Q&Aで学ぶ英文契約の基礎(14) -  紛争解決条項(3)

 

この「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」第14回では、前回に引き続き、(国際商事)仲裁について解説します。

 

Q1:紛争解決を仲裁で行う場合、仲裁条項のドラフティング上注意すべきことは何ですか?

A1: ① 前提として、最低限、仲裁地、仲裁機関および仲裁手続を決定し、その上で、② 仲裁条項のドラフティングは、その仲裁機関のモデル条項をベースとして、一般的には、仲裁人の人数と仲裁の言語も規定すべきです。

 

Q2:仲裁地、仲裁機関、仲裁手続とは何ですか?

A2: 以下に解説します。

 

【仲裁地】

「仲裁地」(“seat of arbitration”または”place of arbitration”)とは、その仲裁手続にどの国の仲裁法が適用されるかの基準となる都市・国を意味する法的概念です。例えば、「仲裁地が日本国内にある仲裁手続及び仲裁手続に関して裁判所が行う手続」については我が国の仲裁法が適用されます(1)(括弧内は条文番号。以下同じ)。

すなわち、両当事者が契約に規定した仲裁合意(紛争を仲裁に付する旨の合意)において、仲裁地を日本国内の都市(例:東京)とすることを合意した場合、その仲裁合意の有効性、効力等は、我が国の仲裁法に従い判断されます(13~)。また、例えば、仲裁地を日本国内の都市とする仲裁判断に取消し事由(例:仲裁人の合議体の構成が違法)がある場合、その取消しの裁判の管轄、手続等についても我が国の仲裁法が適用されます(5, 44等)。更に、仲裁地としての日本は、「外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約」(ニューヨーク条約)に加盟していますから、日本国内において行われた仲裁の判断は他の同条約加盟国でも執行することができます(条約3)。

この「仲裁地」と、現実に仲裁の手続が行われる場所とは異なります。例えば、仲裁地を東京とした場合でも、現実の仲裁手続は、ビデオ会議や電話会議で行うことも、証人のいる相手方の国や第三国で行われることもあります。

 

【仲裁機関】

仲裁には、常設の仲裁機関に仲裁手続の事務を委託して行う「機関仲裁」と、案件ごとに当事者間で仲裁手続を合意して行う「アドホック仲裁」があります(”ad hoc”は「その場限りの」の意味)。「仲裁機関」とはこの常設機関をいい、仲裁の手続規則、事務局機能、審問(hearing)場所等を提供します。

「アドホック仲裁」の場合、それを行うことやその手続の概要を仲裁条項で規定しておくことはできますが、実際に紛争が生じてから仲裁手続の詳細を合意することや、場所の確保その他の事務を円滑に行うことは困難であることから、原則としては「機関仲裁」を選択すべきです。

以下に、日本企業が当事者となる国際契約で利用されることが多い仲裁機関の例を示します(各仲裁機関のモデル仲裁条項の掲載ページにリンクを貼っています)。

国際商業会議所(International Chamber of Commerce)(ICC)

シンガポール国際仲裁センター(Singapore International Arbitration Centre)(SIAC)

日本商事仲裁協会(Japan Commercial Arbitration Association)(JCAA)

香港国際仲裁センター(Hong Kong International Arbitration Centre)(HKIAC)

中国国際経済貿易仲裁委員会(China International Economic and Trade Arbitration Commission) (CIETAC)

アメリカ仲裁協会 紛争解決国際センター(International Centre for Dispute Resolution of American Arbitration Association)(AAA-ICDR)

ロンドン国際仲裁裁判所(London Court of International Arbitration)(LCIA)

上記の仲裁機関の内、例えば、ICC(本部:パリ)は、日本にも支部(ICC日本委員会)があり、日本でもICCを仲裁機関としてICCの仲裁規則に従い仲裁を行うことができます。

 

【仲裁規則】

各仲裁機関が、その管理下で行われる仲裁に関し、その申立、仲裁廷(単独仲裁人または複数仲裁人の合議体)、仲裁手続の進行、仲裁判断の期限等を定めた規則です。仲裁機関が採用する仲裁規則は一つとは限りません。例えば、JCAAにおいて仲裁手続を行う場合、3つの仲裁規則の中から当事者のニーズに合った規則を選択することができます。

 

Q3:仲裁地、仲裁機関および仲裁手続はどのように決めたらいいですか?

