リーガル担当の皆様、その説明、本当に伝わっていますか?

このコラムでは、民間企業でビジネス経験のある法務担当者が、企業法務の世界に関心のある方向けに、初めてでも分かりやすい内容に噛み砕いてノウハウを公開していきます。

はじめに

民間企業の法務担当者がカバーする領域は多岐にわたり、業務内容に応じて扱う法律も全く異なります。共通して言えることは、企業法務の仕事の目的とは、ビジネス上の利益獲得を実現するためのトラブル防止、そして万が一トラブルが発生したときの損失最小化であるということです。そのため、法務部員には、営業職のような利益に直結する数値目標がありません。ゆえに成果がみえづらく、何をすれば企業の利益を守れるのかを常に考えていないと、頭でっかちなだけで実践的でないアドバイス・必要以上の事務負担をしてしまいがちです。
本コラムは、ビジネスの現場で法務担当者が本当に役立つためにはどうしたらいいか、という視点でお伝えしています。今回は、企業法務担当が営業、企画、開発の方など依頼者と関わる場合の対応方法の注意点とコツについてお伝えします。

 

法律に誰でもアクセス可能な世の中で、法解釈をしているだけでは役に立たない

法曹界での仕事や企業法務の仕事をしたいと考え毎日猛勉強を重ねている方たちには、少しショッキングな事実かもしれませんが、いまの時代、ウェブ検索やメールなどのコミュニケーションツールの発達により、もはや「法律は誰にでも調べられる」状態になっています。いわゆる六法の基本的な前提や法律的な論理思考が必要となる場面も、もちろんありますが、あらゆる情報が氾濫している世の中において、単に法律を知っている・法解釈が出来るだけでは、ビジネスパーソンとして誰かの役に立つことは難しいのが現状です。さらに、将来的には人工知能(AI)の能力向上により、調べるプロセス自体が自動化されていく可能性があります。
例えば、B to Cのビジネスにおいてキャンペーンを実施する際に景表法観点から法律違反にならないかどうか検討するシーン、B to Bのビジネスにおいて取引先との業務委託契約を検討するシーンにおいて、「法律を調べる・解釈を伝える」だけの法務
担当の対応はこんな感じです。

<キャンペーン実施検討>
・ 事業担当からの依頼を受けて、キャンペーン内容を聞く
・ キャンペーンのラフを見て景表法、運用基準その他規約などを一通りリサーチ
・ 景表法に抵触しなければ問題ない、抵触リスクがあれば「できません」と回答し、対応を終了

<契約レビュー>
・ 事業担当から契約レビューの依頼を受け、ビジネス内容について不明点があるものの、入手した契約書原案を逐条ベースでチェック開始
・ 契約条文の中の損害賠償額の制限(詳細は過去コラムを参照)など、相手から制約やアンフェアな条件が課されていることに気付く
・ 大学やロースクールで学んだ民法の知識を駆使して、判例や学説、適用される特別法について網羅的に調べ上げ、一般の人たちには難解な論文さながらの長文メールを返信
・ 専門家として法解釈についてこんなに深く考えられて、自分も成長したな、と満足

 

何がいけないのか?必要なのはビジネス理解、分析、コミュニケーション、提案力

上記の対応の何が残念かというと、まずビジネス内容を十分理解せず、法律から思考をスタートさせてしまっている点です。企業法務に求められるアウトプットは、たしかに法的に問題のある点を発見し指摘することに間違いありません。ですので、上記の対応が間違っているわけではありません。しかし、いずれの例にも共通して欠落していることがあります。何かというと、依頼者の意向理解、ビジネスに即した具体的なシーンの想起、依頼者が理解できるまでに落とし込んだコミュニケーションと提案が不足しているのです。結果として、法律をしっかり理解した上でアドバイスしたつもりでも、情報還元を受ける依頼者の立場からは、「理屈の詳細は分からないけど、結論としては、自分達がやりたいことは法律違反らしい。できないらしい。」「読みづらくて長い文章が返ってきたけど、どうやら進めていいらしい。」→法務部の人たちの頭の中って、よく分からないな・・・という印象になっているのです。非常にもったいないことです。
ではどうすればいいのか?ポイントは以下の視点を持つことです。(そもそも依頼内容の趣旨を十分把握できている状態かどうかすら分かっていないこともあるため、確認目的も含め、まずは事業担当へ質問をしてみましょう。)

