ベンチャー法務の特徴と心構え(第1回)

はじめに

第1回は、ベンチャー企業における法務業務の代表的な特徴を4つピックアップし、ベンチャーの法務担当者がもつべき心構えについて考えていきます。

 

特徴1 会社は3ヶ月で生まれ変わる

ベンチャー企業は、日々新しい商品サービスを生み出し、PDCAサイクルを高速で回していく必要があります。不採算事業にコストや人的リソースを投入する余裕はないため、サイクルは一般的な企業と比べて速くなる傾向にあります。

そのため、3ヶ月前の商品やサービスとは内容が全く変わっており、これに伴い組織も全く別物になっているということも珍しくありません。創業間もないベンチャー企業では、そのサイクルはさらに短くなるでしょう。

このような状況で取り残されないためには、社内での情報収集を怠らない姿勢が大切です。

降りてくる情報をただ待つのではなく、「現場で何が起きているのか」「経営者はいま何を考えているのか」を常に考えて行動する必要があります。そのためには、日頃から自分の下に情報が集まりやすい環境を整えておくことが大事です。

とかく、事業部と法務担当者が所属する管理部門の間では情報のギャップが起きがちです。事業部側が些細なことでも気軽に相談できるよう、日頃の対応を丁寧かつ誠実に行うこと、時には仕事を離れてコミュニケーションの場を設けること、このような小さな積み重ねによって「相談しやすい法務担当者」と感じてもらえば、自然と情報が集まってくるでしょう。

 

特徴2 業務が広範かつ横断的

ベンチャー企業では、法務担当者の人材が不足していることが多く、場合によっては一人で法務業務の全てを担当しなければならない場合があります。

法務部や法務ユニットがあれば、分業体制で業務を行うことができ、自分の役割に徹することができます。しかし、ベンチャー企業の場合は、なかなかそうもいきません。裁判対応などの法務色の濃い業務から、新規事業の立ち上げなどのビジネス色の濃い業務までをごく少数あるいは一人で回していかなければなりませんし、いつ何時全く条文も引いたことのなかった法律について意見を求められるか予想ができません。

だからこそ、日頃から幅広い業務に対応できるよう勉強を怠らない姿勢が大切になってきます。

法務担当者向けのセミナーや勉強会はたくさん開催されていますから、それを受講してもいいですし、場合によっては他社の法務の方と定期的に情報交換を行うことも有益です。

 

特徴3 先例がない

ベンチャー企業は、絶えず新しいビジネスを生み出しこれを育てています。したがって、法規制や先例のない領域が圧倒的に多く、業務を行うなかで適法違法の判断に迷うことが多々あるでしょう。このような場合に考えられる方法は3つあります。

一つは監督官庁に問い合わせる方法、二つ目は弁護士等の各種専門家の見解を仰ぐ方法、三つ目は多少のリスクを負ってでもGOを出す方法です。

まず、監督官庁に問い合わせる方法です。

もちろんこれで解決することもありますが、問い合わせに対して「個別の判断には回答できない。」との回答が返ってくることも多々あります。

また、問い合わせが端緒となって当局の規制が及ぶ可能性もゼロとは言い切れません。

また、弁護士等の専門家に問い合わせるのも有効な手段の一つですが、専門家は職業上グレーのものを白と言うことはできないため、どうしても保守的な判断になりがちです。では、このような場合の法務担当者の役割とは何か。

それは、自ら結論について大体の「あたり」をつけた上でケースごとのメリット・デメリットその可能性について的確な分析を行い、経営者の判断を適法かつ適正ならしめるための材料を用意することです。

この「だいたいのあたりをつける」という作業ができるかどうかが法務担当者としての力量が試される部分です。

「先例はないが、この法律の趣旨・目的、立法事実に照らすとこの事案ではこのような結論になるはずだ」という、ある種の「直感」がとても大切です。

もちろん、この直感は経験に裏打ちされたものでなければなりません。

そのような力を身につけるためには、やはり個別の事案に当たる時に、制度趣旨や立法事実からの論理の組み立てを意識すること、また現在法律の学習をされている方であれば、やはり趣旨目的からの理解が大事になってきます。

 

特徴4 ゴールが多種多様

ベンチャー企業の場合、会社の目指すべきゴールもまた多種多様です。すなわち、永続する企業を目指しているのか、それとも短期的なエグジットを目指しているのかによって、日頃の業務で心がけるべき点は大きく異なってきます。

例えば、企業の永続を目指しているのなら、短期的な利益よりも中長期的な安定のための施策や商品サービス開発に力を入れるべきで、短期的な利益のためにリスクを冒す必要性は小さいでしょう。

他方、エグジットを目指している場合、足元の株式時価総額、それに繋がる売り上げや経常利益といった会計的な指標についても目を配る必要があります。

このように、会社の目指すべきゴールは日頃の業務のあり方に直結してきますので、法務担当者こそ、経営者と同じ目線で会社を見ていなければなりません。

 

終わりに

以上、ベンチャー企業における法務業務の代表的な特徴とベンチャーの法務担当者がもつべき心構えについてでした。

次回以降は、複数回にわたってベンチャーにおける契約法務について検討していきます。

 

 

 

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

【筆者プロフィール】
小俣 浄

慶應義塾大学法学部法律学科卒
早稲田大学ロースクール修了
大手ITベンチャーグループの法務担当として契約法務、紛争対応をはじめ、新規事業立ち上げ、M&A、知的財産戦略、第三者割当増資、組織再編など幅広い業務を経験。
現在は、自ら創業した会社の経営を行うほか、専門学校でビジネス法務やファイナンスの講義を担当するなど、後進の育成にも力を入れている。
思い立ったらすぐに行動する性格。フットワークの軽さとノリの良さが強み。

 

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