Q&Aで学ぶ英文契約の基礎(2)- 英文契約書の形式・スタイル等①

この「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」第2回では、英文契約書の形式・スタイル等を解説します。

 

Q1:英文契約はどのような構成になっていますか?

A1:一般的には次のような構成になっています。

 

【英文契約の基本構成】

① タイトル(契約書名)

② 頭書(タイトルの直後の部分で当事者等を表示)

③ 前文(Recital:主にその契約に至った事実関係や動機を記載)

④ 本文(定義・具体的条項・一般条項)

⑤ 契約書末尾(末尾文言・署名欄)

⑥ 別紙(但し、契約書本文で引用されている場合)

 

 

Q2: 英文契約のタイトルに国内の契約書と異なる点はありますか?

A2: 基本的に変わりはありません。

ただ、国内の契約と同様、単に”Agreement”としただけでは何の契約か分からないので、例えば、”Sales Agreement,” “Software License Agreement”等とし、更に契約書の管理上必要であれば、適宜、契約番号を付ける等すればよいでしょう。

 

 

Q3:英文契約の頭書には、どのようなことを書きますか?

A3: 一般的には次の事項を記載します。

【英文契約の頭書の基本的記載事項】

① 両当事者の正式名称

② 両当事者の設立準拠法

③ 両当事者の主たる事業所の住所

④ その契約の発効日(Effective Date)

 

【頭書の例】

 

TECHNOLOGY LICENSE AGREEMENT

This Technology License Agreement (this “Agreement”) is made and entered into as of [  ④  ] (the “Effective Date”) by [  ①  ], a corporation duly organized and existing under the laws of [ ②  ], having its principal place of business at  [  ③  ] (“Licensor”) and [  ①  ], a corporation duly organized and existing under the laws of [ ②  ], having its principal place of business at [  ③  ] (“Licensee”).

技術ライセンス契約

本技術ライセンス契約(「本契約」)は、[ ②  ]の法律に基づき設立され存在し [  ③  ]に主たる事業所を有する [  ①  ](「ライセンサー」)と、[ ②  ]の法律に基づき設立され存在し [  ③  ]に主たる事業所を有する [  ①  ](「ライセンシー」)との間において[  ④  ](「発効日」)付けで締結された。

 

①の両当事者の正式名称については、相手方の会社名が “ABC Ltd.”や、”XYZ Inc.” 等となっている場合があります。元々、”Ltd.”は”Limited”の、”Inc.”は”Incorporated”の略(いずれも〇〇会社の意)ですが、”Ltd.”や”Inc.”がその会社の正式名(登録されている会社名)である場合があるので、勝手に判断して書き換えずに相手方に確認する必要があります。

 

②の設立準拠法は、米国の場合、例えば、”Delaware, U.S.A.”のように国名だけでなく州名も記載します。ちなみに米国では州ごとに会社法がありますが、多くの企業が、その実際の事業の中心地とは関係なくDelaware州法に基づき設立されています[1]

 

②の設立準拠法や③の主たる事業所の住所を記載するのは、第1に間違いなく当事者を特定するためです。国内の取引先と比べれば海外の取引先の特定は必ずしも容易とは言えない場合がありますから重要です。また、国により、また、米国であれば州により会社法が異なりますから、設立準拠法により、どのような者が契約の締結(署名)権限があるのか等に関係します。

 

④の「発効日」(契約の効力発生日)ですが、このように頭書で記載することが一般的です。しかし、例えば、その契約について政府の承認が必要な場合等は、発効日をその承認日以降とするための規定を本文中に置くこともあります。

 

(this “Agreement”),  (the “Effective Date”),  (“Licensor”) , (“Licensee”)等】 (   )の中は、(hereinafter referred to as  the “~”)または(hereinafter called the “~”)と表現することもあります。  表現に差はありますが、全て「(以下「~」という)」という意味です。同じ契約書の中では一貫して同じ表現にすればどの表現でも構いません。

 

 

Q4:下のように、”WITNESSETH”という言葉の入った頭書をみたことがあります。上の頭書との違いは何ですか?

