中上級者向け~クロスボーダーの(英文)秘密保持契約の勘所<2>

「重要な英文の秘密保持契約(NDA)の起案やレビューの際に、本当に気を付けるべきことが他にないだろうか。」「きちんとポイントや落とし穴が分かったうえで、クロスボーダーNDAのレビューや起案へのチカラの入れようの『強弱』をつけられるようにしたい。」

このような想いに少しでも役立つ投稿を、という趣旨でスタートした本シリーズ投稿。第1回目の投稿は、NDAの契約締結者が誰であるべきか、というテーマでした。

 

本シリーズ第2回目の今回は、「秘密情報(Confidential Information)」の定義で注意すべきポイント、というテーマです。

 

なお、本投稿は企業法務実務担当者としての経験や、米国のロースクールでの勉強や自己学習を通じて得た知識等から、自分なりの考え方や見方、そしてそれに関連する判例や実例を提供する、ということを主眼にしています。そのため、弁護士による論稿のようなものでもなく、よく書籍で書かれているようなこともあまり書いていません。独自の観点もあるため、異論もあるかと思います。その点ご理解いただいたうえでご笑覧いただけると幸甚です。

 

Confidentialである旨を明示・特定したものに限定したい場合に気を付けたいこと

まず秘密情報の定義でよく交渉の対象となるのは、秘密である旨を明示または特定したもののみを秘密情報とするのか、それ以外の情報も含めるのか、ということですよね。個人的には、受領者側の場合、大抵はこの点を交渉するのは時間の無駄・法務担当者のエゴだと思っています(機会があればこの考えの根拠にどこかで触れようと思います)が、事案によっては、きちんと書面等で秘密である旨が明示・特定された情報に限定すべく交渉すべきときもあると思います。

 

このような場合、ドラフティングミスとして意外と多いのが、秘密である旨の明示や特定という要件が秘密情報の定義としてきちんと(書いているつもりが)書かれていない、ということだと思っています。この分かりやすい最近の事例が、オレゴン州連邦地方裁判所にて係争中のVesta Corporation v. Amdocs Management Limited et al No. (3:14-cv-01142-HZ)という事案における2018年9月12日に下された、サマリージャッジメントの申し立てに対するOpinion & Orderです。(この事案は2014年頃から争われているようです。。。)

 

本件はオンライン決済システムに関連して原告(Vesta)と被告(Amdocs)とで行われた事業提携や買収の検討協議の際に交換された情報や知財に関する訴訟です。事案の概要は長くなるので説明を割愛しますが、この件において1つの争点となったのが、NDA違反という請求原因に関連して、原告側が秘密である旨を明示・特定しなかった情報が、NDAにおける秘密情報と扱われるか否か、という点でした。被告側のAmdocsは、両当事者で締結したNDAにおいては、秘密である旨がmarkingされた情報だけが秘密情報(Proprietary Information)として扱われるのだから、markingなしで原告が開示した情報は秘密情報ではない、と主張しました。

 

問題となった両当事者間のNDAには、以下の条項がありました。

 

 

Disclosure of the disclosing party’s Proprietary Information to the receiving party may only be made in writing or other tangible or electronic form that is marked as proprietary and/or confidential information of the disclosing party, or occur by demonstration of any product within the AMDOCS products.

 

 

ただこの条項は、秘密情報の定義として書かれているわけじゃないんですよね。こういう書きぶり、よく見かけませんか?裁判所は、この契約における”Proprietary Information”の定義が以下のように規定されていることにも注目し、またその他の条項の書きぶりにも触れて以下のように述べます。

 

 

On the other hand, “marking” is not included in the definition of proprietary information. Instead, the NDA describes proprietary information as: [v]aluable proprietary routines, computer programs, documentation, trade-secrets, systems, methodology, know-how, marketing, and other commercial knowledge, techniques, specifications, plans and other proprietary information associated with and forming part of its software system.

(中略)

The contract also fails to provide language indicating what consequences the disclosing party faces for failing to mark information they believe to be confidential or proprietary. And while the contract clearly contemplates written disclosures by either party and demonstrative disclosures by Defendants, absent from the contract is any indication of the consequences for oral disclosures of proprietary information.

 

 

秘密情報の定義自体にmarkingの要否が記載されているわけではなく、またmarkingがされなかった場合はどうなるのか、という定めも契約書にない、ということに着目していますね。

 

それでどうなったかというと、結局両当事者が「秘密情報である旨のmarkingをすることがProprietary Informationとして扱われるためのCondition Precedentである」と意図としていたかはUnclearであると判断し、以下のように述べて、この点に関しては被告であるAmdocsのサマリージャッジメントの申し立てを棄却しました。

 

 

Because there is more than one reasonable interpretation of the marking clause in the context of the contract as a whole, this issue is appropriate for resolution by the trier of fact.

 

なんと陪審員が判断することになっちゃうんですね!!“trier of fact”というのは、米国においては通常陪審員のことです。英国であれば陪審員制度は既に一部の例外を除き廃止されているので、通常は裁判官がMatter of Law(法律問題)もMatter of Fact(事実問題)も判断するのでしょうが、米国では、裁判官が事実審理を行うBench Trialという例外を除き、trier of factである陪審員がMatter of Factを判断することとなっています。陪審員の前で行ういわゆるトライアルは裁判手続きの中でも最後の最後に行われ、結果の予想がつきにくいこともあり、その直前までに和解することがほとんど、と言われています。

 

これは意外と見落としがちなポイントかと思います。

 

 

Confidentialである旨を明示・特定したものに限定するリスク

受領者側の立場と異なり、開示者側の場合、秘密情報の定義は非常に重要で、とても丁寧にドラフティングする必要があると思います。

 

