女性にとっての企業法務というキャリア①

私が受け持つ大学の講義では、家族や社会の在り方がここ数年で大きく変化し、自分たちの親世代と同じようなライフスタイルを送る可能性は低くなっている、という話をすることがあります。働き方一つをとっても、大学卒業後に就職した企業に一生勤めるということ、またずっと正規雇用の立場でいることも、容易なことではなくなりつつあります。この記事を読まれている方の中には、大学卒業後、法科大学院修了後にしばらく試験勉強をしていたという理由で、社会人経験がない/少ない、経験があっても非正規しかないなど、新卒後、就職するというライフコースを通られていない方もおられるでしょう。この場合、すでに大学を卒業してから数年が経過しており、年齢は20代後半~30代となっている方も少なくありません。この年代は結婚、出産を経験する方も多く、特に女性の場合はこれらのライフイベントによってキャリアを中断せざるを得ない可能性もあるため、これまで得た知識を活かしてキャリアをスタートさせたいが、どうしたらいいのか、悩まれる方も少なくありません。

 

ここではある女性(Aさん・30代後半)の例をもとに、女性にとっての法務というキャリアの選択肢について、考えたいと思います。

 

Aさんは都内の大学の法学部を卒業後、法科大学院に入学し、修了後に弁護士となり、都内の法律事務所で一般民事を担当していました。30代に入り結婚し、ほどなく妊娠しました。しかし業務量は多く、残業が深夜まで及ぶこともあり、産休に入ることもなかなかできず、忙しい日々を送りながら、子どもを出産しました。育休後、職場復帰しようと考えましたが、子どもの送迎を考えると17時に退社できるということが絶対条件でした。前職の上司と話しましたが折り合いがつかなかったため、17時に退社できるという条件で転職活動をし、ある企業の法務部で働くことになりました。法律事務所での業務はかねてから希望していたものであり、やりがいはあったが、子育てとの両立は難しかったと言います。これまでAさんは企業法務に携わることは考えたことがなかったということですが、17時に退社できること、子どもの急病の際にも比較的休みを取りやすいこと、福利厚生が充実していること等が子育てとキャリアの両立を可能にしていると言います。

 

もちろんこれはあくまでも一個人の体験談であり、法律事務所勤務と子育てを両立されている方もおられますし、企業の就労条件も様々です。ただAさんのように、これまで想定していなかった企業法務に携わったことで、自身のライフイベントとキャリアのどちらも諦めずに済んだ例もあります。正規雇用で働く女性の約7割が出産を機に離職すると言われていますが、そのままキャリアが中断してしまう方、また再就職しても元の職場には戻れず、やむなく非正規職を選択される方も少なくありません。企業という組織の制度やスケールメリット、また法務という職種の専門性が高いことから、結婚、出産、子育て、介護といった様々なライフイベントに直面しても、キャリア継続を可能にする面もあると思われます。

もし皆さんがこれからのキャリアを考える上で、今後のライフイベントとの両立も含め検討したい、ということであれば、企業法務も一つの選択肢として考えてみてはいかがでしょうか。

 

 
 

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

【筆者プロフィール】
鈴木 亜矢子

ドイツ、カナダに滞在後、中央大学法学部を卒業、学習院大学法科大学院を修了し、法律事務所にてパラリーガルとして勤務。離婚やDVなど、女性に関わる法律問題に携わった経験から、お茶の水女子大学大学院博士後期課程にてジェンダー法を学ぶ。在学中、Asian Institute of Technologyに留学。現在は製薬業界で法務を担当する傍ら、都内の大学にてジェンダー法、法教育等の講義を行っている。

 

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