『机上で論ずる企業法務』:第6回 法務の三大業務③~権利行使の管理~

先人のやり方の踏襲・模倣・集積により帰納的に語られがちな『法務』。それゆえに、『法務』という概念は、多くの法務担当者の中で、どこか場当たり的で統一性がなく、全体像の見えない混沌とした概念になってしまっています。
本コラムでは、この『法務』の概念をシンプルに再定義した上で、新たなカテゴライズを施しながら個別の法務業務をマッピングし、“先例”ではなく“ロジック”による裏付けを元にした「法務の理想形」を追求していきます。

【過去記事】
・第1回 法務の理想形を語ろう
・第2回 「法務」を再定義する
・第3回 法務業務を分類する
・第4回 法務の三大業務①~権利義務の取捨選択~
・第5回 法務の三大業務②~義務履行の管理~

法務担当者による「権利行使の管理」

前回のコラムでは、法務業務における3つの分類のうち、(2) 義務履行の管理についてお話しました。今回は、(3) 権利行使の管理について考えて行こうと思います。

 

まずはじめに、「権利行使の管理」の目指すべきところはどこでしょうか。どのように権利を扱えば、最も会社に利益をもたらせるかという観点から逆算して考えますと、結論として、

会社の持つ権利が行使されるべきときにしっかりと行使されること」という目的に行き着きます。

 

そして、現実の権利行使までの過程に照らしますと、権利行使の有無の適切な管理のためには、

➊会社が有している権利を“把握”する

➋会社が有している権利を“理解”する

➌権利行使の要件を満たしたことを逃さず認識する

➍権利行使の有無を判断する

➎権利を行使し目的を実現する

 

これら5つが適切に行われていなければなりません。

 

 

1.会社が保有している権利を“把握”する

基本的にやるべきことは、義務履行の管理のときと変わらないかと思います。締結済の契約、作成済の社内規程、会社の有する地位、許認可等から、会社がどのような契約上・法令上の権利を有しているのかを把握する必要があります。

また、権利を“把握”する過程で、「不足している権利」や「内容を見直すべき権利」が見つかった場合には、当該権利の取得又は内容変更に向けて、契約の新規締結、期間延長・契約更新等を検討しなければなりません。

 

2.会社が保有している権利を“理解”する

権利を把握した後は、いわゆる条文解釈を行いながら、誰に対し/どのような条件で/何を行う権利を/いつまで有しているかといった点について、その射程を理解しなければなりません。

 

3.権利行使の要件を満たしたことを逃さず認識する

会社が有している権利を“把握”し“理解”した後は、その行使が可能となるタイミングをしっかりとキャッチする必要があります。

一般的に、権利には、行使にあたっての要件が付されていることが多く、一定条件が揃ったときに限り権利行使が可能となるケースが多いと思います。そのため、会社が有している権利を行使するための要件が満たされたときに、それを逃さずに認識する体制を作ることが重要となって来ます。

この点、通常の取引に関連した権利(ライセンス、代金請求権、商品引渡請求権etc.)については、その行使自体がビジネスをかたち作るものと言えるため、事業部からの関心が高く、事業部自身が権利行使が可能となるタイミングをしっかりと認識していることが多いと思います。

一方で、有事が起こったとき(商品が期日までに届かない、期待した品質が保たれていないetc.)に自社としてどのような権利を行使出来るのかという点については、事業部が十分に把握・理解していないことが多く、それゆえ、権利行使の要件を満たしたことを事業部が認識していないケースも増えて来ます。

そのため、「有事の際に、どういう条件で何を請求する権利があるのか」を事業部の担当者にも共有しつつ、有事が発生したときに事業部から法務担当者に相談が集まって来る仕組みも、併せて作る必要があります。

事業部から来る「取引先とのトラブルに関する法律相談」は、会社が保有する権利の要件充足のタイミングをキャッチするという意味合いも有していると言えます。

 

4.権利行使の有無を判断する

権利行使のための要件が満たされ、そのことを認識した後は、いよいよ、権利を行使するか否かの判断を行わなければなりません。そして、その判断にあたっては、当該権利を行使することのメリットとデメリットを天秤にかける必要があります。

そのために、法務担当者としては、社内における当該権利の価値を“評価”し、権利を行使したときの影響力を精査しなければなりません。

その際、権利取得時(≒契約締結時)と、社内状況・取引状況・外部環境等が大きく変わっていることも少なくありませんので、それらの点も踏まえて、総合的に判断することが重要となって来ます。

 

5.権利を行使し目的を実現する

権利を行使することが決定した後は、相手方に対して、現実に権利を行使するためのアクションを起こさなければなりません。権利行使のために、社内外の誰がどのようなアクションをとると、スムーズに目的を実現できるのか。事業部の担当者による口頭での伝達なのか、法務担当者からの書面の送付なのか、顧問弁護士による内容証明通知なのか、はたまた裁判所からの訴状送付なのか等を、社内状況・取引状況・外部環境等に照らして見極めた上でアクションを起こす必要がありそうです。

 

終わりに

ここまで、(3) 権利行使の管理についてお話をして来ました。義務履行の管理のときと同様、権利行使の管理に必要なスキルを整理してみた結果が以下になります。

法令、契約書、社内規程等から権利を把握する力

(法律知識、法的文書読解力)

把握した権利の射程を理解する力

(条文解釈力、法律情報リサーチ力)

法的素養のない社員に会社が負う権利を認識させ理解させる力

(法的事項を教える力)

有事の際に事業部からの法律相談が集まって来る人物面

(信頼でき相談しやすい人物面)

変化した各種状況を踏まえて権利行使の価値を評価する力

(コミュニケーション力、ビジネス理解力)

権利を実現するための適切な手段を選択する力

(交渉力、ビジネス理解力)

 

次回以降は、これまでのお話を元に、企業における個別の法務業務について掘り下げて行こうと思います。

 

 

 

==========

本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

【筆者プロフィール】
齊藤 源久

大型WEBメディアを運営するIT企業にて法務責任者、事業統括マネージャーを担当した後、行政書士事務所を開設。ビジネス法務顧問として、数十社のベンチャー企業の契約法務や新規事業周りの法務相談を担う。2014年より、企業の法務部門に特化した総合コンサルティング(組織構築・採用・IT導入)会社、株式会社More-Selectionsの専務取締役に就任。法務担当者向けの研修の開発・実施、WEBメディアの編集、企業の法務部への転職エージェント業務、リーガルテック関連の新規事業策定などを担当している。これまで、入社前後の新人法務担当者のべ150名超にマンツーマンで研修を施した経験があり、感覚的・直感的に行われがちな法務業務を言語化・体系化し教えることに強い関心を有している。

 

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