『机上で論ずる企業法務』:第3回 法務業務を分類する

企業は「権利」と「義務」で出来ている

前回のコラムでは法務を、「企業における権利義務を管理する仕事」と定義し、法務の理想形とは、「企業における権利義務が完璧にコントロールされている状態を創ること」としました。

今回のコラムでは、企業の営みにおいて“権利義務を管理する”ことの意義を考えていこうと思います。

 

一般的に、企業は、「ヒト・モノ・お金・情報の集合体」であると言われています。

これらは企業を構成する経営資源を表したものになります。

 

しかし、“法務の目”から見れば、企業とは、「権利・義務の集合体」に他なりません。

 

すなわち、「ヒト」とは、厳密には、

【特定のヒトを指揮命令下で使用する権利】や

【委託した特定の業務のためにヒトを使用する権利】であったりしますし、

 

「モノ」は、

【モノを所有して使用する権利】や

【モノを借りて使用する権利】、

【モノを借りて転貸する権利】であったりします。

 

「カネ」は、

【お金の所有権】、

【お金を返してもらう権利】、

【お金を借りる権利】と言えますし、

 

「情報」は、

【情報を保有して使用する権利】、

【他人が保有する情報を閲覧して使用する権利】

といった形で捉えることが出来ます。

 

これらに加えて、

【特定の事業を行う権利(許認可)】や、

【各種法令による義務】、

【取引先との契約上の義務】、

【社内規程に基づき自社の社員に対して負う義務】

などの権利義務が合わさった存在が企業と言えます。

 

そして、この見方をベースに企業の営みを説明すると、以下のようになります。

 

 

➊商品・サービスの開発

企業は、保有している「ヒト、モノ、お金、情報」にまつわる“権利”を活用して、商品・サービスの開発を行う。

➋クライアントへの販売・提供

企業は、開発した商品・サービスを提供する契約を締結し、購入者から対価=お金(にまつわる“権利”)を得る。それに伴い、購入者に対し、契約上の一定の“義務”を新たに負う。

 

➌人材採用・物品購入・サービス利用等

企業は、商品・サービスの対価として得たお金を使い、新たな「ヒト、モノ、情報」にまつわる“権利”と交換する契約を締結する。同時に、契約に伴う一定の“義務”を新たに負う。

➍新商品・サービスの開発、社内環境の整備

企業は、新たに入手した「ヒト、モノ、情報」にまつわる“権利”を活用して、新たな商品・サービスの開発や社内環境の整備等を行う。

 

※これらの➊~➍を行うにあたり、企業は、法令や過去に締結した契約、社内規程等から生じた“義務”による制限を受ける。

 

 

こうして見てみますと、企業の営みとは、ひたすらに、

「権利義務の取得」、「権利の行使(リソースの活用)」、「義務の遵守」

の繰り返しであるとわかります。

そして、法務とは、こうした権利義務の動きを管理する仕事ということになります。

 

権利と義務の性質上、具体的には、以下の3つの類型に分類されることになりそうです。

(1) 権利義務の取捨選択

(2) 義務履行の管理

(3) 権利行使の管理

 

次回以降、これらの業務が、我々が普段慣れ親しんでいる契約法務、法律相談、総会対応、コンプライアンス対応、訴訟対応といった業務にどのように落とし込まれていくのかを考えて行きます。

 

 

==========

本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

【筆者プロフィール】
齊藤 源久

大型WEBメディアを運営するIT企業にて法務責任者、事業統括マネージャーを担当した後、行政書士事務所を開設。ビジネス法務顧問として、数十社のベンチャー企業の契約法務や新規事業周りの法務相談を担う。2014年より、企業の法務部門に特化した総合コンサルティング(組織構築・採用・IT導入)会社、株式会社More-Selectionsの専務取締役に就任。法務担当者向けの研修の開発・実施、WEBメディアの編集、企業の法務部への転職エージェント業務、リーガルテック関連の新規事業策定などを担当している。これまで、入社前後の新人法務担当者のべ150名超にマンツーマンで研修を施した経験があり、感覚的・直感的に行われがちな法務業務を言語化・体系化し教えることに強い関心を有している。

 

 

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