法学部卒、ロースクール修了生の強み

この記事を読まれている方の中には、法学部卒業生、ロースクールを修了生の採用をお考えの方もいらっしゃると思います。

私も法学部卒、ロースクール修了生ですが、その後別の大学院に進み、3,4年ほど前から、都内の様々な大学で講師として教壇に立ってきました。法学部のみならず、その他文系の学部、留学生等、様々な学生に講義を行ってきた経験から、ここでは主に法学部生の「強み」について述べたいと思います。

 

➊文章作成能力が高い

➋論理的思考力に優れる

➌自らの意見を説得的に主張できる

 

もちろん、他にも挙げられると思うのですが、特筆すべきは上記3点です。

 

➊文章作成能力が高い

日本語で文章を書くことは、母国語であれば容易いと考えがちですが、文章として意味が通じて、論理的に矛盾がなく、かつ自己の主張も明確に他人に理解してもらえる文章を簡潔に書ける学生は多くなく、このような文章を書くためには、実は相当の訓練が必要なのです。

大学にもよりますが、法学部では試験が論述式であることも多く、他学部に比べて、制限時間内に論理的、かつ長い文章を書くという機会が多いように感じます。また、条文、基本書、判例など、大量の文章を読む機会も多くあり、これらが文章を書くための素地を養っているとも考えられます。

このように文章を「読む」「書く」機会の多さが、他人が読んで「わかる」文章を書くためのベースとなり、同じテーマ、同じ制限時間内でレポートを書かせても、質の違うものが生み出されるのではないかと考えています。

 

法務だけに限りませんが、社会に出ると実に多くの文書を作成することになります。企画書、意見書、契約書、プレゼン資料、メール…これらはすべてその方の文章力によって、その企画が通るかどうか、契約書として成立するかどうか、相手の心を動かせるかどうか、必要なことが伝わり、業務を円滑に遂行できるかどうか…が、決定されてしまうのです。

どんなにいいアイデアがあっても、意見があっても、そしてそれがその部署や組織にとって重要かつ必要なものであったとしても、文章で伝わらなければ、物事を動かすことはできません。口頭で伝える機会を得る前に、まず文書で判断される機会が多いためです。法学部やロースクールで勉強されてきた方々は、個人差はあれ、それ相当の訓練を受けられていますので、高度な文章作成能力を身に着けられているものと思います。

この点は私自身、学生を教えることを通じて気づいた点であり、ビジネスで求められる能力は数あれど、身に着けていれば、あらゆる業務の遂行上、かなり有利であるということができると思います。

 

 

➋論理的思考力に優れる

法学部生など、法律を勉強している学生と話していると、論理的に物事を考える、いわゆるロジカル・シンキングが身についているように感じます。これは文章作成能力が高いことの前提条件ともなるのですが、人に自分の意見や考えを主張する際にも、論理的に説明することができれば、ただ「自分は○○と思う」と述べるより、端的にわかりやすく、かつ説得的に論じることができます。定期試験や司法試験の論述式試験では、制限時間内に手書きで回答を書くわけですが、答案を書く前に論文構成を考えるのに多くの時間を割いたという方もいらっしゃるのではないでしょうか。この論文構成を考える際に、力を発揮するのが論理的思考力です。限られた時間、紙面、労力で、起承転結を考え、それぞれに論理的な飛躍がないよう、綿密に構成を考えるわけです。

 

こうした訓練を積んだ皆さんは、論理的思考に慣れていらっしゃるため、ごく当然にできるという方が多いのですが、こうした思考力も一朝一夕に身につくものではありません。法学部以外の学生でも、卒論を書くことが卒業要件となっている学部ですと、論文構成を考えることがあるのですが、卒論はある程度ボリュームのある論文ですので、論文構成に数か月をかけることもあります。もちろんこのような場合でも、論理的思考力は養われるのですが、短時間に論文構成を考え、それを書き上げるといった訓練を何度も繰り返し行うという訓練の方が、論理的思考力を鍛え上げるためにはより効果的であると思われます。

 

 

➌自らの意見を説得的に主張できる

論理的思考力があると、ある問題が生じたときに、それを正確に捉え、分析し、反対説も考慮しながら自説を展開するという、一連の問題解決の道筋ができ、それを文章に落とし込み、口頭で説明するということにスムーズつながっていきます。文章化したり、口頭で説明することは、他者への説明の際に必要なことですが、これらが的を射ず、増長であったり、論理的に飛躍があったりすると、それだけ自分の意見を正しく理解してもらえる可能性が低くなってしまいます。限られた時間内でより正確に自分の意見を理解してもらうためには、まずもってこの論理的思考力が高いことが求められ、この思考力を養うためには相当の訓練が必要ですが、法律を勉強してきた皆様には、こうした能力がすでに備わっているものと思います。

 

私自身、職場内で説明をする際、クライアントに説明する際、契約書レビューをする際、大学で講義する際、いかに自分の考えを正確に伝えるか、伝わるようにするにはどうしたらいいのか、日々試行錯誤していますが、これまで養ってきた論理的思考力が少なからず役立っているように思います。

 

ビジネスパーソンに求められる能力やスキルは多々ありますが、特に法務において必要なこれらの能力を、学生のうちに身に着けている法学部卒、ロースクール修了生は、今後各々の組織で重宝する人材となり得ると考えています。

 

 

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

【筆者プロフィール】
鈴木 亜矢子

10代はドイツ、カナダに滞在。中央大学法学部を卒業、学習院大学法科大学院を修了し、法律事務所にてパラリーガルとして勤務。離婚やDVなど、女性特有の様々な法律問題に関わった経験から、ジェンダー法を学びたいと考え、お茶の水女子大学大学院に入学。在学中、アジア工科大学院大学に留学。現在は同大学院博士後期課程単位取得退学し、製薬業界で法務を担当する傍ら、都内の大学にてジェンダー法、法教育の講義を担当している。

 

 

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