ベンチャー法務の特徴と心構え(第4回:企業とSNS③~その他の諸問題~)

はじめに

企業とSNSシリーズも第3回目となりました。第1回は、近年話題になっている「炎上動画」の問題を、第2回は、注意すべき景表法違反の問題を事例形式で検討してきました。今回は、SNS利用時に発生し得るその他の諸問題を肖像権侵害を中心に検討していきます。

 

SNS利用時に発生しうる諸問題

(1)肖像権侵害

まず、考えられるのが肖像権の問題です。SNS投稿時に写真を一緒に投稿することがあると思いますが、その際に人が映り込んでいる場合は、必ず肖像権周りの権利処理が適切になされているかを確認する必要があります。

肖像権は、判例の蓄積による不文律として認められてきた「権利」であり、「みだりに自己の容貌等を撮影されない自由」を内容とするものと理解されています。

したがって、基本的には、被撮影者の「明示もしくは黙示の承諾」がある場合、肖像権侵害の問題は生じないものといえます。

 

ア 社外の人間に対して

例えば、会社のイベントなどで社外の人間が来社している様子を撮影する場合、これを公開する予定があれば、あらかじめ本人の了解を取っておく必要があります。常識とも思われる行為ですが、関係性が濃密になってくると、ついつい馴れ合いが生じてしまいがちです。日本においては、親しい人との間で書面を取り交わすことが「他人行儀で嫌だ」という風潮があります。しかし、後のトラブルを防止してお互いに良い関係を継続させるためにも、書面の取り交わしをすることをお勧めします。

このような微妙な問題に切り込んでいくのも、法務担当者の職務の一環です。このケースに限らず、現場サイドの部門は先方との関係性維持を重視するため、このような手続を省きたがる傾向にあります。しかし、このような場合に「あえて空気を読まない」ことも時には必要となります。もっとも「ただの堅物」と思われてしまうと以後の仕事がやりにくくなってしまいます。これを避けるために事前あるいは事後に適切なフォローを入れておくことも忘れないようにしたいところです。

 

イ 従業員の肖像権?

では、写真に映り込んでいるのが自社の従業員の場合はどうでしょうか。

考え方は社外の人間と同じで、被撮影者に明示または黙示の承諾があったかが問題となります。従業員の場合は、通常の職務遂行過程で撮影を行う場合には、黙示の承諾があったと認定されるケースもあるでしょう。肖像権について「一定のレベルで」あらかじめ放棄していると考えることもできます。

しかし、そうだとしても、いかなる態様における撮影・公開も認められるというものではありません。たとえば、撮影した写真の一部を切り抜いて、まったく別の用途に使用した場合、そのような態様・用途に対しては承諾が及んでおらず、肖像権侵害と判断されることも考えられます。また、退職後に当該従業員が写り込んだ写真を使用する場合は、特に注意をすべきです。退職の理由などによっては「以前その会社に在籍していた」という事実を秘匿したい従業員も一定数いると思われ、トラブルに発展しやすいためです。

以上みてきたように、肖像権に関して「従業員だから許される」という考え方は非常に危険であり、基本的には社外の人間と同様に、事前の承諾を得る必要があると考えているべきです。

具体的には、入社時の各種誓約書面のなかに「業務上撮影する写真等の取扱い」などの項目を設け、①使用目的②使用の範囲③適切な取扱を行う旨④退職後の取扱といった取り決めを行い、そこでカバーができないケースについては、個別の承諾をとる必要があります。

もっとも、書面さえとっておけば良いということではありません。書面の内容が一方的に著しく従業員にとって不利な場合は、当該書面自体が公序良俗違反として無効と判断されることも考えられるからです。したがって、書面作成は専門家のアドバイスを受けながら進めていくと良いでしょう。

 

(2)プライバシー侵害

プライバシー(権)は、私生活上の事柄をみだりに公開されない自由、そこから転じて、広く自己の情報をコントロールする権利を内容とすると理解されています。そう考えると、肖像権はプライバシー(権)の一部であると理解することもできます。

写真等の撮影について、被撮影者の同意が得られていてもそれが従業員のプライバシーを侵害するものでないか、という点には注意を払う必要があります。

近年ベンチャー企業などを中心に、会社の飲み会やサークル活動などの写真を公開しているケースを目にしますが、業務時間外に行われているものである以上、「そのような場所に参加している」という情報はプライバシー(権)による保護の対象になると考えられます。そのことを十分に理解し、公開前に承諾を得るなど適切な対応を行うよう心がけましょう。

 

(3)なりすまし投稿の問題

近年、アカウントの乗っ取りや成りすましによる投稿の被害が増えています。企業の場合、会社の公式見解と異なった内容が拡散されることで、風評被害やディブランディングの危険があります。

乗っ取る方も、日々手口をアップデートしているため、抜本的な解決はなかなか難しいのが現状ですが、日頃からでき得る対策を行っておくことは、後の責任問題を防止するためにも非常に重要なことです。具体的には、パスワードの管理を徹底する、定期的にパスワードを変更する、推知しにくいパスワードを設定する、定期的にエゴサーチを行い早期に異変に気づける体制を築くなどです。

 

おわりに

これまで、3回にわたって企業とSNSに関する諸問題を検討してきました。次回は本シリーズのまとめとして、これらの問題に対応するための効果的なSNSポリシーの作成について、実際の条項例なども交えながら検討を行っていきたいと思います。

 

 

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

 

【筆者プロフィール】
小俣 浄

慶應義塾大学法学部法律学科卒
早稲田大学ロースクール修了
大手ITベンチャーグループの法務担当として契約法務、紛争対応をはじめ、新規事業立ち上げ、M&A、知的財産戦略、第三者割当増資、組織再編など幅広い業務を経験。
現在は、自ら創業した会社の経営を行うほか、専門学校でビジネス法務やファイナンスの講義を担当するなど、後進の育成にも力を入れている。
思い立ったらすぐに行動する性格。フットワークの軽さとノリの良さが強み。

 

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