれば、あなたの存在感は増していくのは間違いないか。

 

 

いやいや、会社が何の分野に進出を考えているのかも分からないし、経験してもいないのに詳しくなんてなれないよ、という考え方はありうるかもしれない。

 

しかし、だからこそ、【入門編】で述べたことがある。同僚、上司、役員とランチをし、ミーティングでは議事録を作りながら、会議でのあなたのプレゼンスを高め、事業のことを学んだ。更には、社内でどういうアプローチをすれば物事が上手く進むかの理解に努めてきたはずである。

 

 

それでは不十分であれば、例えば、会社の有価証券報告書を見たり、業界や会社の動きを見ていれば、どの分野に関心があるかくらいはすぐに分かる。またそうでなくても、役員や上司との関係性が近しくなれば、間接的に話題が出てくることもあるだろう。

 

知識面については、「ある分野に詳しい」というよりは、会社や事業に関係性がありそうなところを中心に、普段から幅広く(それほど深くなくてもいい)詳しいことが、まずは重要かもしれない。そこから必要に応じて徐々に深めていくのである。

 

後者の例は、例えば、最近ホットな領域である「決済」について、決済だけに特化して勉強するのは効率的ではなく、また理解もしにくい。そこで決済だけではなく銀行法や金融全般を入り口にする。そうすると、「決済」の知識がすぐには役立たなくても、例えば暗号通貨や金商法の話題に役立つのである。

 

ところで、法務やコンプライアンスに限らず、優秀なビジネスパーソンには、「マインド」「スキル」「ナレッジ」が求められる。

 

マインドというのは、仕事への意欲である。仕事に対するモチベーション。

スキルは、コミュニケーション能力や様々な処理能力、ナレッジは知識である。ところが、これらをバランスよく持ち合わせることが難しい。多くの人は何かに欠けているが、それをリカバーできる方法はある。特にアプローチしやすいのは、「マインド」「ナレッジ」である。「スキル」は時間がかかることも少なくない。

 

ナレッジに関して、司法試験やロースクールを経てきた人たちは、法律知識のナレッジは高いと言える。しかし、企業法務は弁護士業をやるのではない。これまで述べたように、会社の事業に関連しながら、幅広く知識を持つ、なければ、勉強する必要がある。

「勉強」というが会社のサービスを自分で試してみたり、わからないことを深掘りして調べてみるのである。自分でやってみることは非常に大事。

 

この繰り返しをしていれば、ナレッジの量はすぐに社内でも上位になっていく。

 

こうして、新しい分野に会社がチャレンジするときのメンバーに入る。

新しい分野であるから、困難はつきものである。しかし、未開拓の分野は、努力すれば何らかの成果は出る。つまり、努力が認められやすいのである。

 

こうして、自分のナレッジを高め、足場を固めていくことで、1年間経ったとき、◯◯のことなら、貴方に聞こう、ということが社内で浸透してきていると、それは大きな強みになる。

 

人が頼られる仕組みは、会社では必ずしも好ましくはないが、個人のレベルでみれば、チャンスに繋がるのだから。

 

あなたがそのノウハウを確立させたら、その仕組みを他のメンバーに共有することが次なる課題になるが、それはまた別の機会に。

 

 

 

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

【筆者プロフィール】

Harbinger(ハービンジャー)

法学部、法科大学院卒。
司法試験引退後、株式会社More-Selectionsでインターンを経験。

その後、稀に見る超ブラック企業での1人法務を経て、スタートアップ準備(出資集め、許認可等、会社法手続き、事業計画等)を経験。転職した後、東証一部上場企業の法務部で、クロスボーダーM&Aを50社ほどを担う。また、グローバルコンプライアンス体制の構築に従事。

現職はIT企業のコンプライアンス担当。大学において、ビジネス法の講師も行う。

 

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