日本企業にとって最適な比例原則の適用 –米国訴訟に対応して-(後編)

前編では、eディスカバリ実務6原則のうち、第一原則から第三原則までを紹介した。本編では、第四原則以降を紹介する。

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比例原則を明確化したeディスカバリ実務6原則

➍第四原則 

第4原則は、比例原則の適用は推測ではなく情報に基づくべきである、と述べている。比例原則に基づいたディスカバリの制限を検討する際に、裁判所は要求される情報が訴訟上の争点解決に役立つかを考慮すべきである。関連する情報であったとしても、その情報を得るために費用や負担が必要となるのであれば、情報の提出は正当化されないであろう。一方で、その情報が極めて重要な価値を持っているか、または過度な負担をもたらすかを、情報が提出される前にどのように証明するか、という問題がある。セドナ・カンファレンスは、情報の重要性評価は、実際に情報が提出されるまでは難しく、証明は困難だろう、としている。

セドナ・カンファレンスは、情報の価値を判断するためのサンプリング利用を推奨している。情報の相対的価値を決めるために、無作為抽出のサンプルデータを収集、提出する。しかし、無作為に抽出された文書の開示は、無関連情報の提出を引き起こしかねない。そこで、提出が不要であることを示すために、無関連である理由を説明したリストや少数の実例を提供することの検討が必要かもしれない。そして、これらの立証に際し、事案における必要性を比例原則に基づいて評価することは、推測や根拠のない主張よりも重要である、と述べている。

この原則は、相手方弁護士とeディスカバリの範囲を協議する際の有効な手段であるとともに、証拠漁りともいえる探索的ディスカバリや、法外なeディスカバリ費用の脅威を与えることによって強制和解を目指す活動に対する重要な防衛策となる。さらに、過度な負担と長い期間を要する不当なディスカバリを、証拠なしに要求する当事者に対する警告ともなる。
日本企業は、米国訴訟における情報の収集、加工処理、レビュー、翻訳、提出の過程で生じる莫大な費用の問題に直面している。相手方弁護士との協議に際し、比例原則を効果的に主張するためには、潜在的な費用を含む経費をあらかじめ詳細に試算しておくべきである。

 

➎第五原則 

第5原則は、比例原則の分析において非金銭要素も考慮されるべきである、と述べている。セドナ・カンファレンスは、連邦民事訴訟規則は社会的利益の側面をも考慮していることについて注意を喚起している。比例原則の分析においては、共同体の利益は金銭要素よりも重視される場合があり、独占禁止関連事案においてはこうした例外を認め、社会的利益や企業行動に対する潜在的な影響について考慮している。加えてセドナ・カンファレンスは、eディスカバリが強制和解や消耗戦の手段として使われる場合などにおいて、非金銭要素の重要性がディスカバリの制限を促す、ともしている。高額なeディスカバリ費用の脅威によって強制的に和解へ持ち込まれるおそれのある独占禁止関連訴訟に、しばしば巻き込まれている日本企業にとって、これらの考慮は極めて重要である。

 

❻第六原則 

第6原則は、費用と負担を軽減する技術の利用は比例原則の分析に際し考慮されるべきである、と述べている。電子化データの範囲が毎年増加するにつれて、利用可能なツールや技術も発達してきている。ディスカバリに最適な技術を検討することは、応答当事者の責任である。それらを用いて最大限に効率化することは義務ではないが、最適なディスカバリ技術を検討しない当事者は、その結果として生じた過度な負担や追加費用を主張することはできない。セドナ・カンファレンスは、当事者が収集する情報の範囲、期間、カストディアン、データの情報源について合意するために、早期の事案分析を推奨している。さらに、プロセスを支援する専門技術者へ依頼することを推奨し、トライアル前会議に専門技術者を同席させることの価値にも触れている。

全体として、訴訟当事者、とりわけ業界で最も高額のレビュー費用に直面している日本企業にとって、新規則は、費用と負担を大規模に削減する契機なっている。もっとも、対審手続きにおける規則と同様に、比例原則も自動的に適用されるのではなく、主張する機会を生み出すものにすぎないことを銘記しなければならない。これらの規則は比較的新しいため、多くの裁判官は依然として古い基準を適用していたり、当該規則の実務への適用に精通していなかったりするかもしれないことの認識も重要であり、新しい規則について、法廷で説明する必要もあるだろう。比例原則の適用を求めて争うか、その利益を享受しないままにしておくかは、訴訟当事者の判断に委ねられている。

 

 

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

 

【筆者プロフィール】

James O’Donoghue

インハウス・アドバイザリーグループ代表取締役。弁護士として15年の経験を有する。
ウォールストリートにある証券訴訟を専門とする大手法律事務所での5年間の勤務を経て、2012年にニューヨークでインハウス・アドバイザリーグループを設立。インサイダー取引訴訟から製造物責任訴訟に至るまで、大規模で複雑な事件を数多く担当。証券訴訟・内部調査・規制調査・反トラスト調査・破産手続・株主代表訴訟・商業訴訟等様々なディスカバリープロジェクトにおいて、戦略の立案および弁護士チームのマネジメントを行う。
その他にも、証券取引委員会・司法省・労働省・ニューヨーク州検事総長事務局の要請を受けて数々の事件を担当した。
2014年より日本企業に対して重点的にサービスを提供している。米国司法省による日本の自動車用部品をめぐる独占禁止法の捜査に関連して複数の大きな案件を担当した。7年以上にわたって日本のクライアントの案件に数多く携わりサービスを提供してきた実績がある。
2000年 オーグスバーグ大学 インターナショナル・ビジネス&ファイナンス卒業
2003年 ヴィラノーヴァ大学ロー・スクール卒業
2004年 ニューヨーク州弁護士資格取得

 

 

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