A4: 下の例では、上の例と比べ、太字になっている部分が違います。

上の例では、”This Technology~”で始まり、”~ (“Licensee”).”で一つの文が終わっています。

 

これに対し、下の例では、”This Technology~”から”~ (“Licensee”)”までが主語で、”WITNESSETH”(以下を証する:witnessの古い形)が述語です。

下の例は、「〇〇(ライセンサー)と××(ライセンシー)との間においてXX年XX月XX日付けで締結された本技術ライセンス契約は以下を証する」というような意味で、”WITNESSETH”の下から次回解説する契約末尾の”IN WITNESS WHEREOF”の手前までが”WITNESSETH(以下を証する)”の目的語です。

下の例は、少々格式ばった古い形式という感じがしますが、もし、契約の相手方が下のような形式の契約書案を提示してきたらあえて反対する必要はありません。

 

TECHNOLOGY LICENSE AGREEMENT

This Technology License Agreement (this “Agreement”), made and entered into as of [  ④  ] (the “Effective Date”) by [  ①  ], a corporation duly organized and existing under the laws of [ ②  ], having its principal offices at  [  ③  ] (“Licensor”) and [  ①  ], a corporation duly organized and existing under the laws of [ ②  ], having its principal offices at [  ③  ] (“Licensee”),

WITNESSETH:

 

 

Q5:英文契約の前文にはどのようなことを書きますか?

A5: 一般的には、次の例のように、契約締結に至った事実関係や動機を記載します。

 

 

WHEREAS, Licensor owns certain patents and other intellectual property rights relating to [     ];

and

WHEREAS, Licensee desires to acquire from Licensor licenses under said patens and intellectual property rights pursuant to the terms of this Agreement.

NOW THEREFORE, in consideration of the mutual promises contained herein, the parties to this Agreement (collectively the “Parties” and respectively the “Party”) agree as follows:

ライセンサーは、[     ]に関する特許その他知的財産権を有している。

また、

ライセンシーは、本契約に従い、当該特許および知的財産権に基づく利用権を得ることを希望している。

そこで、本契約に定める相互の約束を約因として、本契約の当事者(総称して「両当事者」と、それぞれを「当事者」という)は、次の通り合意する。

 

 

前文は、一般に”Recital”と呼ばれ、”RECITAL:”のような標題がついていることもあります。

 

上の例は、契約締結に至った事実関係や動機がごく簡単に記載されていますが、”WHEREAS”がいくつも並んでより詳しく契約の経緯や背景を記載している例もあります。

 

【”WHEREAS”】 契約書の中では「~であるので」というような意味ですが、あえて訳さなくても構いません。この”WHEREAS”から、英文契約書の前文を”Whereas Clauses”とも呼びます。

 

【”NOW THEREFORE”】 「そこで」、「従って」というような意味ですが、”WHEREAS ~” を受け、その結果次の通り合意した、と締めくくるための言葉です。

 

【”in consideration of ~”】 一般に「~を約因として」と訳します。「約因」(consideration)の意味については後に解説します。

 

【”the parties to this Agreement (collectively the “Parties” and respectively the “Party”)”】 意味は訳文の通りですが、一般的に、前文において、複数形で頭文字が大文字の“Parties” (「両当事者」)と、単数形で頭文字が大文字の“Party”(「(各)当事者」)を定義します。後で定義(Definitions)条項のところでも解説しますが、英文契約書では、一般的に、定義された用語の頭文字を大文字にして使います。

なお、「本契約の当事者」を英語で表現する場合、”the party to this Agreement”と表現します。”the party of this Agreement”は誤りなのかどうかは分かりませんが、筆者の知る限り英語が母国語のlawyer が作成した契約書には”to”が使われてます。筆者を含め日本人にとり前置詞の使い方は悩むところですが、契約書の中で使われる前置詞でこのように悩むものはそれほど多いわけでもないので慣れていくしかありません(あるいは英語の文法書にはキチンとした説明があるのかもしれません)。

 

 

「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」第2回はここまでです。次回は今回に続き、英文契約書の形式・スタイル等を解説します。

 

 

[1] 【会社設立地としてのDelaware州】 「デラウェア州での会社設立手続き:米国」JETRO  https://www.jetro.go.jp/world/qa/04J-010008.html

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

(*) この「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」シリーズでは、読者の皆さんの疑問・質問等も反映しながら解説して行こうと考えています。もし、そのような疑問・質問がありましたら、以下のメールアドレスまでお寄せ下さい。全て反映することを保証することはできませんが、筆者の知識と能力の範囲内で可能な限り反映しようと思います。

review「AT」theunilaw.com(「AT」の部分をアットマークに置き換えてください。)

 

 

【筆者プロフィール】
浅井 敏雄 (あさい としお)
企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表

1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで複数の日本企業および外資系企業で法務・知的財産部門の責任者またはスタッフとして企業法務に従事。1998年弁理士試験合格。2003年Temple University Law School (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事、国際取引法学会会員、IAPP (International Association of Privacy Professionals) 会員。

【発表論文・書籍一覧】
https://sites.google.com/theunilaw.com/unilaw/about-unilaw?authuser=0

 

 

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