『机上で論ずる企業法務』:第2回 「法務」を再定義する

法務部にランダムに降りかかる業務の集合体として捉えられがちな『法務』。それゆえに、『法務』という概念は、多くの法務担当者の中で、複雑で統一性がなく、全体像の見えない混沌とした概念になってしまっています。
本コラムでは、この『法務』の概念をシンプルに再定義した上で、新たなカテゴライズを施しながら、個別の法務業務をマッピングし、理想の法務を追求する試みを行っていきます。

【過去記事】
・第1回 法務の理想形を語ろう

「法務」とは何か?

前回のコラムでは、多くの法務担当者が仕事に対して漠然とした不安を抱えていて、それを払拭するために、まずは、「法務の理想形」を示した、新たな仕事の定義を作る必要があるというお話をしました。

 

つまり、「法務とは何か?」という問いに正面から向き合う必要があるということになります。

 

それに先立ち、ふと気になって、同じバックオフィス業務である「人事とは何か?」を調べてみました。

 

“ヒト”という経営資源を最大限に有効活用するための機能

(出典:NOC 人事部とは?人事担当者の仕事とは?

 

「ヒト、モノ、カネ・情報」という経営資源のなかで、最も重要とされる「ヒト」を管理する仕事

(出典:カオナビ 人事部とは? 企業における人事部の役割、仕事内容について

 

 

この他にも様々な文献・サイト等をあたってみましたが、経営資源である「ヒト」に着目し、それを管理する仕事として定義するものがほとんどでした。

 

ついでに「経理とは何か?」を調べてみますと、

 

各部門から上がってきた情報を数値化して、経営層の意思決定のために提供すること

(出典:フリーウェイ経理 経理とは何か?

 

会社の事業をすべて数値化させ、どのようなお金の動きがあるのかを見える化させる仕事

(出典:BOXILマガジン 経理とは

 

など、会社の事業を数値化して経営に関する意思決定のための情報提供を行うというニュアンスの定義が多くありました。

 

こうして見てみますと、「人事」も「経理」も、その定義の中に、仕事がどこに向かって行くのかという“ベクトル”が備わっている印象です。

さて、いよいよ我らが、「法務」の出番です。

 

企業活動に伴う法律に関連した業務

(出典:Somulier 法務とは何か?法務の具体的な仕事内容と理想像に迫る

 

企業活動に伴い発生する法的業務

(出典:JOB-Q 【法務とは】法務の仕事内容や必要な資格についてご紹介します

 

企業経営に関わる法律業務全般

(出典:企業法務バイブル立ち読み

 

他にも多数ありましたが、やはり、“法律”との繋がりで定義づけが為されていることが圧倒的に多い印象でした。

そして、その中には、仕事がどこに向かって行くのかという“ベクトル”は見出せません。

多くの法務担当者が抱える漠然とした不安の要因はやはり、ここにあるように感じます。

 

かく言う私も長年、法務とは「企業内における法律関連業務を行う仕事だ」と考えていた口です。

そして、そのように考えていた時期、日々の契約書審査に追われる中で、度々頭をもたげていた疑問がありました。

 

なぜ、契約書審査は法務の仕事なのだろうか?

 

という疑問です。

 

 

契約法務を行う際、たしかに、民法・商法・民事訴訟法等の一般法を意識したり、各種法令に違反した取り決めが為されていないかという視点でレビューを行わなければならない場面がありますが、

 

基本的には、契約書に書かれている内容を国語的に理解し、各部署とコミュニケーションを取りながら、自社としてどのような取引を行いたいかを把握し、相手方との力関係を念頭に、落としどころを見つけるという“法律以外”の要素のみで片付くことが圧倒的に多いのではないでしょうか。

 

自社の雛形がきちんと作られている会社であればなおさらそうだと思います。

 

なぜ、このような、大部分が“法律以外”の要素で片付く業務が、法律相談やコンプライアンス対応といったわかりやすい“法律関連業務”と並んで、法務担当者のメイン業務となっているのだろう?

 

こうした疑問に長年、これと言った解を持てずにいました。

 

 

しかし、「法律関連」という点に共通項を見出すのをやめ、“契約書”と“法律”に共通するとあるシンプルな特性に新たに着目したときに腑に落ちるところがありました。それは、

 

権利・義務を発生させる

 

という特性です。

 

法律により企業活動が制限を受ける場面は少なくありませんが、その一方で、法律を通じて与えられる許認可等により一定の企業活動が解禁される場面もまた多いと思います。

それは、企業が法律により“義務”を課せられ、法律により“権利”を与えられることに他なりません。

 

契約書も同様です。

 

契約書上の意思の合致を通じて、相手方企業に対し一定の行為を行う(あるいは求める)“権利”を得ると同時に、相手方企業に対し、一定の行為を行う(あるいは行わない)“義務”を課せられる。

 

このような観点で考えると、コンプライアンス対応は、企業が法律により課せられている“義務”を管理することと言えますし、法律相談も同様に“義務”の管理の一環になります。

訴訟対応・紛争対応は、“義務”の履行や“権利”の行使を管理することと言え、契約法務は、企業が取引先から得る“権利”、負わせられる“義務”の取捨選択となります。

 

その意味で、法務担当者は「法律」を扱うプロというよりも、「権利義務」を扱うプロといった方がしっくり来る存在なのではないでしょうか。

 

だから、このコラムでは、

法務=企業における権利義務を管理する仕事

と定義しようと思います。

 

そして、このように定義した場合、法務の理想形とは、

企業における権利義務が完璧にコントロールされている状態を創ること

となります。

 

次回のコラムでは、その意味するところをもう少し掘り下げていこうと思います。

 

 

 

==========

本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

【筆者プロフィール】
齊藤 源久

大型WEBメディアを運営するIT企業にて法務責任者、事業統括マネージャーを担当した後、行政書士事務所を開設。ビジネス法務顧問として、数十社のベンチャー企業の契約法務や新規事業周りの法務相談を担う。2014年より、企業の法務部門に特化した総合コンサルティング(組織構築・採用・IT導入)会社、株式会社More-Selectionsの専務取締役に就任。法務担当者向けの研修の開発・実施、WEBメディアの編集、企業の法務部への転職エージェント業務、リーガルテック関連の新規事業策定などを担当している。これまで、入社前後の新人法務担当者のべ150名超にマンツーマンで研修を施した経験があり、感覚的・直感的に行われがちな法務業務を言語化・体系化し教えることに強い関心を有している。

 

 

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