法務は社内の敵?

 

前回に引き続き、法務部門のあるべき姿について掘り下げてみたい。

名前は同じ法務部門であっても、それぞれの会社で果たす役割は会社によって随分と異なるということが現実であると思っている。意外なことかもしれないが、東京や大阪等の日本の大都市に拠点を持つ大手法律事務所(特に海外の事務所の日本拠点)が日本でイベントを行うと、クライアント企業の多くは法務部門以外の部門から来ていることがよくわかる。かならずしも実業部門ばかりではないが、法務部門を社内に持つ大手企業の他の管理部門、例えば事業統括部門やコンプライアンス部門等である。ここで気になるのは「社内に法務部門を保有している企業で、法務部門以外の人間が法務部門よりもより法律事務所と親しんでいる関係にあるのか?」という疑念である。当初私は特に疑問にも思わず、法律事務所へ案件相談を持ちかけるのは、法務部門に同行する事業部門等他部門もあって当然であるのでその関係からという程度にしか考えていなかった。しかしながら全ての企業とは勿論言わないが、それらの多くの企業の法務以外の部門が行っていること、引いてはそういったイベントに出席するに至る経緯をやがて知って驚いた。それはいわば私から言わせてもらえば、法務部門は彼ら、彼女らにとって敵とすら言える状況にあることを示していたのであった。

 

これは多くの場合、実に意外に思えることだが部外者が抱くイメージほど法務部門は法律事務所とは頻繁に付き合ってはいない。むろん付き合うこと機会はかならずあるであろうが、法務以上に事業部門その他法務以外の部門の方がより頻繁なつきあいとなっているケースは全く珍しくない。典型的な例として、法務部門が契約のチェックなどを実務とした事業展開のための決済部門の一つとなっており、法務部門に主幹部署である事業部門が決済を通すために法務的な内容を説明しなければならず、そのための準備や理論武装のために法律事務所に教えを請うているケースが多いということである。つまり弁護士の意見を自ら取得して法務部門を説得する作業をやっていることになる。本来この作業は法務部門の主たる仕事の一つではないのか?またこれでは法務部門を説得するために事業部門が骨を折って弁護士より意見聴取を行っていることになり、法務が屋上奥に構えて裁いていることになる。これでは法務が事業推進のためのブレーキとなっていることになり、企業運営上まったく非効率化を助長するだけの存在であるように思える。私は長年の法務在籍経験の中でも、むろんこのような役割を果たしたことなど全くない。いうまでもなく違法行為はいくらそれが一時的な利益に結びつくからといっても許されるべきことではなく、法務部門として絶対に阻止すべき事項である。しかしながら、このような事業部門との  やりとりは違法行為かどうかではなく、事業上のリスク判断であることが大半であるはずである。なぜなら事業部案件が違法行為を含んでいるか否かの判断とは決して難しいものではなく、この事業部門と法務部門とのやり取りの中で容易に理解できる筈であり、また会社として違法行為に従事しないことという明確な回答があるからである。かたやリスク判断というのは明確とは言えない定性的なものであることが多く、各人が主観的に判断する決まった回答のないものであるため、意見対立が生じやすく、結論を出すまでに時間がかかるケースが多い。リスクの種類は万とあり、それらの一つ一つについてここで述べる紙面があるわけではないが、事業にリスクはつきものであり、リスク回避ばかりを考えていたら事業そのものが不可能になってしまうことも事実である。そういえば機会は少ないのであるが、たまに契約書や法解釈で他社と揉めた時に他社の法務と法務同士での協議を行うことが提案される場合、殆どのケースで他社の法務に協議の場を持つこと自体を拒絶されることが非常に多かった。これは商慣行としてどうかと思うが、私自信が一般に企業の法務というものがなんと依怙地な存在なのだろうと思ったことは何度となくあった。その他色々な周辺状況を考え合わせると、一般的に企業の法務というものはこういった存在なのであるということを今では私自身が確信している。最近はあまり言われないが、欧米でも日本でもビジネスジャッジメントルール=Business Judgment Ruleという法理がある。

これは会社とはその事業推進のための経営判断として十分に事前に法定会議体である取締役会等で検討、準備をし、怠りなく万全を期して事業展開を行ったとしてもなお、環境変化や不測の事態の発生により損失を発生させることは有り得るのであり、その場合にまで結果として失敗に終わったとしてもその経営判断に責任を問われるものではないとするものである。全くその通りであり、それも認めないのであればそもそも人間という不完全な存在が行っている経営判断に完璧さを求めるという間違ったものになってしまうのである。

この点において事業リスクを判断する役割も担う法務部門として前号で記載した「法務部門の人間は事業部門経験者である。」ことが大きな意味をもってくるのである。これは事業部門経験を持つ法務担当者がリスク判断に甘くなることを意味するものではなく、リスクを負う場合にはどういった内容のリスクなのか、またリスクとして許容される範囲のものなのか、仮にリスクが顕在化する場合はどう対処すべきなのかといったことを事業部門の立場で判断できるということである。

 

次回は続きとして法務部門と事業部門との間に存在する微妙な溝について考察してみたい。

 

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

【筆者プロフィール】
丸の内の世捨て人

建設系の会社の法務部門に通算20数年在籍し、国内・海外・各種業法・コンプライアンス関連などほぼ全ての分野に携わった経験を持つ。事業部門経験もあり、法務としてもその重要性を事あるごとに説いている。米国ロースクールへの留学経験もあり、社内外の人脈も広い。

 

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