法務の鉄人(3)「安定して強い」とはどういうことか

私の記憶が確かなら、20世紀末、人気を博していた料理バトル番組『料理の鉄人』で、初代「和の鉄人」 道場六三郎氏は、毎回必ず「お品書き」を書いていた。

限られた調理時間を使い、敢えてお品書きを書くことで、見た目のパフォーマンスは勿論のこと、助手たちにこれから作る料理を明確に伝えるためのパフォーマンスであったそうだ。これは私が前回述べた『議事録をとること』に繋がってくるのである。

私が「法務の鉄人」とこのコラムを名付けたのは、若い法務担当者が、この番組の料理の鉄人たちのように、いかなる難問、課題にぶち当たったとしても、法務やコンプライアンスの担当者として基本に忠実に、そして安定的に力を発揮して強く、頼りにしてもらえる存在になれるように、という想いからである。

今回のテーマは、「安定して強い」とはどういうことか、から考えたい。

 

さて、あなたの存在が社内で知られるようになり、仕事もわかってきた。
しかし、仮にあなたに高いスキルと経験値があったとしても、これではまだ評価されない。

働くということは、あなたが好き勝手に仕事をすればいいというものではないからである。

具体例で考えてみよう。

 

あなたは料理人であるとする。あなたのお店に、長年通ってくれているAさんと、Bさんがやってきた。Aさんは、生粋の江戸っ子で濃いめの味付けが好きであり、いつも濃い目の味付けの料理ばかり注文する。またBさんは、魚介類にアレルギーがあり、魚介料理は苦手。しかし二人の注文は「おまかせ」。特に細かいお願いはなかった。あなたは元々、今日のおまかせには薄味の魚介の鍋物を出そうと考えていた。このとき、あなたはどうするか。

 

料理人はお客様からお金をいただく代わりに食べ物やその場の雰囲気作りで満足いただくのが仕事(目的)である。通常であれば、元々決めていたものを提供するということなのだろうが、お客様の好みや体質、嗜好を知った上で、あえてそれに背く方法をとって、お客様に満足いただけるだろうか。例外はあるかもしれないが、普通は無理だろう。場合によっては信頼を損ねるかもしれない。確かに法律問題にはならないかもしれない。しかし、お客様は、あなたが好みや事情をわかってくれていると思っている。もしかしたら、単にあなたに伝え忘れたのかもしれない。それでも、あなたは事情を知っているのならば、それに対応する必要があるだろう。仮にそれを誰かに指示されなくても。それが信頼関係を築くということであるし、プロフェッショナルということだと私は思う。もちろん、急な変更に堪えうる技量は必要だけれども。

 

私がかつて、管理職のコーチング研修を受けたときに、真っ先に教わったのは、「まずは相手(部下)の人間性のタイプを理解すること」だった。相手はどういうことに傷つき、何に喜び、どんな風にやる気をだすのか。それを知っているのと知らないのでは、全く信頼の築き方に違いがあるという。

そういえば似たような話は、マンガ『SLAM DUNK(井上雄彦 著、集英社)』でも出てくる。作中の陵南高校の福田吉兆という選手に対し、当初監督がとても厳しい指導をしたところ、福田選手の性格に合わず、彼は反発した。そこで、アプローチを変えたところ上手くいったというものだ。

どの例であっても、目的、ゴールは変わらない。しかしアプローチは様々である。このことは仕事でも同様である。効率も時間も、あるいは成果も、更には、その後の関係性も変わるのである。
あなたがやっている仕事は何のためのもので、誰に承認を得るものなのか。そして、チームに誰が関わるのか。そこをきっちりと見定める必要がある。
自分の価値観や常識だけでグイグイ進めるのは大抵はあなたの自己満足で終わる(あなたが経営者であるならばともかく)。熱意や気合いだけでは、何も動かないし変わらない。

 

ロースクール卒の法務担当者は、自分が試験勉強で学んだことを頼りにしすぎたり、反対に自分の経験のなさを引け目に感じて、必要以上に気合いに満ち溢れたりする。でも、会社の事業にはそんなのはどうでもいいことなのだ。
会社の目的を達成し(しかも最大限の効果が得られる形で)、それを最も合理的でスムーズに進めるにはどうすればいいか。重要なのはそれを冷静に分析して、適切なアプローチをすることなのである。

これをできない人には、信頼関係のあるチームを作れないし、会社としてもプロジェクトを任せられるようにはならない。
簡単なことではない。しかし、重要なことなのだ。

法務の鉄人の最初の三回では、一緒にランチを食べる(お互いによく知る【導入編】)+議事録をとって事業を知る【導入編】、名前を売る+メンバーのこと、会社のことをもっとよく理解して仕事の進め方を考えるということを学んできた。

当たり前なことのようで、簡単ではない。何故なら、社交的な人にも、控え目な人にも苦手な要素が含まれているからだ。
料理の鉄人では、鉄人の苦手な食材がテーマ食材となることも多かった。それでも、鉄人は強くあらねばならない。勝たなきゃいけない。

法務やコンプライアンスの仕事も同じことですよね?

 

 

 

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

【筆者プロフィール】

Harbinger(ハービンジャー)

法学部、法科大学院卒。
司法試験引退後、株式会社More-Selectionsでインターンを経験。

その後、稀に見る超ブラック企業での1人法務を経て、スタートアップ準備(出資集め、許認可等、会社法手続き、事業計画等)を経験。転職した後、東証一部上場企業の法務部で、クロスボーダーM&Aを50社ほど経験。また、グローバルコンプライアンス体制の構築に従事。

現職はIT企業のコンプライアンス担当。大学において、ビジネス法の講師も行う。

 

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