実業部門から見た法務部

1.法務部門と事業部門の関係

私は大手の建設系会社において通算半世紀に及び法務部門に在籍している。この点を聞くと人は残念ながら私にとって有難くない印象を頂く人が多い。「法律やコンプライアンスのルールといった難しくてとっつきにくいことばかりを口にする往々にして事業の妨げになることをする人間。」程度に思っている人が多いのではないだろうか。私が実際に経験したのはこういったことを確信させるような事実が多かった。むろん法務部門の重要性を否定する人がいるはずもなく、違法行為やコンプライアンスに抵触することは問題ではないと考えている人もいない。間違えば会社にも大変な損失を与えることも万人に周知の事実である。しかしこの評判とはとどのつまり、事業部門が求めているものと法務部門が提供するものに相違があるということしか考えられない。会社の法務部とは(この点では外部の法律事務所も同様な筈だが)、事業部門の実業を問題なく進ませるための一助を担っているわけである。事業会社であれば事業で収益を上げているのであり、法務部門が収益を上げているのではない。むろん法務を軽んじるつもりは全くないがコンプライアンスの時代となって久しく、法務部門の存在意義が重んじられるようになってよいことばかりでなくかえって事業部門との距離ができてしまったような気がすることも確かである。この理由はいかなるところにあるのだろうか?

 

2.法務部門の仕事の本質

ずばり言わせてもらえば法務部門はあくまでも事業部門へのサービス提供部門である。すなわち事業部門が違法行為を回避し、コンプライアンスに抵触することなく、健全な利益を最大化することと損失を最小化することに間接部門として貢献することである。したがって事業部門よりの相談に対し、法務部門として「具体的に~~をするのが望ましい。」ということまでアドバイスすることが必須であると考える。むろんそのアドバイスに対し、どこまで斟酌するかどうかは事業部門の判断によることとなるが。よく巷でいわれるのは法務部門がコンプライアンス研修を実施すると法務部門が伝えたいことと、事業部門が知りたいことが異なるといわれることがある。もしこの通りだとすると、法務部門は全く事業部門のためにならない研修を実施していることとなってしまい、会社としての意味がなくなってしまう。法務部門を取り巻く環境がコンプラインスの時代となって確固たるものとなり、特に大企業であれば法務部門を保有していることが内容の如何を問わず、コンプライアンス遵守企業としての体をなしている証とさえ言える。ただ、それによりよいことばかりでなく、事業部門から縁遠くなってしまっていると感じるのは私ばかりであろうか。先ほどのべた「具体的に~~をするのが望ましい。」というアドバイスは正直言って法務部門のみの経験者には無理なことであると考える。さらに法務部門だけでなく、他の人事・経理などといった間接部門のみの経験者では無理であると思う。無論間接部門の仕事は事業部門の仕事に比べ、お世辞にも楽であるということはない。何であれ、仕事となれば厳しいのは当たり前である。

 

3.法務部員には事業部門経験を必須とせよ。

結局のところ、法務部門は事業部門に対し、自分達が最も有益なアドバイスをしたと自己満足に陥ってはいけないと考えている。事業部門のニーズはさまざまであり、かならずしもまともなものであるという訳でもないが、すくなくとも法務部門は事業部門のためにあるのであり、自己完結的に事業を行い収益を上げている部門ではないのである。事業部門より、「こんな法務であれば要らない。」と言われればその通りと考えられても仕方がないと考える。詳細な内容は次号以下に譲るとして、法務部門よりのアドバイスを受けている事業部門に言わせれば、「(事業部門が行っている)実業というものをわかっているのかどうか?」ということが決めてとなると思う。事業部門の社員は実業がわかっていない人だと判断すると、そもそも傾聴に値しないと判断し、法務部門の必要性を疑問視すると考える。そのような法務部門であれば不要であるということとなる。その点から考えても具体的に実業部門の業務を肌で自ら経験しなければ事業部門は説得できない。「具体的に~~するのが望ましい。」というアドバイスなどできようもないのである。もし仮に法務部員がそれをできている積りでも現実はそうではない。実業をある程度の年月経験しなければ現実の業務をわかっていると事業部門は考えてくれず、それは法務部員の言動から簡単にわかってしまうのである。もちろん実業経験がある法務部員は事業部門に甘くなってしまうようなことがあればそれは誤りである。最近は入社時より法務部員として社会人生活を始める若手も増えてはいるが…。

 

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

【筆者プロフィール】
山奥の法務

建設系の会社の法務部門に通算20数年在籍し、国内・海外・各種業法・コンプライアンス関連などほぼ全ての分野に携わった経験を持つ。事業部門経験もあり、法務としてもその重要性を事あるごとに説いている。米国ロースクールへの留学経験もあり、社内外の人脈も広い。

 

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