法務の鉄人(13)『コンプライアンスとは何か?』

今回は、コンプライアンスとは何かをビジネスや会社のスタンスから考えてみたい。

一般的に、コンプライアンスとは何か?というと、法令で定められていることを守ること、または、法令で定められていることに加えて、倫理や社会的な要請に応えること、などと説明されることが多い。

ただ、各会社の事業と結びつけて考えたときに重要となるのは、各会社のコンプライアンスとの関係性、スタンスである。

ところで、法曹を目指して高い志を持っていた者が、企業で働くことになった場合、企業のコンプライアンスの取り扱いにショックを受けることは少なくないと思う。例をあげて考えてみよう。

コンプライアンスを一本の真っ直ぐな橋に例えよう。橋からはみ出したら、それは違法だ。そしてこの橋には一定の幅員がある。高い理想を持っている人は、コンプライアンスと言ったら、その中心、ど真ん中が「コンプライアンス」だと思っている。
その理解は、コンプライアンスとしては正しく、同時にビジネスとしては必ずしも正しくはない。

つまり、コンプライアンスの理想形としては、まさしく正しい。コンプライアンスは、常に高みを目指し続けないと、崩れていくからだ。
他方で、全てにおいてど真ん中のコンプライアンスを出来ている会社は、日本の全ての会社のごくごく僅かだと思う。橋の例で言えば、真ん中から端に寄っているというのはまだ問題ない方で、辛うじて橋の上に引っ掛かっているというケースでも「コンプライアンスを守っている」と言っているケースも少なくないと思う。

 

会社・業界によりコンプライアンスに対するスタンスは異なる

一般的に、製造業や医薬関連企業、特にそれが外資系の場合は、製品の品質に関するコンプライアンスに対して非常に厳しいスタンスをとると言われる。

これは、製品そのものの品質が会社そのものの信頼やレピュテーションに大きく関係するからだ。勿論、賠償額等も高額にはなるのだが。身体に悪影響を与える薬、安全性に問題を抱えた自動車、禁止物質の入った洗剤など、一度問題が起きれば会社の存亡に関わるほどの大スキャンダルになりかねない。それはそうだろう、自分自身が消費者だとしたらそのような問題を起こした会社から商品をまた買おうと思うだろうか。
(最近では、著名な製造メーカーがその品質や安全性を偽装する事件も増えてきてはいるが)

他方で、品質をあげることは簡単ではない。念入りにチェックを行えば、従業員の工数が増え、残業時間増に繋がりやすい。
コストはかかるが、他社との競争には勝たねばならない。だから、こうした業界では、労働法系のリスクが起こりやすくなる。

サービス業の場合は、言うまでもなく労働法系のリスクが高いが、各種業法にも注意したい。あれもこれもとサービス範囲が広がり、法律上制約がある事柄にまで踏み込んでしまう可能性があるからだ。イメージとしては、士業の非弁活動問題が分かりやすいかもしれない。

政府と取引のあるような業種ならば、贈収賄が一番のポイントになるだろう。お金でなくても、何か価値のあるもので便宜をはかってもらっていないか。

それでは、ITだとか、イノベーティブな業界はどうだろうか。
こうした会社は、会社として「グレーな部分を攻める」というカルチャーがそもそもあり、どこまでならばグレーな部分を攻められるか許されるのかという一種の限界を示すのがコンプライアンスとなる。更に、以前お話したように、その業界に精通していない法務やコンプライアンス担当者が進めていることが多いのもリスクかもしれない。
(もっと言えば、『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』スコット・ギャロウェイ 東洋経済新報社は、GAFAは、『法を無視できる』と述べ、更にUberを例にあげている)

だからまずは、会社によって、あるいは業界によって、コンプライアンスに対するスタンスが違うのだということをご認識いただきたい。この違いは、コンプライアンスに関する問題が発生して対応する場面や、他の業界に転職をするときに、非常に重要となる。
その業界、その会社が、どのようなスタンスの会社なのか。そして、あるべき理想形のコンプライアンスとはどれだけ離れているのか。業界や組織の常識に染まりすぎないようにするのも大切である。

 

業績のいい会社ではコンプライアンス担当部署の負担は高まる傾向に

ただし、今日において業績のいい会社のかなりの数は、最後の類型に属していると思われる。嫌な言い方をすれば、真っ白な会社は少ない。

しかし、業績をあげ、上場し、確固たる地位を築いていくと、株主が会社に「コンプライアンス(体制)」を求めるようになる。海外の機関投資家が入ってくると尚更だ。こうなってくると会社もきわどいグレーな部分を責めているばかりというのは苦しい。株主からの要求に応える意味でも、コンプライアンス体制を築いていくようになる。業界のトップランナーになるほど、業法や消費者法に違反している場合には、摘発の可能性が高まることも忘れてはならない。

ただし、そうした中でも企業は事業もストップするわけではなく、更に多角化したり、海外に展開していくことが多いのではないか。
つまり、コンプライアンス担当部署の負担は飛躍的に増していくのである。上記の例でいえば、更に、別の業界や、今まで考えてこなかった国や地域のコンプライアンスにも対処する必要が出てくるわけである。

