法務の鉄人(5)『法務として“染まりきらない”ことの大切さ』

これまでは、会社の事業を知ったり、あなたの存在価値を高める話をしてきた。

今回は、「染まりきらない」話をしたい。

観点としては2つ。

1つは「新鮮な感覚」である。
どんな大きな企業であっても、一般的な感覚からすれば、「どうして?」と思うことがある。実はそこにその企業の根本的な問題や弱点が潜んでいることは少なくない。ところが、その企業に長くいるとその感覚が麻痺してくる。
その違和感は、忘れてはならないし、記録、出来れば共有すべきである。

その違和感かどうかはわからないが、業界、会社、部署と、そこには独自のルールや常識があることがある。それが時に、業務で重要なポイントになることもある。これが2つ目だ。

 

厄介なのは、それが法的に黒だったり、グレーであるにも関わらず、会社や部署はそれを問題視せず、漫然と状況を変えない場合である。

 

例えば、贈答や接待(ギフト&エンターテイメント)は、その金額、相手方、国、その管理の仕方によっては、反腐敗行為として数十億円、数百億円の制裁金、解決金を会社が払うことにもなりかねない。

今や、ABC(ABACともいう)は、日本の企業にとっても、重要なキーワードとなっている。
ABCとは、Anti-Bribery, Corruptionのこと、すなわち反賄賂、反汚職、腐敗のことである。

2016年には、日本の光学機器メーカー、オリンパスのブラジル子会社がブラジルにおける医療機器の販促などのために、ブラジルの医師や、医師を通じて役人に賄賂を送っていたことが米国当局から摘発され、700億円以上の罰金や課徴金を支払ったケースがあるし、近年は日系企業の摘発事例が増えている。

 

個人情報の取り扱いの問題もある。
今年、Googleのパーソナライズド広告がGDPR違反だとして、フランス当局から62億円の罰金を課された。

アドソリューション(ネット広告)ビジネスでは、個々に「刺さる」広告を打てるかが非常に重要だ。例えば、Aさんが「スポーツ好き」であるという情報を持っているX社と、「スタジアムでのサッカー観戦好き」という情報を持っているY社では、広告の精度が全く異なる。しかし他方で、広告の精度を上げるためには、より詳細な純度の高い個人情報の取得、その管理が必要となってくる。

GDPRは、個人情報の取り扱いや越境移転に関する規制であるが、こうした高度な個人情報は厳格な取り扱いが求められるのであり、そうでないものと同じ扱いをすることは許されない。事業の判断だけでは、なかなかそこを峻別して考えることは難しく、法務やコンプライアンス、あるいは情報管理の部署がしっかりと管理する必要がある。

 

もう1つ、法改正の話をしよう。
古物営業法という業法で規制される古物商という許認可がある。
簡単にいえば、中古品の買い取り、販売を行うビジネスに必要なものであり、例えば、BOOK・OFFやブランディアといった会社や、中古自動車販売会社、街の金券ショップ、リサイクルショップ、質屋等が持っている。

許認可としては非常に取得しやすい部類であるため(中古自動車を扱う場合を除く)、大きな会社はもちろん、個人事業主で取得している方もかなり多い。

この古物営業法及び施行規則が最近、改正された。
ここでは改正のポイントとして2つ挙げることにする。

1つは「主たる営業所」の届け出が必要となったこと

これはこれまでなかった手続きである。古物商の免許保有者には特段のメリットはない話なのだが、各都道府県における主たる営業所を遅くとも2020年の4月24日までに公安委員会に届け出を行わないと、古物商の免許自体が取り消されてしまう。一度取り消されれば、古物商の免許の再取得には時間がかかり、古物商のビジネスを休業する必要も出てくるのだから重要だ。

 

2つ目は、本人確認の話。本人確認の厳格化である。
元々古物商は、盗品等が流通することを防ぐために制定されたものであるが、取引量の増加、とりわけネットにおける取引増加に伴い、本人確認が厳格化された。

 

こうした情報は、当局から親切に案内があることもあるが、場合によってはシステムの導入など、時間と費用がかかるため、「すぐに対応」は簡単ではない。

上記の問題はいずれも、会社の中では仕組み化、習慣化し、ついうっかりが起きやすい事例である。このようなケースが起こらないようにするために、法務/コンプライアンス担当が心掛けなければならないことは何か。

 

 

1、まずは、現状を当たり前だと思わないことである。これは、入社直後の方が鋭敏な感覚である。疑問はまずは、自分で調べて、その上で、信頼できる人にぶつけてみよう。

2、日頃から社内外の情報にアンテナを立てていること。

3、現場の実態を知るということ(現場では管理部門が想定しているように動かないことはよくある。特に遠方に事業所がある場合は要注意)

 

 

そして、何らかの対応が必要となった場合、対応方法の基本は以下の通りである。
➊ 現状を把握する。
これをいかに正確にやれるかがこの後に繋がっていく。

➋実態を踏まえてルール作り。
重要なことは、取締役会で承認するなど、会社やグループ全体を巻き込むこと。株主に体制を見せるという感じになると進めやすい。

➌導入・教育
しっかりと全員が理解して導入すること。

➍モニタリング
継続的にチェックすること。

➌、➍を繰り返し、定期的に➊を見直すことも重要。

今回はここまで。会社のクオリティをあげるために、「染まりきらない」ことも重要なのです。

 

 

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

 

【筆者プロフィール】

Harbinger(ハービンジャー)

法学部、法科大学院卒。
司法試験引退後、株式会社More-Selectionsでインターンを経験。

その後、稀に見る超ブラック企業での1人法務を経て、スタートアップ準備(出資集め、許認可等、会社法手続き、事業計画等)を経験。転職した後、東証一部上場企業の法務部で、クロスボーダーM&Aを50社ほどを担う。また、グローバルコンプライアンス体制の構築に従事。

現職はIT企業のコンプライアンス担当。大学において、ビジネス法の講師も行う。

 

 

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