女性が今後のキャリアについて考えるとき、結婚・出産といったライフイベントを念頭に置くことが少なくありません。10代~20代前半の大学生に、30歳、40歳の時の人生設計を想像してもらうと、そこには必ずと言っていいほど結婚している自分、子どもを持つことについても描かれています。
男性の生涯未婚率が5人に1人といわれる中、女子・男子学生問わず、40歳の時にはパートナーがいて、子どもがいる、と書く人が多く、学生の将来像の中には自分以外の誰かが自分の人生に関わっていると見込んでいるのです。
昨今の平均婚姻年齢は30歳といわれていますが、30歳の平均年収は約300万円といわれており、結婚によって退職する女性は減少しています。にもかかわらず、妊娠、出産後には、退職する女性が約6割~7割近くいると言われています。
日本の女性の労働力率のグラフを見ると、中卒、高卒後の18歳から右肩上がりに増えるのですが、30歳~40歳にかけて、ガクッと下がるのです。これは妊娠・出産によってそれまで就業していた仕事を辞めることに起因しています。
このグラフは「労働力率のM字カーブ」といわれるように、その後、年齢が上がるにつれ再び労働力率が上昇します。しかし、その実態は、それまで就業していた仕事ではなく、多くは非正規労働者としての復帰です。大卒後、定年まで正社員として働いていた人と、出産等で退職し、その後非正規で定年まで働き続けた場合の生涯年収の差は、実に5000万円にのぼるとも言われています。
一方で、日本では、子ども一人にかかる教育費が高額であるということは、よく知られたところです。したがって、将来的に子どもを持つことを考えた場合、女性がそれまで就労していた正規職を辞めることにより、世帯年収が減ることを念頭に置く必要があります。
それなら、妊娠・出産で産休、育休を取り、再び元の職場に復帰すればいいのでは、と考える方もおられるでしょう。それが可能なのであれば、年収の減少を抑える手段としては、最善の方法であるといえるかもしれません。
現に多くの先進国では、この「M字カーブ」はすでに解消されているところが多く、M字ではなく、なだらかな山の形となっています。つまり、出産を経験する世代でも、就業継続をしており、こうした国では、出生率も高くなっているというデータもあるのです。
先生、それは外国だけでしょ?と聞かれることがありますが、日本でも出生率の高い県は、共働きが多いというデータがあります。
結婚する/しない、出産する/しない、は個人の自由ですが、そのいずれかを選択したことにより、年収が減少する場合は、その後の人生設計に大きな影響を及ぼします。これは女性自身のみならず、そのパートナーや家族にも言えることです。また男性でも、近年では親の介護により休職、離職を余儀なくされるケーズも多く、こちらはさらに年齢層が高いこともあり、大きな問題となっています。どのようなライフイベントが起こっても、就業継続できるのであれば、その先の選択肢がさらに広がるのではないでしょうか。
出産により、それまでの職を辞めるというのも、一つの選択肢です。子育てに専念したい、預けるところが見つからなかった…など、様々な理由があると思います。ただ、一度正規職を辞めると、子育てと両立することができる職は、非正規しかないということもあり得るのです。そして現状では、実に多くの女性が、こうした現実に直面しているのです。
将来のライフイベントについては、予測できないところもありますが、だからこそ、その時に備えて働き方を考えるということも、重要なのかもしれません。
法務でキャリアを積む、ということも一つの選択ですが、それをどう次へつなげていくか、何らかのライフイベントが起こった際には、どのように自分のキャリアと折り合いをつけるか、その中でどうキャリアを成長させていくかについては、予め考えておいて損はないはずです。
また、これから就職先を探すという段階の方は、こういう視点を念頭に置いたうえで、就職先を検討してみてはいかがでしょうか。長く就業継続している社員が多いのか、社員がどのような働き方をしているのかは、一つの選択の目安となるでしょう。またこれは女性だけではなく、男性も直面しうる問題です。
パートナーの収入が減少した場合、子どもが誕生した場合、親の介護が発生した場合にどうするか、予測不可能な面もありますが、あらゆる場面を想定したうえで今何をすべきかを考え、実行することも、より満足度の高いキャリアチェンジのためには必要なことなのかもしれません。
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【筆者プロフィール】 ドイツ、カナダに滞在後、中央大学法学部を卒業、学習院大学法科大学院を修了し、法律事務所にてパラリーガルとして勤務。離婚やDVなど、女性に関わる法律問題に携わった経験から、お茶の水女子大学大学院博士後期課程にてジェンダー法を学ぶ。在学中、Asian Institute of Technologyに留学。現在は製薬業界で法務を担当する傍ら、都内の大学にてジェンダー法、法教育等の講義を行っている。 |