これを『喜ばしいこと』とどうか捉えてほしい。会社が、本来の形で事業を行い、または拡大していく中で、コンプライアンス担当部門の存在感が大きくなるということであるからだ。存在感が大きくなれば、会社としてもコンプライアンス的な課題の優先順位があがる。優先順位があがれば、社内でのコンプライアンス体制の構築や、教育、モニタリングなども非常に行いやすくなる。
コンプライアンスは会社の、特にトップのスタンスがその会社のコンプライアンスのあり方に色濃く現れる。コンプライアンス部門だけがこうあるべきだ!と訴えるよりも、会社のトップの声にのせて全社的に改善を図る方が効果的であるのは言うまでもない。また、上述した反贈収賄体制においては、会社のトップが『贈収賄はしてはいけない』というメッセージを明確に出すことが、当局が示すあるべき会社の仕組みとして求められている。

 

理想を追いながら「どう会社を動かすか」を考える

法律を大学や大学院、司法試験の勉強などで勉強してきたり、契約法務をやっていると、どうしても、法の趣旨が頭の中で大きなウェイトを占めるようになってくる。それはそれで非常に重要なことではあるのだが、理想を掲げているだけでは、会社においてその理想は実現されない。なぜなら、会社ではどうしてもコンプライアンスが規制とか制約というイメージを持たれ、ビジネスを行う上での足枷と考えられ、お金、儲けを生まないと考えられてしまうから(私たちは必ずしもそうではないと思ったとしても)。

会社として、コンプライアンスの体制を作り上げていくには、どうやって会社を動かしていくかが重要である。
つまり、会社の現状がどうなっており、かつ、会社がこれから進んでいきたいビジネスに関する状況がどうなっているかということを理解した上でどうあるべきかを考え、会社のなかで誰を巻き込み、どれくらいの時間、予算をかけて、どのように改善していくのか、あるいは、どの役員や執行役員にサポートしてもらい進めていくのか、その『絵』を描く必要がある。
こうしたプロジェクトの立案や運営は、ロボットやAIではできない、人間ならではのものである。私は、これからの法務やコンプライアンスではこうしたスキルが最重要で、これをできなければ価値が落ちていくと考えている。

これに必要なものは、まずは広い視野である。更には、事業を理解していること。そして、企画・立案ができ、スケジュールを引けること。自分で全てを抱え込むのではなく、必要なタスクを洗い出したうえで、そのタスクを行えそうな人にお願いできること。チームとプロジェクトをマネジメントできること。そして上司や上位のレイヤー、役員にプレゼンでき、理解してもらえること。
こうしたスキルは、場数を踏まないと伸びない。経験の要素が非常に大きい。ある意味で社内の政治力も必要だし、タイミングを見る観察力も必要である。人望も必要だろう。

コンプライアンスを守らなければならないことは、みんな知っている。わかっている。大切なのは、コンプライアンスを守る体制を社内でどうやって作り上げ、機能させられるかだ。契約条項を足すだけでは何も変わらないし、機能しない体制を作っても何の意味もない。また、コンプライアンスと一口に言っても、様々なものがあるが、何でも一度に体制を構築するのは難しい。世の中でトピックなのは何か、業界で、自社でリスクが高いのは何か。リスクベースアプローチで、リスクが高いところから順に進めていくしかないだろう。

そして、一番重要なのは、自社の現状の体制を「あたりまえ」とは思わないこと。世の中の状況、トレンドを知りつつ、今のずれ、今の問題点をモニタリングなどで明確にしつつ、高めていくことが大事である。

最後に少し余談をしておきたい。
私たちの頑張りに関わらず、コンプライアンス部門というものは、会社からすれば、利益を生まない、若干「何をやっているのかよく分からない」部門である。目に見える成果がなく、何をやっているのかわからないとなると、プレゼンスは次第に失われ、新たなこともやりにくくなっていく。
部門としてそのようであるということは、ビジネスパーソンのキャリアとしても同じである。

しかし、世の中的にコンプライアンスの仕事、トピックがないという状況にはない。むしろ、山積みである。だからこそ、世の中では、日々様々なコンプライアンスに関するインシデントが起きている。昨今は特に、通信や決済手段に関するものが多い。あなたの会社は大丈夫だろうか。同じことが起きた場合には、速やかに対応できる仕組みが整っているだろうか。

是非、ご自身の会社に照らして考えてみてほしい。
少しずつ、常に理想形を目指して動いていくことが重要である。

 

 

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

 

【筆者プロフィール】

Harbinger(ハービンジャー)

法学部、法科大学院卒。
司法試験引退後、株式会社More-Selectionsでインターンを経験。

その後、稀に見る超ブラック企業での1人法務を経て、スタートアップ準備(出資集め、許認可等、会社法手続き、事業計画等)を経験。転職した後、東証一部上場企業の法務部で、クロスボーダーM&Aを50社ほどを担う。また、グローバルコンプライアンス体制の構築に従事。

現職はIT企業のコンプライアンス担当。大学において、ビジネス法の講師も行う。

 

 

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