ゼロから始める企業法務(第2回)/契約法務のための「ノウハウ」と「ツール」

皆様、こんにちは!堀切です。
これから企業法務を目指す皆様、念願かなって企業法務として新たな一歩を踏み出す皆様が、法務パーソンとして上々のスタートダッシュを切るための「ノウハウ」と「ツール」をお伝えできればと思っています。今回の題材は「契約」業務です。

 

企業法務にとって契約とは

皆様は、契約についてどの様なイメージをお持ちでしょうか?

まさに保守本流、一丁目一番地の、法務が行うべき業務、といったところでしょうか。

おおよそ、その通りなのですが、少し違います。私に言わせると契約は

事業部や経理等の関係各所と法務との共同作業」です。

 

契約書を上から下まで読めば分かりますが、契約書のなかで、ズバリ法務だけで作成できる個所は、定型的な条文(いわゆる一般条項)であり、あまり工夫の余地がありません。
一方で、ビジネスに関する条項やお金の流れに関する条項は、個々のビジネスによって千差万別です。

事業部の協力が無いと作成できません。また、経理との連携が無いと、契約締結後に、会計/税務的な問題でビジネスが立ち行かなくなることもあります。

 

つまり、契約書は、法務だけで完結できる仕事ではないのです。

 

逆に言うと、事業部や経理とうまく連携すれば、法務の実務経験が無くとも、及第点の契約書を作成することは可能です。

ということは、一人で悩む必要は無いのです。ビジネスサイドや経理に、あなたを助ける人が必ずいます。

では、うまく連携するにはどうしたらいいか。チームで仕事するときに使う、「ヒアリング」と「可視化」の手法を使えばいいのです。特別なスキルは不要です。必要なのは、「ビジネスサイドや経理等、関係各所に敬意を払って話を伺う」姿勢と心構えなのです。

 

ノウハウとしての「ヒアリング」と「可視化」

契約業務におけるヒアリングとは、「契約の対象となるビジネスを知る」ことに尽きます。
会社によっては、「法務は事業部よりもビジネスに詳しくなれ!」と言われるほどです。

但し、1 から 100 まで知る必要はありません。法務として大事なヒアリング事項は、

① 契約の背景、目的
② 商流(お金の流れ)
③ 役割分担
④ 権利義務

 

以上の 4 つです。①でビジネスのゴールを、②でビジネスのスキームを、③で双方の to doを、④で当社が行使したい権利や相手方に履行させたい義務を知ることができます。

その他、締め支払いや契約期間等、細かなヒアリング事項もありますが、大枠としては上の 4 つをヒアリングすることで、ビジネスのキモをつかむことができるのです。

次に、ヒアリングした事項を自らが理解し、契約書作成に活用し、場合によってはマネジメント側に説明する際に非常に役に立つのが「可視化」です。まさに百聞は一見にしかず。

ビジネスを図で表すことにより、言葉で説明するよりも、多くの情報を正しく理解し、伝えることができます。これについては、法律を勉強した皆様は、事例を理解するため、丸、四角や矢印等で「図」を書いたことがあると思います。まさにアレです。実務では可視化の手法として「スキーム図」を用いるのが一般的です。

なので、皆様が法律を勉強した際に用いた手法が、実務でも役に立つのです。なお、ヒアリングの際は 5W1H を意識することが大事ですが、契約のヒアリングにおいては、特に「Why」を意識すると良いと思います。「なぜ?」を意識することで、法務側はより正しくビジネスを理解することができ、ビジネス側も、ヒアリング前に抱えていた思い込みが解消されることもあるからです。

 

ツールとしての「モデル契約書」

次に、いよいよヒアリングした事項を実際の契約書に落とし込むのですが、会社にある「雛形」で対応できないビジネスになると、ゼロから契約書を起案しなければなりません。これは、法務実務未経験者にとってハードルの高い作業になります。でも、解決策はあります。

Web で検索してみてください。皆様が身を置く業界のモデル契約書が見つかるかもしれません。私が身を置く IT 業界を例に取ると、私が条文を探すときは、しばしば JISA(情報サービス産業協会)の Web サイトに掲載されている「モデル契約書」を利用しています。

このサイトには「開発業務委託基本契約(請負/準委任)」のモデル契約書や、「ASP(SaaS)サービスモデル利用規約」のモデル規約があり、こちらを利用することで、IT ビジネスであれば、ゼロからの契約書起案にも対応できます。

さらに、こちらのサイトには、モデル契約条項の解説まで記載がありますので、読み込むことによって、短期間での契約書条文の理解に役立てることができます。

NDAについても、経産省からモデル契約が出ていますし、
さらに、著作権周りについては、文化庁から「誰でもできる著作権契約マニュアル」や、「著作権契約書作成支援システム」というツールまで出ています。

この様に、雛形として使えるモデル契約書は、Web 上に散在しているので、うまく検索できれば、会社に雛形が無くても困ることはありません。あとは、これらのモデル契約条文をヒアリングした事項に当てはめて、または実態に合わせたカスタマイズをして組み込んでいけば、契約書実務が未経験の方でも、ビジネスの実態を反映し、かつ必要十分な法的要件を満たす契約書を作成することができるのです。

また、一般条項については、慣れてきたら、モデル契約書でよく使う条文を抜き出し「モジュール(部品)」化して、データベースとして保存しておくと良いです。例えば「損害賠償」条文を例にすると、

 

 

① プレーンな損害賠償条文例
② 現実に発生した通常の損害を賠償する条文例
③ 損害賠償の金額に上限を設ける条文例
④ 合理的な弁護士費用も併せて賠償する条文例
⑤ 逸失利益も賠償する条文例
⑥ 損害賠償の他、違約金の定めがある条文例

 

以上の様な条文例を保存しておき、状況に応じて「モジュール」として組み込んでいけば良いのです。私としては、契約書を、ビジネスに関する約束事を一つ一つ規定した「モジュール」の集合体と考えれば、契約書実務が未経験の方でも、気負うことなく業務に取り組めるのでは、と思っています。

※もちろん契約書が「法的拘束力がある文書」であることは理解した上で・・。

 

いかがでしたでしょうか。皆様がこれから取り組む業務に少しでもお役に立てるヒントがあれば幸いです。次回は、契約業務を少し深掘りし、契約書を起案、審査する際に大事な、「多面的な視点」について、記事にできればと思います。

 

 

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

 

【筆者プロフィール】
堀切一成

私立市川中学校・高等学校、専修大学法学部法律学科卒業。
通信機器・材料の専門商社で営業に 7 年間従事した後、渉外司法書士事務所勤務を経て法務パーソンに転身。
JASDAQ 上場 IT ベンチャーでの法務マネジャー、東証一部上場インターネット広告会社での法務マネジャー・経営企画、スマホゲーム開発会社での法務マネジャーに従事した後、現在は MaaS サービス提供ベンチャー初の法務専任者として日々起こる法務マターに取り組んでいます。

 

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