A3: 通常、いずれの当事者も、自社の所在国の都市、自国の仲裁機関、その仲裁機関で選択可能な仲裁規則を希望します。自社が契約交渉上優位な立場にあれば自社の希望通りになる可能性もありますが、そうでない場合は、いずれの当事者にもアクセスがし易く仲裁に関し定評や実績のある第三国の都市・仲裁機関・その仲裁手続で仲裁を行うことも検討すべきでしょう。

 

【解説】 

日本の企業にとっては、例えば、東京で日本商事仲裁協会の「商事仲裁規則」で仲裁することが最善かもしれません。しかし、通常、相手方も同様のことを主張します。このような場合、例えば、相手方がアジアの企業であれば、シンガポールにおいて、シンガポール国際仲裁センター(SIAC)の管理の下でその仲裁規則に従って仲裁を行うこと等も検討すべきでしょう。SIACは仲裁機関として国際的な定評と多数の仲裁実績があり、アクセス面でも、アジアの企業同士であれば受入可能でしょう。

 

Q4 : 仲裁条項のドラフティングは、具体的にどのようにしたらよいでしょう。

A4: 選択した仲裁機関のモデル条項をベースとして、最低限、仲裁地および仲裁機関・仲裁手続を規定し、更に、一般的には、仲裁人の人数と仲裁の言語も規定すべきです。[1]

 

【解説】 

主な仲裁機関は、その仲裁機関で行う仲裁について、仲裁合意のモデル条項(推奨条項)を公表しています。従って、その条項を採用すれば、問題なくその仲裁機関での仲裁が受け付けられるということになります。これに対し、当事者が全く独自に作成した仲裁条項の場合、その内容が不適切なために有効な仲裁合意と認められないリスクがあります。極端な例としては、意図した仲裁機関の名称が誤っていることにより仲裁が受け付けられない場合もあります。

 

Q5 : 仲裁機関のモデル条項の例を教えて下さい。

A5: いくつか例を示します。(日本語は訳)

 

SIACのモデル仲裁条項)(SIAC MODEL CLAUSE)

 

Any dispute arising out of or in connection with this Agreement, including any question regarding its existence, validity or termination, shall be referred to and finally resolved by arbitration administered by the Singapore International Arbitration Centre (“SIAC”) in accordance with the Arbitration Rules of the Singapore International Arbitration Centre (“SIAC Rules”) for the time being in force, which rules are deemed to be incorporated by reference in this clause.

その存在、有効性または終了に関するあらゆる争点も含め、本契約から生じた、または、本契約に関連する全ての紛争は、その時点で効力を有するシンガポール国際仲裁センター仲裁規則(「SIAC規則」)に従って、シンガポール国際仲裁センター(「SIAC」)により管理される仲裁に付託され、最終的に解決されるものとし、当該規則は本条で言及することにより、本契約に組み込まれたものとみなす。

The seat of the arbitration shall be ________________.

仲裁地は、________________とする。

(注) ________________には、”Singapore”、または、シンガポール以外の仲裁地を選択する場合はその[City, Country]を記入すること。

The Tribunal shall consist of ______________ arbitrator(s).

仲裁廷は、______________名の仲裁人で構成される。

(注) ________________には、選択した仲裁人の数、”one”または”three”を記入すること。

The language of the arbitration shall be ________________.

仲裁の言語は________________とする。

(注) ________________には、選択した言語(“English”等)を記入すること。なお、仲裁の言語とは、仲裁手続において用いられる言語を意味します。証拠書類等も仲裁の言語に翻訳されなければなりません。

 

「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」第14回はここまでです。次回は、ICC, JCAAのモデル仲裁条項や、「被告地主義」または「クロス式」の仲裁条項について解説します。

 

Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」シリーズ一覧

      【注       

[1] 【仲裁条項のドラフティング】 国際法曹協会(International Bar Association)が発行した「IBA国際仲裁条項ドラフティング・ガイドライン」(IBA Guidelines for Drafting International Arbitration Clauses)が参考となる。

 

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

(*) この「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」シリーズでは、読者の皆さんの疑問・質問等も反映しながら解説して行こうと考えています。もし、そのような疑問・質問がありましたら、以下のメールアドレスまでお寄せ下さい。全て反映することを保証することはできませんが、筆者の知識と能力の範囲内で可能な限り反映しようと思います。

review「AT」theunilaw.com(「AT」の部分をアットマークに置き換えてください。)

 

 

【筆者プロフィール】
浅井 敏雄 (あさい としお)
企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表

1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで複数の日本企業および外資系企業で法務・知的財産部門の責任者またはスタッフとして企業法務に従事。1998年弁理士試験合格。2003年Temple University Law School (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事、国際取引法学会会員、IAPP (International Association of Privacy Professionals) 会員、CIPP/E (Certified Information Privacy Professional/Europe)

【発表論文・書籍一覧】
https://www.theunilaw2.com/

 

 

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