ゼロから始める企業法務(第4回)/株主総会対応のスケジューリング

皆様、こんにちは!堀切です。

これから企業法務を目指す皆様、念願かなって企業法務として新たな一歩を踏み出す皆様が、法務パーソンとして上々のスタートダッシュを切るための「ノウハウ」と「ツール」をお伝えできればと思っています。今回は上場企業の株主総会についてお話いたします。

※非上場企業の場合は上場企業ほどやることが多くなく、株主が少なければ会社法319条、320条に基づくみなし決議も可能なので、今回は上場企業に限定してお話いたします。

 

上場企業の株主総会は会社の重要プロジェクト

皆様が上場企業の株主総会の主担当者に任命されたのであれば、とてもラッキーです。株主総会は、法的には株式会社にとって最高の意思決定機関であり、会社経営の根幹に関わる事項は、株主総会でなければ決議できません。また、様々な法定や実務上の手続きを期限内に行わなければ成立しない、会社として失敗の許されない会議体です。加えて経営陣にとっては、株主との対話を通じて、会社の経営成績や将来のビジョン・経営計画についてアピールできる貴重な機会です。さらに、上場企業の株主総会は、決算やIRのアクション・イベントと密接に関わってきますので、経理、経営企画、IRや総務の責任者との連携は欠かせません。この様な法的にも実務的にも重要なプロジェクトの主担当者となった皆様には、まさにプロジェクトマネジャーとしての役割が期待されます。責任は重大ですが、その分会社に大きな価値を提供することができます。皆様にとっても、ルーチンの法務業務にはない、多数のスタッフと膨大なタスクをマネジメントし、プロジェクトを成功に導く経験を得ることができます。会社によっては、法務は議案の作成や当日の事務局担当等、一部の業務しか担当できない場合もありますが、可能であれば積極的に、株主総会業務全体の設計と進捗管理に関わっていくことが、皆様のビジネスパーソンとしての価値の向上につながると思います。

 

株主総会の極意はスケジューリングにあり

株主総会を成功させるために最も大事なことは、「緻密なスケジューリング」にあります。言ってしまえば、スケジュールを上手く組めれば、株主総会業務は半分くらい成功に近づいているのです。具体的には、次の3つのスケジュールを作成すると良いと思います。

 

①行程管理表

前述のとおり、株主総会は会社の決算やIRにおける様々なアクション・イベントと密接に関わっていますので、株主総会の主担当者は、株主総会だけでなく、関係するイベントやアクション全体のスケジュールを把握・管理する必要があります。そのためには、行程管理表の作成が有効です。具体的には、縦軸に「招集通知作成」「管轄警察署への臨場要請」「決算取締役会対応」「決算短信作成」「証券代行対応」「印刷会社対応」「配当」「株主優待」「総会お土産」「当日流す映像と音声の作成」「総会シナリオ作成」「想定問答集作成」「総会リハーサル」「当日の株主案内」「受付」「会場の仕切」「有価証券報告書/臨時報告書作成」「変更登記対応」等の行程を記載し、横軸にキックオフMTGからゴールの株主総会当日~登記完了までの日付と曜日を記載します。そのうえで、各行程で発生する重要なアクション・イベント(例えば、招集通知であれば、「印刷会社の作成ツール利用開始」「印刷会社の法務研究部チェック開始/終了」「校閲チェック開始/終了」「レイアウトチェック開始/終了」「決算取締役会(議案確定)」「校了」「証券代行に納品」「証券代行から発送」等)を、発生日のセルに記載していきます。なお、横軸については、特に「休日」と「祭日」を正確にマークアップすると良いと思います。休日、祭日に決算取締役会や株主総会リハーサルを行うことは難しいですから。それから、株主総会当日を「N」として、株主総会まであと何日かが分かる様にしておくと、法定や実務上の期限を徒過することを防げると思います。作成した行程管理表は、弁護士、証券代行、印刷会社に法的、実務的な問題が無いかチェックしてもらったうえで、経理、経営企画、IR、総務の責任者や役員秘書と共有し、個別のスケジュールを微調整した確定版を作成します。確定した行程管理表は、週次で開催する進捗MTGのなかで使用し、各責任者・担当者と進捗状況を確認します。この様にして、株主総会と関係するイベントやアクション全体の進捗を常に把握し、管理していきます。

 

②ガントチャート

株主総会業務では、各タスクと担当者を正確に把握・管理する必要があります。これは行程管理表に書き込めないので、別途ガントチャートを作成することで補完します。具体的には、縦軸に「大項目」「中項目」「小項目」「担当者」「スタート予定日」「エンド予定日」を記載し、最後に日付を記載していきます。縦軸には、縦軸の「大項目」「中項目」「小項目」に沿って各タスクをブレイクダウンしていきます。例えば、招集通知の作成であれば「事業報告」「株主総会参考書類」を大項目、「企業集団の状況」「会社の現況」~等を中項目、「当事業年度の事業の状況」「対処すべき課題」「株式の状況」「新株予約権等の状況」「第●号議案」~等を小項目に記載し、それぞれの「担当者」「スタート予定日」「エンド予定日」を記載していきます(私の経験では、大体260項目位の小項目を定めました。)。こうすることで、各タスクを「誰が」「いつまでに」やるかが明確になります。このガントチャートも週次の進捗MTGで使用し、各タスクの進捗状況を確認していきます。

 

③当日タイムスケジュール

株主総会当日においては、各役員やスタッフが「いつ」「誰が」「どこで」「どの様に動くか」を把握し、共有する必要がありますので、株主総会当日のタイムスケジュールを作成します。具体的には、縦軸に「時刻」「対応項目」「対応場所」「対応者」等を定め、縦軸に分単位で「時刻」を記載していきます。例えば、●時●分「資料運搬」、●時●分「会場設営」、●時●分「受付準備」、●時●分「開場」、●時●分「役員誘導」、●時●分「役員着席」、●時●分「株主総会開始」~等、対応項目を定め、それぞれ対応場所と対応者を記載します(私の経験では、大体80項目位の対応項目を定めました。)。作成したタイムスケジュールは、総会スタッフとのキックオフMTGの場でβ版を発表し、各責任者・担当者からあがった意見を調整のうえ、α版を作成します。さらに、株主総会リハーサルではスケジュールどおり全体が機能するか確認し、調整のうえ、当日のスタートMTGの際に、確定版を総会スタッフ全員に配布します。各役員へは、役員控室と会場の役員席の席上に、招集通知と共にスケジュールを用意します。こうすることで、各役員やスタッフがいつでも各自のタイムスケジュールを確認できる様にします。

 

いかがでしたでしょうか。皆様がこれから取り組む業務に少しでもお役に立てるヒントがあれば幸いです。次回は、上場企業の株主総会業務で重要な、各専門家や社内のキーパーソンとの連携方法について、記事にできればと思います。

 

 

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

 

【筆者プロフィール】
堀切一成

私立市川中学校・高等学校、専修大学法学部法律学科卒業。
通信機器・材料の専門商社で営業に 7 年間従事した後、渉外司法書士事務所勤務を経て法務パーソンに転身。
JASDAQ 上場 IT ベンチャーでの法務マネジャー、東証一部上場インターネット広告会社での法務マネジャー・経営企画、スマホゲーム開発会社での法務マネジャーに従事した後、現在は MaaS サービス提供ベンチャー初の法務専任者として日々起こる法務マターに取り組んでいます。

 

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