秘密情報の定義に関する様々なポイントの中でも特にクロスボーダーNDAで注意したいのは、営業秘密を保護する法律との関係を踏まえたドラフティングです。

 

日本法のもとでは通常、NDAでカバーされていない情報であっても、不正競争防止法における営業秘密であれば同法のもとで保護される、ということになるかと思います。しかし例えば米国の場合、州にもよりますが、営業秘密の定義、または営業秘密の不正利用の定義からして、NDAでカバーされない情報は営業秘密ではない、または不正利用とはならない、と解釈されることがあります。その事例の1つが、Convolve, Inc. v. Compaq Computer Corp., 527 F. App’x 910 (Fed. Cir. 2013)です。この事例で米国連邦巡回控訴裁判所は、カリフォルニア州のTrade Secret Act(CUTSA)における営業秘密の不正利用(Misappropriation)の定義に触れて、こう述べています(下線は筆者による)。

 

 

Under CUTSA, misappropriation means, among other things, disclosure or use of a trade secret of another without express or implied consent by a person who, at the time of disclosure, knew or should have known that knowledge of the trade secret was acquired under circumstances giving rise to duty to maintain its secrecy. Cal. Civ. Code § 3426.1(b).

(中略)

Convolve disclosed its alleged trade secrets to Seagate pursuant to the provisions of the NDA. Therefore, the “circumstances” giving rise to a duty to maintain the secrecy of the disclosed information is dictated by the terms of the NDA. Convolve did not follow the procedures set forth in the NDA to protect the shared information, so no duty ever arose to maintain secrecy of that information. As such, Convolve’s argument must fail.

 

要するに営業秘密の「不正利用」の定義が、「営業秘密の取得者が当該営業秘密を知覚した際に、秘密保持義務が発生する状況においてそれを知覚したことを知っていたかまたは知るべきだった場合において、営業秘密の保持者の同意を得ずに当該情報を使用または開示すること」となっていることから、NDAで定める手順に従って情報を開示しなかった場合は、受領者側で秘密保持義務が発生する状況にはなかったのだから、不正利用にならない、と判断したわけです。

 

このような判断は米国以外でも生じ得ると思います。そのためクロスボーダーのNDAでは、営業秘密の定義の中に、”that should be reasonably regarded as confidential due to its nature of the information and circumstances of the disclosure”という表現が入ることが少なくないわけですね。特に米国においては、開示者の立場としては、開示する情報の性質等によってはこの記載は必須であり、これを削除する交渉は結構ナンセンスな場合が多いです。

 

意外と忘れがちなその他のポイント

以下の秘密情報の定義条項の例を踏まえて、前述の事項以外で忘れがちなポイントを考えてみます。

 

 

“Confidential Information” means all non-public proprietary or confidential information of Disclosing Party relating to Disclosing Party’s or its Affiliates finances, customer information, supplier information, products, specifications, services, organizational structure and internal practices, forecasts, sales and other financial results, records and budgets, and business, marketing, development, sales and other commercial strategies, disclosed by Disclosing Party or its Affiliate to Recipient or its Affiliate, in oral, visual, written, electronic, or other tangible or intangible form, that should be reasonably regarded as confidential information due to its nature of the information and circumstances of the disclosure.

 

まず、クロスボーダーNDAだけではなく日本語のNDAでも忘れがちなポイントかもしれないのが、契約締結日前に開示された情報も秘密情報の定義に含めるか否か、ということ。上記の例では一切その記載がないので、契約締結日前に開示した情報は”Confidential Information”に含まれない可能性が高くなります。

 

また意外と英文のNDAで記載がよく抜けているのが、目的事項(よくNDAでPurposeと定義されている)との関連です。目的事項に関連して開示された情報、という限定を入れないと、目的事項に関連せずに開示した情報の扱いが不明確になります。上記の例ではこの記載が抜けています。これが問題となることは稀かもしれませんが、抜けていると、いざ争いになった場合に結構面倒なことになる可能性があると思います。

 

それと契約当事者以外が開示した情報も定義として含めるべきか、ということ。当たり前なんですが、英文でドラフトする場合に上手くドラフトができていないことが多い気がします。上記のドラフティング例でいえば、関係会社から相手方当事者またはその関係会社に対して開示する情報も”Confidential Information”の定義に含めています。Affiliateだけではなく、取引先などの第三者から開示した情報を含めなくてはいけない場合もあるかもしれません。そういった可能性にも鑑みてdirectly or indirectlyといった表現でカバーする、ということもあるかと思います。

 

他にもたくさんありますね。例えば秘密情報からderiveした情報なども秘密情報の定義に入れる、と記載する場合もきちんとドラフティングしないと漏れが発生しえます。技術情報の自社内でのコンタミネーションを防ぎたい場合なんかも様々な書きぶりが考えられますネ。ただこれ以上はさすがに長いので、またの機会にしたく思います。

 

これで今回の投稿は終わりです。もっと自分も色々研究してみようと思います。

 

 

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

【筆者プロフィール】
Ceongsu(ジョンス)

企業法務歴14年目。2児の父。最近はめっきりアップデートできていない「日々、リーガルプラクティス。」という企業法務ブログの管理人。ベンチャー企業での法務、上場企業の電子部品メーカーでの海外法務を経て、現在は一部上場のヘルスケア企業でM&Aやマイノリティ投資を含めたクロスボーダー案件の法務を担当。前職時代にアメリカのロースクールのLL.M.をオンラインで受講し卒業。

一方、趣味ではソムリエ(ワインエキスパート)や国際的なソムリエ資格であるWSET Level 3の終了試験(英語)に合格。企業法務の仕事を担いつつ、自社の従業員向けのワイン講座の講師やワイン生産者セミナーの通訳も時々担っている。

 

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