➊ ビジネス構造を把握する
質問例「このサービスはどんな仕組みになっているのですか?」「顧客層、顧客数、商品の内容、収益の規模感などが分かる資料などありますか?」

➋ 事業担当の意向を理解する
質問例「この事業のミッションを達成するための法務リスクを検討したいのですが、何がKGI、KPIとなっているのでしょうか?」「何が収益課題になっているのでしょうか?」「この施策がXXという課題を解決するためのPDCAとして回っているとい
うことですね?」

➌ 上記➊➋を踏まえて、案件の法的リスクを検討する
この時に、法務担当として培った専門性をフル活用して法律リサーチ、解釈検討を行います。

➍ 上記➌で洗い出した法的リスクが、上記➊➋のビジネスを実現する過程でどのような影響を与えるのか想像し、分析する
例え法的リスクがあったとしても、そのリスクの発生確率・規模・リスクへの対処方法の有無次第で、依頼者へコメントする内容は変わってきます。例えば、自社の損害賠償上限が無制限だったとしても、そもそも自社がサービスを受ける立場であり相手に損害が発生することが想定されない場合、また、案件に関わる情報が第三者へ開示されないため現実的にはトラブル発生確率が低い場合があります。法令違反である可能性が高い思われる場合には、違反した状態で事業を進めていった結果として、どのような経済的損失、制裁、レピュテーションリスクがあるのかを考えます。

➎ 上記➍で分析した結果として法務リスクが顕在化する可能性が高い事項から優先的に、具体的なケースについて依頼者へ還元する
伝え方としては、なるべく具体的なケースに落とし込んで、依頼者がリスクを身近に感じられる状態にすることがポイントです。例えば、契約違反として相手方が起因の納期遅延が起きた場合、および自社から相手方に提供した顧客の個人情報漏洩があった場合について、前者と後者では、損害の規模やレピュテーションリスクが全く異なります。したがって、「契約違反」や「損害賠償」といった抽象的概念にとどまることなく、固有名詞や具体的な事業展開について言及しながら依頼者へ情報還元を行うことが大切です。

❻ 法令違反でNGを出すだけでなく、代替案を提案する
相談内容が法令違反である場合には、Noということが法務担当の仕事です。しかし、事業推進観点として、Noと言われること自体は歓迎されることではありません。できるだけ、実施可能な代替プランを用意しましょう。上記➊と➋がきちんと把握できていて、収益貢献したいという意識さえあれば、アイディアが湧いてくるはずです。これが出来るようになれば、事業担当との一体感が生まれ、人間関係を築くきっかけになります。ビジネスマンとしての価値が光る対応になります。

 

まとめ

まとめると、企業法務担当者は専門性だけあって足りるものではなく、一人のビジネスパーソンとして協働し、具体的に考え、分かりやすくプレゼンし、依頼者を巻き込みながらビジネス推進に貢献することが求められます。法律に特化した学習をしてきた方にとっては、最初はなかなか要領を得ないことかもしれませんが、複数の人たちとプロジェクトを進めたり、一人では出来ない仕事を実現するためには、本コラムに記載したスタンスは非常に大切なことです。ぜひ、ビジネスパーソンとして、楽しみながら企業価値の向上につながる法務アドバイスをしていきましょう。
これからも、ビジネス目線で、企業にとって本当にメリットのある法務部員として活躍できるような豆知識や考え方を公開していければと考えています。

 

 

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応下さい。

 

【筆者プロフィール】
高橋 ケン

慶應義塾大学卒。

大手メーカー法務部にて国際法務(日英契約業務を中心に、ビジネス構築、社内教育、組織再編、訴訟予防等)、外資系金融機関にて法人部門の企画・コンプライアンス・webマーケティング推進業務を経験。現在、大手ウェブ広告企業の法務担当者として、データビジネス最前線に携わる。

企業の内側で法務に携わることの付加価値とは何か?を常に問い続け、「評論家ぶらない」→「ビジネスの当事者になる」→「本当に役に立つ」法務担当者の姿を体現することを目指す。

シンプルに考えることが得意。

 

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